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救世主Aの冒険記録  作者: D沖信


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約束事

「モンスターなどに勝手な交渉をしてくれたな…」


タロスは苦々しい顔をしてアキトの報告を聞いてそう答えた。研究者達は閉口してそもそも対話なんて出来るものなのかと目を丸くしていた。


「取り敢えずは拠点の安全は確保出来てるから完成させてしまって…」


「口約束なんて安全の保証と言えないだろうに!真面目に考えてみろ」


モンスターの言葉に信用出来る要素は無いとアキトに訴えるタロス。レックス以外の他の面々はタロスの言葉に頷く。

アキトは申し訳なさそうに頬を掻いているとレックスが弁解する。


「すみません。僕の仲間が人質の様な形になって…アキトさんはその為に!」


「レックス、多分彼等はそういう状況でも戦って討ち取れって言うから意味ないぞ」


「そ、そんな…」


仲間の命の軽さにショックを受けるレックス。

アキトは敵の首の重さについての議論をする。


「仲間の命を天秤に掛けて討伐するかどうか、そこを理解してくれれば一応交渉した事に意味が出来るはずだ」


「つまり大将首として不足だと?」


「俺が先日見たものと違う個体である可能性があるとしたら?」


「成る程、二度見た君が言うのならそれもあり得るかもな」


一体だけ倒しても意味がないとなると厄介だと梟がボス格として複数いる恐怖に周囲は(おのの)く。

レックスも聞いてないという顔をしてアキトを見る。


(ハッタリだよ、こっち見んな。夜の闇で見たのとで区別がつくかよ!)


口八丁でその場を乗り切ろうとするアキト、マックスはポカンとした顔で交渉内容を確認する。


「あのさ、牛鬼の提供と魔族討伐ってのは結局誰がどうするんだ?」


「ああ、俺が全部やるよ。運ぶのだけ手伝ってほしいが」


アキトが全部やると言って仕事が多いなとマックスは笑い自分達の負担にならないなら放置しておいていいやと会談からイチ抜けする。


「平野側はいいな、楽で…森は進めなくなって詰みだというのに…」


「やる事やったら反故(ほご)にしちまえばいいんだよ」


気楽な様子でマックスは酷いことを言って去っていく。酷い事を言うとレックスは憤慨しタロスは舌打ちして「それが出来たら…」と恨めしそうに呟く。


「取り敢えずアキト、君にはちゃんと交渉した内容をしっかり守ってもらわねば困るぞ」


「大丈夫だ。分かっている」


アキトは力強く頷いてまずは牛鬼の回収へ向かうのであった。


ーーーーー


一人で平野の野営を買って出て夜に火を()いてもらう。

学習されてないことを祈りつつアキトは牛鬼の群れを迎え撃つ。


「さあて、来てくれるかな」


夜になり火のついた篝火の横でアキトはジッと地鳴りを待つ。一人で暇そうにしているとマックスが相席する様に対面に座りアキトの夜食の篝火で焼いていた串焼きを一つ取って食べ始める。


「一人でやるなんて馬鹿な奴だよ。お前は」


「柵が無い時なんて俺一人で群れをひっくり返させてたんだがな?本当だぞ?」


「とんだ大ホラ吹きだよ、人間の芸当じゃねえな」


スキルでだってそんな簡単に制圧技を使えないし魔法使いだって苦労するとマックスは大笑いしてお手並み拝見とアキトを挑発する。

アキトは冷静に残りの夜食を取られないように自分で取って(かじ)り付く。


果たしてやって来る地鳴り。アキトはスクッと立ち上がり迎撃の準備に入る。

マックスも後詰めとして斧を手に取りアキトの背中を見つめる。


(インチキしてねぇか…見てやらねぇとな)


居合の構えを取るアキト、集中し『絶空』の体勢に入る。その威圧感たるや背後に居ても感じ取れマックスは冷や汗が自然と吹き出る。


「な、なんて圧だ…本能で分かる…コイツは…『やる』!」


アキトは棘柵を飛び越え完全に迎え撃つ形でやってきた牛鬼を全てひっくり返す一撃をお見舞いする。

びりびりと離れていても伝わった一撃必殺にマックスも信用せざるおえないと目を丸くして「お見事…」と自然と口から出ていた。


「後はこいつを森へ運べばいい…すまんがマックス、明朝手伝ってくれないか?」


「お、おう。明日な」


アキトは振り返り呆然としているマックスへそう願うと困惑しつつ承諾するマックスなのであった。


ーーーーー


荷車に載せた牛鬼数匹をアキトと数人の冒険者で森の拠点まで運ぶとすぐに臭いに反応したのか二匹の巨梟が飛来して建物の屋根の上に止まる。

雌雄の(つがい)なのだろうかアキトと交渉した(オス)は大物の獲物を持ってこさせたぞと得意気な顔をして(メス)にアピールする。


『どうだ?人間は約束通り持ってきた』


『ええ、そのようね…じゃあアナタも約束を守るわね?』


『勿論だとも!』


バサバサと雄は翼を羽ばたかせながらアキトについて来いと小屋を(くちばし)で突付く。


「…まさか乗れって事か」


まだ地盤固めしていない小屋の中に入れと言われてアキトは仕方なく警備小屋に入る。中で寝ていたレインは何事かと慌てるが脱出が間に合わず空の旅にご招待となる。


「浮いてるー?!」


「なんだ、居たのか」


「夜営するから寝てたんですぅ!アキトさま昨日居なかったから連日ですよ?!」


なんか色々言いたいことがあるようだがアキトはスルーし、魔族との戦いだと居合わせた不幸を笑えとレインにとって最悪な報告をする。


「身代わり人形は…備え十分!」


小屋の棚から三つほど取り出してアキトにも投げ渡す。


『下ろすぞ、気を付けろ何かに掴まれ』


梟の声に柱にしがみつくレインはゴクリと生唾を飲み込む。

ドスンと小屋が地につき武器を手に二人は家を出ると目の前には洞窟がポッカリと開いていて梟は『その奥だ』と言い残し羽(つくろ)いを始める。


松明(たいまつ)が必要だな、レイン、小屋から取ってきてくれ」


夜営用の松明を用意し二人は洞窟へ侵入するのであった。


ーーーーー


本来目指すべき山とは違った小山の洞窟の中はジメジメしていてまともに生活するには不便過ぎると感じる程である。

レインは首元をパタパタと(あお)いで不快感を示す。


「こんなとこに…居るのでしょうか?」


「信用するしかないな」


二人は一本道の洞窟を進んでいると枯れ木の魔物が出現して梟は真実を言っていたと察する。


「魔物!」


「っち、武器が…トラベラー!」


呼ばれて現れた旅行鞄は決戦を前に仕方ないと斧ベオウルフをアキトに吐き出す。

許可が降りてアキトは得意気な顔をして魔物を一撃で伐採する。


「精霊を使うまでもないな…」


余裕な表情のアキトに対しレインは奥を指差して不安そうな顔をする。


「アキトさま、奥が…(もや)…でしょうか?」


トラップ型の黒い靄を見つけたレイン、アキトは身代わり人形を一つ投げつけてみるとみるみる吸って魔物化する。


「厄介なトラップだな…灯りがあって良かった」


変化した人形を素早く撃破し更に奥へ進む。


その後もう一つ罠を越えた奥では一人の魔族がトラップの作動を感知して身構えていた。


「ちぃ!人間が!手駒作るのも楽じゃねぇんだぞ!」


「生命は貴様らの玩具じゃない」


アキトは冷酷に言い放ち斧を構える。魔族は壁に立て掛けていた槍を手に取り牽制するように左右に振る。

そのビビリ具合に呆れつつアキトは少し会話してやるかと口を開く。


「殺す前に仲間はどこか吐いてもらおうか」


「誰が言うか!」


狭い洞窟では有用な突きをしてアキトを威嚇する。戦いやすそうだとレインも如意棒を伸ばして同じ様に槍のように持つ。

真似をされたと逆上する魔族は口を膨らませて黒い靄を吐く体勢に入りレインは素早く身代わり人形を胸元から抜き取りエイッと投げつける。

顔面にぶつけられて靄を吐く前に視界を塞がれアキトはチャンスと見て投擲物をそのまま人形越しに顔面に投げ付けて貫通させて一撃で仕留める。


「あの…人形が…」


「投げるタイミングが下手だ。まだ構えてるだけで良かったのに投げるな」


せっかく頑張ったのにとレインは大きく肩を落とすのであった。

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