夜襲
魔族を撃破し洞窟を出た二人は帰りも小屋に乗って運ばれるのかと笑い話をしていた。
『ホゥ、倒したか?』
「一人な、まだいるんじゃないか?」
怪訝な顔したアキトの言葉に梟は首を捻る。
『一人か…フーム、まぁ約束は果たされた。一度帰してやるとする』
梟の口振りからまだ魔族は潜んでいるようであったが今回はここまでとして拠点に帰還する。
無事(?)小屋も元の位置に降ろされて一仕事終えた二人は軽く伸びをする。
梟は羽ばたき飛び上がりながら次の仕事はおって依頼すると飛び去っていく。
「次もあるんですか…」
「さっきの様子からしても魔族はまだこの森の奥で襲撃の用意をしているはずだろう」
「モロにこの拠点攻められちゃうじゃないですか!」
今や前線基地は移動して森の中継拠点の現在地こそが戦地になるとレインは港拠点に帰りたいと肩を落とすのであった。
ーーーーー
その夜、警備小屋で寝泊まりしていた二人、アキトが物音に気付いて目を覚まし一人小屋を出る。
アキトが外へ出ると殺気が放たれ敵の気配に素早く木刀を抜く。
夜闇に紛れて獣の変異した魔物数匹がアキト目掛けて襲い掛かってくる。
「もう来たか!」
噂をした当日に襲撃、完成間近の拠点でまだ人は不在だが自分が担当して良かったと攻撃を弾き返しながら思う。
仇討ちか襲撃か、どちらでも良いが魔族を逃がす訳にはいかないとアキトはわざと苦戦する様に時間を掛けて魔物を撃破していく。
焦れったいと先程より多く投入される魔物。
「増援もいるのかよ…」
早く魔族に出てきて欲しいのだがとアキトは思いながら相手をしていると流石に五月蝿くし過ぎたのかレインが目を覚まし様子を見て飛び出てくる。
「な、何事ぉ!魔物じゃないですか!」
如意棒で素早くアキトの援護をするレインにアキトは背中を預けて作戦を小声で伝える。
「魔族を誘き寄せる。苦戦を演じろ」
「演じなくても苦戦しますって…」
レインの実力でこの数は厳しいと苦笑いしつつ人形を見せる。
「飛び出る前に用意したか…いい判断だ」
心置きなく戦えると二人は苦戦したフリで魔物を撃破していく。実際レインはヒイヒイ言って戦っているがアキトがちゃんと援護して怪我は無く第二陣も突破する。
第三陣の枯れ木がやって来てアキトも流石に眉間にシワが寄る。
(仏の顔も…って言うだろうがよ、隠れてないで出て来いよ)
挑発するのは我慢して心の中で文句を呟きながら相手をしてやる事にする。レインも寝起きで本調子じゃないようで息が上がっている。
早めの決着が必要とアキトはズバッと小規模の奥義を放ち苦手な枯れ木を木刀で一刀両断する。
「手抜きは!?」
「しない、そっちもキツいだろ?」
「は、はい…すみません」
足を引っ張っていると思いレインはしょんぼりするがその隙に攻撃が飛んできてアキトが庇いかすり傷を負う。
乙女心が刺激されるレインは頬を染めるがそんな場合じゃないと注意されて真剣に目を覚まして武器を手に頑張る。それは猛将の働きの如く。
「いちゃついてんじゃねぇぞ!」
地雷を踏んだのか魔族が姿を見せて大きく舌打ちする。苛ついている様子でレイン目掛けて靄を吹き付けるが待ってましたとレインは身代わり人形を投げつける。
「コイツ?!噂の奴等か!小芝居しやがって!」
アキト達の正体に気付いた時にはもう遅くアキトが素早く投擲し魔族の足を撃ち抜く。
「アガッ!」
「逃さねえぞ!」
「クソがっ!コレでも食らえや!」
魔族は懐から閃光弾を抜き出しアキト達の目眩ましをする。レイン夜目を目潰しされ小さく悲鳴を上げるがアキトは目潰しされながらも敵の位置を記憶し慣れた動きで手裏剣でスナイプし命中させる。
敵は悲鳴を上げ悪態をついて居場所を知らせてくれる。
「視えた!」
敵の姿を心眼で姿勢まで見極め木刀を居合いの構えにし奥義を放つ特大サービスを見舞いし魔族の胴体を二分させる。
残心、姿勢を保ち敵の生命の気配が消えるのを確認してから納刀する。
視界が戻った二人、レインは戦いが終わっていて目を何度も擦って確認する。
「か、勝ってる…アキトさま…凄い!」
「まあな、ちょっと本気出した」
アキトは死体を確認して周囲を見て状況終了と大きく息を吐く。
「他に敵は無しか…」
相変わらず情報は無くアキトは溜め息をついて「寝る」と小屋に戻って行こうとする。レインは慌ててアキトを止める。
「えー?!寝ちゃうんですか!?」
レインは自分がお目々パッチリで一人で見張りなんて怖くて困ると喚く。
アキトは「知るか」と欠伸をするが泣きつかれて揺さぶられて仕方ないとまた溜め息をついて二人で朝までコースとなるのであった。
時間は流れ…
「…人には起きてろって言うくせにスヤスヤ寝やがって…」
木漏れ日が差し込みアキトは隣で涎を垂らし幸せそうな顔をしてムニャムニャと船を漕ぐレインに呆れていた。
「アキトさまぁ…」
ハイハイと返事をしながらお姫様抱っこで小屋のベッドに寝かせて置くことにする。
アキトは欠伸をしつつ軽く準備運動をして目を覚まさせて今日の拠点作成の人員と交代要員を待つ。
暫くして大工と冒険者がやって来てアキトは朝の挨拶をする。
冒険者達は小屋の周りの戦闘の跡に気付いて夜襲があったのかと唖然とする。
「これは…まさか敵が?!」
「魔物十数匹と魔族一人、退治したのは外に打ち捨ててるぞ」
マジかと敵の存在に緊張感が増したようだがアキトは拠点で増援の打診をすると伝えると少しホッとしたようであった。
「寝ている馬鹿いるから起こしてくる」
アキトは寝惚けるレインを起こし二人は交代で港町を目指すのであった。
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港町ではアキトが報告している間にレインは湯浴みが出来ると燥いでいた。
「湯浴み?濡れタオルじゃないのか?」
「水の供給が安定して浴場が出来たんですよ!帝国技術万歳!…有料ですけど」
「お前まさか帝国からの出資金使ってないだろうな?」
レインはそっと目を逸らして私欲の為に使っているのを誤魔化そうとする。横領じゃないかとアキトはツッコミを入れるがレインは開き直る。
「だって他に使い道無いじゃないですか!殆ど公共ですし!」
食事や寝床は公共で無償で使えるしいいじゃないかと訴えてきてアキトは仕方無しに「石鹸使うか?」と道具袋の中から取り出して手渡す。
「今夜致します?」
「致しません。はよ行け」
シッシと追い払うように湯浴みに行かせて研究棟へ梟のその後の報告と魔族出現の報告を行う。
「ご苦労様です。梟は雌雄の番でしたか…手を出さなくて正解でしたね」
「夫婦となると怨みを買うのは得策じゃないしな…何よりも餌の要求…子供も居るだろうな」
「鳥類でも梟は鴛鴦ですからね…」
オシドリのように仲睦まじい事、オシドリの漢字が鴛鴦である。梟も一夫一妻で変わることが殆どなく決まった相手と同じ巣で子作りする生態である。
アキトは自分はちょっと一夫一妻から離れているなと苦い顔になりながら話を聞いていた。
「魔族の出現は気掛かりだな。中継拠点だし最前線、防備は固めたほうがいいな」
タロスがアキトの要求を受け入れて警備を増やすことにする。そしてアキトには今後も梟とのやり取りを任せると森の担当を無理やり委任してくる。
「ま、まさか!コレからずっとか!?」
「そうだ君が始めた話だ。収拾がつくまでやり続けろ。こっちは進行ルートの見直し中だよ」
アキトの余計なお世話のせいで面倒事になっていると怒り混じりの返答にアキトはどうやって収拾つけろというのかと肩を落とすのであった。




