夜の森
広がる拠点、距離は近いが着実に道は進む。
「ううむ、山が…遠いなぁ…」
新しく出来た拠点から荒野のモンスター退治をしに出たアキトがボソッと呟く。背後でレインは虫型にイヤイヤ言いながら大暴れしていた。
「あの!少し手伝って下さいよ!虫嫌いなんですが!?」
「大丈夫だ。そのうち慣れる」
「その年で幽霊嫌いって直ってないじゃないですか?!慣れてないじゃないですか!」
ブーメランがぶっ刺さりアキトは仕方なく木刀でレインの手助けをしてやる。
一通り掃除し終えて黄昏てたアキトに対しレインが呆れ顔で質問する。
「何か杞憂な事でも?」
「遠いなぁって…」
聳え立つ山を見つめるアキト。レインは行けばいいと軽く考える。
「行きと帰りの物資、それに山登りする装備、何もかもが足りてないんだよな」
「サバイバルするのにそういう所は気にするんですね」
「まだ無駄死にたくねぇしな」
勝手な事をして野垂れ死にしたら意味は無いとアキトは溜め息をつく。レインはそんなに危険なのかと一緒に山を眺める。
「大自然は魅力的だが危険もいっぱいなのさ。探検家のジレンマだな」
「私達あくまでも帝国の領土を広げる為に来てますからね。山登りは趣旨違いますものね」
「魔族があそこに居るなら何れは出向いて決戦しなければならない。それがこの土地を真に得る条件みたいな物だ」
魔族と聞いてレインは少し身震いする。
「一度だけ私達が居ない時に攻めてきてそれっきり…気になりますよね」
次の拠点は森の内部を切り拓くと聞いていてアキトはそっちも手伝うかと荒野から一旦拠点に戻る事にするのであった。
ーーーーー
滝を中心に周囲を切り開いて中継拠点を作ると幹部会で決まり着手に辺り今回は計画的にやろうと昼間のみの活動で進む。
初日の今日は伐採による土地の整地と木材集め。アキトとレインは護衛役として周囲の警戒に当たる。
「結局虫ですか…」
「熊の方がいいか?」
どのみち対峙する相手に辟易とした声を漏らすレインにアキトは笑ってもっと厄介な相手を提案する。気持ち的には熊の方がいいとレインは答えてアキトとジビエ料理出来るからなと笑顔になる。
木こり役の冒険者が木材の伐採を進めるが藪が多くそれらを取っ払う度に小物のモンスターが出てなかなか進展がなく初日は予定の半分程しか進まなかった。
二日目、遅れを取り戻すために早めに集まり人数も多めに呼んで多方面に展開する。
採取した木材は数日乾燥させるのが主流だが魔法で乾風を起こし即日加工出来るようにする。
「便利ですね魔法」
「用途不明過ぎるだろ…ドライな風起こしって…」
「魔法なんて生活を良くするものが殆どですよ。戦闘用の方が珍しいのでは?」
目からウロコな言葉にアキトは予想外とボヤく。
「ウチの嫁が魔法研究の第一人者だが生活魔法なんていう括りでは研究してなかったな」
「アキトさまのお嫁さんって凄い薬師だったり凄い魔法使いなんですね…なんか急にまた遠くに感じちゃいます」
アキトは本妻の事を呟く。
「メイドもいるぞ。趣味でメイドだが」
「何ですか趣味って!馬鹿にしてますよね?!」
レインは本職でメイドだと胸を張るがアキトは違うアプローチを入れる。
「強いぞ」
「強いの?!」
仰天するレイン、アキトは投擲術は本妻のを見て学んだとコートの裏のナイフ等に指を掛けて素早く木に投げつける。
「今じゃ俺の方が上だけどな。文字通り必殺の一撃があるから俺でも油断できない」
「なんで奥様と戦う前提で語るんですか…」
ツッコミを入れられてアキトは真剣に嫁達と戦ってみたらどうなるのか考える。
「うん、全員油断しなきゃ俺が勝つ」
「油断したら負けるんですね」
「見世物の剣闘で戦うこと多かったからな」
さらには剣闘技でよく負けてたとアキトはヘラヘラ笑う。
「剣闘して負けて生きてるってどういう事?!普通生き死にで決まりますよね?!」
「死んでも生き返る魔法が特別に掛けられた魔法の舞台でやる剣闘だからな」
「死生観狂いますよ…」
若い自分と同じ事を言っているレインにアキトは大笑いする。
丁度熊型のモンスターの出現の報が入り二人は話を切り上げてそこへ向かう。
「熊か、レイン!精霊だ!」
「はい!」
アキトは熊の腹の下に滑り込み思い切り打ち上げるように木刀を放ち熊に大口を開けさせる。
その口目掛けてレインの精霊シルフが風の刃を放ち顎をぶった切り体勢を立て直したアキトがトドメの一撃を放つ華麗な流れで仕留める。
「よし!料理作るぞ!」
「すぐそうやって…先に護衛してこれは拠点に持ち帰りです!」
レインからのダメ出しを受けてアキトは少ししょんぼりした顔になるのであった。
三日目には建築がスタートする。
人員を割いただけはあり手早く、手広くじゃんじゃん丸太小屋が建てられていく。
伐採の作業も殆ど終わりアキト達は防柵作りの為の堀りの作業を手伝う。
道以外には板張りの柵で侵入を防ぐ事になっている。
「中腰での作業は身に応えるな…」
「中年みたいな事言わないで下さい」
「まぁ確かに?まだ中年じゃないが…?」
因みに中年とは40代から50代である。アキトは30代半ば、残念ながら十分オッサンである(神鳴天の声)。
オッサンってのはオッサンと言われて怒らなくなったらオッサンなのである(アキト天の声)。
「何か言いました?」
レインは独り言を言うアキトをチラッと見る。
「何でもない、つい第四の壁を越えてしまった…」
「…壁?」
「…気にするな」
アキトは遠い目をしてそう言いレインは話を戻す。
「そういえば今日はどっちで警備するんですか?もうこっちでも寝泊まりは出来ますが…」
「そうだなぁ…確かに夜の森でも生活出来る証明しないとだな」
物資もそれなりに用意されていてアキトは今日はこっちでと出来たばかりの小屋を眺めてレインに示す。
「もう出来てる…職人芸ってやつですね」
「ああ、俺の知人達(初心者)が数人掛かりで数日を半日で仕上げてる…」
トントンカンカン鳴り響いてくる釘打ちのハンマー音、DIYと本職の違いが目に見えて分かる速度で次の小屋を仕上げていく。
(いや、本当に速いな…これこそ魔法だな)
「アキトさま、見惚れている場合じゃないですよ?私達も柵作らないと…!」
「あー、そうだった…」
アキトは腰を叩いて気合いを入れるのであった。
ーーーーー
夜、大工達が帰宅しアキトとレインで森の拠点を警邏する事に。
使える灯りも少なく星明かりも木の葉に遮られる森の中、レインはあまりの視界の悪さに震える。
「夜の森はこんなにも暗いのですね…想像以上です」
アキトの腕にしがみついて離れようとしないレインにアキトは笑ってランタンを取り出す。
「いざという時のだ。蝋燭だから長持ちしないが」
「つ、使います。梟の声が妙に怖く感じます…」
「安心しろ。人間は襲わないだろ流石に」
アキトがそう言った次の瞬間アキトの想像の十倍は大きな梟がズシンと地面に着地して首を直角に曲げながらアキト達を見つめる。
「あー、前言撤回、モンスターだわ」
「なんですかこのサイズ!」
人よりも大きな梟にアキトは木刀を抜いて身構える。レインも身を守るために如意棒を敵に向ける。
二人の威嚇にも似た仕草に梟は低く鳴いて羽ばたき何処かへ飛び去ってしまう。
「夜の森…ヤベーな…」
「どこか行っちゃいましたね…群れて来ないですよね?」
「分からん。森の更に奥から熊でも食いに来たのかもな…」
あのウルフベアを食うデカ梟とドンドンヤバそうな雰囲気が出つつある森にアキトは武者震いが止まらなくなるのであった。




