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天啓

夜勤を終えて夜明け、アキトは小屋で唸っていた。


「うーん…うーん…」


「その唸り何回目か教えましょうか?」


眠いレインも流石に呆れていた。


「いや、ロッククライミングするのに道具が必要だがどう集めたものかって…」


「ロッククラ…?まぁ山登りの道具を港で次の船の時に依頼すればいいじゃないですか」


お金ならあるじゃないですかとアキトの預金と帝国領から出てる給与でなんとかすればいいとレインは語りアキトもそれしかないかと溜め息をつく。


「それとも奥様達にお願いします?確か頑丈な紐か鎖と鉄杭」


「流石にそこは現地調達させてもらう。神様が機嫌良くないと協力してくれないし」


「じゃあそれで決まり、もう寝ましょう」


大きく欠伸(あくび)をしてレインは横になる。アキトもそうだなと忘れない内に発注する内容のメモ書きを残して眠る。


夕刻前にアキトは目を覚まし時間の圧縮で今日の納品分の牛鬼を狩りに行く。

荒野まで一気に荷車の車輪を回して風のように駆け抜ける。目にも止まらぬ速さ、人の近くは通らないよう心掛けているが遠巻きには見えていて異常なスピードで何かが駆け抜けていき「またか」と微妙な反応をされていた。


(帰りに港に寄って先に発注掛けるか?)


そんな事を考えつつ見つけた牛鬼をバシッと加速した木刀で一撃粉砕、直ぐ様荷車に乗せる。


「いっちょあがり。楽な仕事だ」


来た道をまた加速して帰り先に森に帰り牛鬼を梟との取り引き場所に用意し更に港町までひとっ走り。

普通の人間にしてみて数時間以上の所要時間をものの数分でこなす。


(腹減りは問題だがやっぱり便利なんだよな)


拠点に入り加速を解除して港の管理人に発注書を提出する。

内容を精査され何に使うのか問われて山登りと素直に答えると管理人は怪訝な顔をして頬を掻く。


「どの程度の山か知らんが登るなら本当に沢山必要になるし下手したら事前に登らねば杭も打てぬぞ?」


「…あ」


縄を掛けるにも先に登る必要があると言われてアキトは呆けた声を漏らす。


「空でも飛べれば話は別だが…まぁ発注はしといてやる。金はあるんだろう?」


アキトは手持ちの金を旅行鞄を呼び出して取り出し支払う。


「金持ちだねぇ…まぁ受け取った。次の船で発注するから十日程待て」


「十日もか…仕方ないな」


既に直前の船は出ていると言われてアキトは肩を落としながらも管理人に感謝して森の拠点へ戻るのであった。


ーーーーー


夜、湖面の警備をしつつアキトは梟と取り引きする。


『ホウホゥ、今日も納品ご苦労。感心するぞ』


「そっちも大喰らいの子供がいるんだろ?足りてるか?」


『ヒトに心配される程ではない…』


梟は牛鬼を掴みバサバサと羽ばたく。アキトはそれを見てハッとする。


「あ、ちょっといいか?」


『な、なんだ?!急に!』


飛び立つ準備をしていて止められ不機嫌そうに梟は首だけで振り返る。


「なぁ、人も運べるか?」


『ホゥ?当たり前だ。ヒトなんぞコレに比べたら軽いものだ。小屋ですら運ばるのだぞ?』


「そうか、じゃあ人を乗せて山にも登れるか?」


山登りの省略に梟が使えるのではないかとアキトは天啓が降りてきたように目を輝かせる。


『…山の周囲は飛竜の住処(すみか)。縄張りというものが我々にもある』


「そこを何とか!あそこには魔族の首領がいるかも知れないんだ」


『…そんな事知るか!なんなら飛竜にでも頼め!』


流石に拒否されてそのまま飛び去ってしまう。

残念ながら交渉は成らず。アキトは一筋の光明を見出しても成立しなければ意味はないなと条件を出せないか思案するのであった。


レインの元へ戻り監視の仕事を再開、アキトは自分の考えをレインに伝える。


「梟の協力を得て空からアプローチ出来ないかな?って思いついたんだが…」


「それなら私でも思い付きますよ?でもドケチですからね…」


木を十本しか切らせてくれないケチと評して乗せてくれる訳無いとレインは語る。実際交渉すら許さない姿勢であったので的を得ている。


「ドケチか、言い得て妙だな」


「どういう意味です…?」


少し不機嫌そうに小馬鹿にしてないか(いぶか)しんでくる。アキトは笑って違う違うと意味を伝える。


「正解とか大当たりって事だよ」


「ふふん、流石私」


ちょっと調子に乗りつつあるレインは鼻を鳴らす。アキトは注意すべきか悩むのだった。


ーーーーー


後日、取り敢えず再度の下見にやって来たアキト。


「うーん角度が急斜面」


試しに岩壁に手を掛けて命綱無しで登れるか確かめる。しかし石を数個登ったところでポロリして坂を滑り落ちる。


(駄目だな…中途半端で危ない…)


足場が転がり落ちる可能性が高く道具が無ければ登れないと肩を落とす。


(他のルートは…あるか?)


他の登山口があるのかもしれないと考え直し歩いてみることにする。

敵に見つからないようにちょっとした時を加速させる。


(どっかに穴とか開いてて内側から行けないかなぁ…地上にも魔族居たし可能性はありそうなんだが)


探すもやはり見当たらずゆっくりになって空中を飛び交う飛竜を見てやはり必要なのかと苦々しい顔になる。


(空を自由にとーびたーいなー…ってか?今回も氷雨使えたら氷の階段作って登るんだがな)


以前、鉱山を登った時みたいに氷雨使えたらなぁと甘い考えをするアキト、時の加速をやめて旅行鞄と相談してみることに。


「どう?氷雨貸してくれない?」


氷の階段を作りたいと伝えるもまだその時ではないと言いたげにアキトに冷たい態度の旅行鞄。


「今回ばかりは横着禁止か…仕方ないな…」


残念そうにアキトは諦めの台詞を語る。

時の加速をやめた事で空の上の飛竜がアキトを見付けて襲い掛かってくる。


目敏(めざと)いねー。ま、俺の方が強いけど!」


敵が脚を伸ばし爪を立ててくるのを木刀で弾き一気に姿勢を崩させる。思わぬ反撃に姿勢が崩れて驚いた飛竜は急ぎ距離を取る。


「おーい、空の上に逃げられたら喧嘩にならないじゃないか!」


言語が分かるのか負け惜しみの挑発をするようにギャーギャー鳴いて周囲の飛竜を呼び集める。

精霊なんて無くても何匹来ようが同じだとアキトは木刀を肩に担いで左手で来い来いと挑発し絶空で一網打尽にしようと構えを取る。

挑発に乗って襲い掛かってくる飛竜の群れ。一撃の元に全て吹き飛ばし山肌にぶつける。

まさしく大山鳴動、奥義により山が(かす)かに揺れ上の方から小石がパラパラと転がり落ちてくる。山の中に入れば何かが外で起きたと気付くのは明白でアキトは無言になって冷や汗を垂らす。


(やっべ…やり過ぎた…誰か来る前に早く帰ろっと)


敵が飛び出してくるよりも先にアキトは急加速してその場を後にするのであった。


ーーーーー


戻るなりアキトはレインに詰められる。


「まーた何かやらかしてきましたね?」


「な、何で分かるんだよ…?」


「顔に出てます」


レインはジッとアキトを睨みアキトが一人で行動する時は何かやらかすと決め付けていた。

実際今回はやらかしているのだがアキトは平静を装って乗り切ろうとする。


「いやいや、俺はちょっとロッククライミングの下見をだな…」


「それで?どうでしたか?」


「素手で登るのは…無理だな」


レインはニコッと笑って「違いますよ」と影の落ちた表情をして威圧してくる。


「何かに遭遇したのでしょう?」


「飛竜数匹と…バトりました…」


威圧感に負けてアキトは戦った事を伝えると「やっぱり」と腰に手を当てて怒り出す。


「危ないから駄目だって自分で言っておいて!下見で戦闘してどうするんですか!」


「やり過ぎましたすみません」


少しズレた謝り方をするアキトにレインは沈黙してアキトはハッとして謝り直す。


「次行く時は声掛けるから!」


「…まだ行かせませんからね?」


準備も出来ていないのに暴れるのは良くないと釘を刺されるアキトなのであった。

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