新拠点に向けて
夜明け、レインは大きく伸びをして「終わったー」と夜の番を終えた事を喜ぶがアキトは交代が来るまで待ちだぞと呟き渋い顔をされる。
「朝ご飯食べたーい」
「じゃあ先に帰れ、あとは俺がやるから」
空腹のレインをさっさと拠点に帰してアキトはレポートに色々と書き足して昨日気づいた注意事項なんかもしっかりメモ書きする。
(油断大敵…っと)
魔族の侵攻は何時来るか分からないと気休め程度の注意書きを残してアキトは大きな欠伸をする。
(ちょっと眠いかな…夜明け見て緊張の糸か切れたか…)
こういう時が一番危ないと首を振って脳を刺激し目を覚まさせる。自分も少しトレーニングするかと軽く運動をしながら遠くを眺める。
(行軍出来るなら山まで行くのもありなんだがなぁ…補給が間に合わないのもなぁ…)
アキトは早く拠点の範囲が広まってくれないかなと思うのであった。
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研究棟、報告ついでに新たな依頼を打診される。
「お疲れ様。そうだ、以前やった牛鬼討伐をまたやって欲しいんだが…」
「飯足りないか?」
「そろそろ新しい船が来る。拠点を拡げないと行けないから後顧の憂いは絶つ意味でも減らしておきたいだろう?」
どうやら見張り小屋の近くに拠点の衛生区を作る算段が立ったらしい。アキトも断る理由は無いと大きく頷く。
「ありがとう。どうせなら牛肉パーティーもしよう!」
やっぱりそっちもかとアキトは何とか牛たちを引き連れる作戦を考えるがハッとして一つ提案をする。
「もう一度見張り番させてくれ、試したい事がある」
実際の焚き火に牛鬼達が寄ってきてしまうのかが気掛かりになりその事を伝えると快諾され翌日の番をアキト達が担当する事となる。
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「で、なんで私もまた参加してるんですかねぇ!?」
当然不満が漏れるレイン、アキトは事前に事情は説明したがそれでも夜通しはキツいとレインは泣く。
「成功したら牛肉パーティーだぞ?」
「それは…嬉しいですけど…?なんか納得できないと言うか…」
ご飯で釣られているのは納得しかねるとレインは腕組みしながら抗議を続ける。
「まぁ実際に突進して来たら危険だしレインは拠点に残っててもいいんだぞ?」
「シンプルに邪魔って言われてる気が…行きますぅ特訓してやるんですから!」
という訳で出発する二人、交代要員が来たと眠そうな冒険者二人は男女ペアのアキト達を茶化しながら去っていく。
茶化されてレインは更にアキトを挑発してみせるがやっぱりそういう間違いはしないと今日は特に真剣だぞと注意する。
「大事な任務だ、遊びは無し!」
「はーい、じゃあ他の日はいいんですね?」
「…俺からは絶対に手は出さないからな!?」
少しずつではあるがパーソナルスペースの共有は許しているアキトなのであった。
日も暮れ始めアキトは予定通りカマドを残して火を付ける。先日には危険だからやめておけと言っていた事が狩猟の鍵になるとはとレインは小屋の隅からじっと観察する。アキトはあくまでも可能性だと笑い静かに遠くから響く足音に注意する。
遠くからでも分かる火の灯り、それに果たして気付き反応してくれるのか不安ではあったがアキトの予測通り地鳴りが聞こえてきてアキトは喜び勇んで前に出る。
「来た来たぁー!」
「ほ、本当に集まってきてますよ!?大丈夫なんですか!?」
規模は自分が前回討伐した規模と同等、ならばやってやれない事は無しとアキトは居合いの構えを取り静かに集中する。響く蹄の音すらも置き去りにする集中、静かな呼吸、ゆっくりと姿勢が前傾になる。
レインは普段見せてくれないアキトの本気に思わず息を呑む。
「これがアキトさまの…奥義!敵がもう眼前まで来てますよ!」
その声が聞こえているのか分からない程の騒音がアキトに迫る。
瞬間アキトは目を見開き木刀を音速より早く振り抜き迫りくる大群を全て薙ぎ払う。
アキトの背中越しにも突風が吹き抜けてレインは思わず身を屈める。
圧倒的力により全ての牛鬼はひっくり返され絶命、アキトは無事成功したと一息ついてから納刀する。
「無事決まったな」
「す、凄い…全部倒しちゃいましたね…」
「刀ならもっと威力出るんだがな…木刀だとこの程度だ」
この程度で出していい技じゃないとレインは半信半疑でいた事を訴える。
「失敗すると…半分…思ってましたよ!?」
「ハハッ、逃げなかったのは褒めてやるよ」
アキトは笑いながらも死体の山をどうするか頭を悩ませる。翌朝大量の牛鬼が拠点に運び込まれるのであった。
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牛肉パーティーをしていると新たな開拓民を載せた船が予定通り到着し荷降ろしが始まる。大陸じゃゲテモノ扱いのモンスターの肉もこの場では貴重だと力説する冒険者達に新開拓民は困惑気味だったが実際口にしてその洗練された調理に感動を与えるのであった。
アキトに作戦を提案した研究者は大成功だと親指を立ててアキトの手腕を讃える。しかし、今回の件で分かった事が一つ。
「平野の拠点では夜は火を使えないな…」
「なるほど、敵を引き寄せるだけ…か。本能による行動であるなら加護も無視してくる可能性もある」
新拠点の扱いに苦悩しつつ予定通り事は進めようとなる。既存の拠点のメンバーから選出された人員で平野にて農地と家屋を建てる作業を夜通し行う事になりアキトは灯りに火を使うので作業の護衛を頼まれる。
「そうだな、俺しか守れそうに無いなら仕方ないな」
そこにレインが口を挟む。
「安請け合いは良くないですよ!対策を立てないといけないのにアキトさまいるから任せようは良くないです!」
いつまでもアキトが対応できる訳じゃないのも事実で真面目に対策を練る必要もあると研究者は理解していてその為にも初日はアキトが必要だと語る。
「防柵を作る為にも初日は頼みたい」
「俺は…」
アキトは何時でも対応すると言いたかったが自分だけしか対応出来ないのは確かに問題だと初日だけと頷くのであった。
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棘を外側に向けた攻勢の防柵を説明されてレインは不思議そうに効果があるのかと考えるが実際に作られていく太い杭の様な棘に少しドン引きする。
「うわぁ、刺さったら死にますよ…」
「突進でもしない限り深く刺さらないし外にしか向けないから大丈夫だ」
拠点内には害は無いと言われてレインは微妙な顔をするのであった。
夜になっても工事は続いて農地の手入れも行われる。
効率悪いとレインは最初は悪態をつくが交代で人が入るのを見て急いでいるのが伝わってきて閉口する。
「本気で一昼夜で作るつもりなんですね…」
「まぁ人の入るスペース無いから仕方ない」
「なんでそんなになるまで放置してるんですか…」
正論パンチにアキトは平和が過ぎたと呟く。計画的に進めてないことの答えになってないとレインは苦笑いする。
拠点の火の光に反応したのか遂に奴等の足音が響いてくる。大群の蹄の鳴らす地鳴りが聞こえてきて工事中の大工達が作業を止めて避難を始める。
アキトは群れの位置を把握して防柵の効果を確かめつつもしもの時に備える。
「レイン、奥義は無しだ。柵越えてきたやつを叩くぞ」
「ええ!?無茶ですよ!」
「誰でも仕事出来るってアピールするんだろ?」
レインは半泣きになりながら如意棒を構えて近付く地鳴りに備える。
第一陣が柵に突っ込み大多数が犠牲になりそれを越えられないと判断したのか地鳴りが止まり殆どが引き返していく。結局柵を越えたのは数匹、アキトとレインは素早く退治して防柵の有能さが証明される。
「後は堀を作れば完璧だな」
一部が越えてきた事をみてアキトは堀の大切さを理解し後で意見しておく事にしようとする。
「柵が消耗品過ぎますね…」
「それは…課題点だな…火が見えないようにするしか…」
レインのツッコミにやっぱり課題点は多いとアキトは苦笑いするのであった。




