港町へ向けて
宿でアキトを待っていたレインは何故か嬉しそうな顔で戻ってきたアキトを少し気味悪く思う。何故そんな顔になったのか理由を尋ねようか悩むくらいには不気味に思えたがこれも仕事と勇気を出す。
「な、何か良いことでもありましたか…?」
「ん?おっと顔が緩んでたか。いや、ちょっとした朗報が舞い込んできてな」
「朗報?」
良い知らせと聞いてレインは怪しみながら首を傾げる。どうせ嘘でも掴まされたと思っていたが今回のレックス達の依頼の件についてと言われて少し気になってくる。
「どうやら海の向こう。新大陸とでもいえば良いのか?そこから飛竜は来ているようだ」
「し、新大陸!?」
「ああ!男心がくすぐられる冒険の匂いだ!」
ウキウキしているアキトにレインは申し訳なさそうに新大陸には行けないと伝える。
「アキトさま、私達の目的は亜人の国の調査。新大陸には行けませんよ…?」
「な、ななな…なんだってぇー!?」
「当然じゃないですか。私達は調査団。仕事外の事は許可が下りないと出来ません。ケインズさまから正式にそこに向かえと言われなければ契約違反です」
アキトは頭を抱えて好奇心と忠誠心の間で葛藤し良心の呵責に苛まれる。だがそこに見える一筋の光明。
「亜人の国の怪しい動き、それが新大陸の調査としたら!?」
「参加したいって事ですか?」
「帝国の戦力として参加するなら許可下りるだろ!?なっ?なっ?」
子供のように強請る姿に呆れを通り越して感心しそうになるレイン。
なぜそこまで冒険に身を乗り出すのかと不思議に思う。
「なんでそこまで…」
「浪漫があるからさ…というのもあるが俺の本来の目的。世界の救世に関わる可能性がある。つまり世界の危機があるかもしれない」
「本来の任…ですか。分かりました手紙は出します。返事は後日になりますが宜しいですね?」
アキトは勿論と大きく頷いて明日から向かう港町の状況とそこから新大陸が見えないかと少しウキウキした様子でベッドに入る。
手紙を作らねばならなくなったレインは大きく溜め息をついてロウソクの灯りと月明かりを頼りに新大陸と亜人の国の動きの可能性を書き記すのであった。
ーーーーー
翌日、アキトとレインは組合にてレックス達と合流。手紙を出して受け取りは港町を指定して首都ビストリアを発つ。
大きめの馬車をアキトが手配して六人で乗り込む。
ゴトゴトと揺さぶられる道に「相変わらず慣れないな」と腰を気にするアキト。
いい歳していると長耳に言われたくない言葉を言われてアキトは渋い顔になる。
「俺より歳上なんだろ?いい歳はないだろー」
「人間換算するなら私のが若いわよ!」
シシーは憤慨し同じ長耳のミラベルと一緒になって否定する。
どういう計算方法なんだよとアキトは目を細めるがガンッと全員がケツを突き上げられてレックスとアリス以外が腰を痛めてアリスに冷静にツッコミを入れられてレインにまで風評被害が広まる。
「き、鍛えてるのに今のは痛かった…」
「僕は勘で回避しました」
レックスは鼻を高くして受け流したと誇らしげに語るが天丼!追撃の打上げにはその勘も働かず5人は悲痛な叫びを上げる。
「皆まだまだ甘い、私の身体は流体の如し…」
ガタガタ揺れる馬車は苦笑いで包まれるのであった。
昼食はキャンプ。アキトの水号にレインは慣れた様子で手伝いレックス達は興味深そうにその様子を眺める。
「米って炊くとカサが増える…確かに合理的」
アリスは最初と完成の差を見て目を丸くする。
しかしやっぱりビジュアルに慣れないとシシーは相変わらず嫌な顔をするがアキトが山椒を奮発し薬味と一緒に米に振りかけると全員の食が進む。
「高いが食わず嫌いには仕方なくだぞ?わさびよりマシだろ?」
ピリッと来る山椒と米のマイルドな味わいに全員満足してくれてアキトもホッとする。
どのみち日持ちはしなさそうだし奮発するのも悪くないと思うのであった。
ーーーーー
港町まではまだあると本日の休憩ポイントは宿場町として栄えている大きめな街。
夕方前、アキト達は自由時間を堪能しようと解散しアキトはレックスと時間を共にすることにする。
武器屋に入り和風な装備を見てアキトは目を輝かせる。
「投擲も充実しているな!補給しとくか」
「好きですねぇ。僕も使えるかな…?」
「練習するか?教えるぞ」
単純に投げればいいモノでは無いとアキトは語りながらクナイや手裏剣を補充し外でレックスに使い方を指南する。
「分かりやすいのから教えるか。手裏剣だな」
「えーっと、こう手に乗せて…」
「あー、違う手で摘むように持って刃が相手に刺さるイメージで縦に投げる。もしくは斜め」
直線をイメージしてぶん投げて当てるとアキトはぶっきらぼうな使い方を教える。
手の平に乗せてシュシュッとなんて出来ないと言われて少しレックスは気落ちするがアキトが2枚持ちと指に挟みカカッと木に当てるのを見てその威力と格好良さに手を叩く。
「再利用出来るからな。練習あるのみ。マトには畳とか本来は使うんだがな」
亜人の国の床にはそんな使い道がとレックスは感心する。
「刀は買わないんですか?」
「あー、浮気すると氷雨に怒られるかもなぁ」
「精霊って気難しいんですね」
シシーの研究中の精霊術についてアキトは思い出したかのようにレックスに質問する。
レックスは苦笑いしながら自分のはまだまだとアキトの持つモノとは大分差があると恥ずかしそうに語る。
それでも持っているのかと発生段階まで行けていることに関心を寄せる。
「はい、まだ小さい火の精霊です。サラマンドラ!」
肩に乗るほどの背中に火を灯す赤い蜥蜴が姿を表す。
(あ、今アイツが狂喜乱舞してる様が脳裏に…)
精霊の第一人者を名乗る嫁の気持ち悪い笑顔が思い浮かびアキトは話を変えようと拍手し育てれば答えてくれると微笑むのであった。
精霊は成長する事は基本的には無いが使い手との相乗効果で真価を発揮する。発展途上なら尚の事。アキトは多くを教えずにその発展を見守る事にするのであった。
宿にてレイン達女子と合流。少しおしゃれが増しているような気がしてアキトは買い物したなとニヤける。
「雑貨や小物買ったなー?」
「い、いいじゃないですか!アキトさま達だって何か買いましたよね?よね?」
「ああ。買ったお互い様だな」
笑い合うが実は高い買い物だったなんて言えないレイン達なのであった。
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翌日、御者に本日中に港町に入ると緊張した様子で説明される。
どうやら周辺には素手にモンスターが跋扈していて結構危険だと伝えられる。
六人は覚悟を決めた様子で頷き御者に先導を頼む。
「何かあったらわたしゃ引き帰らせて貰います。いいですね?」
「問題無い。道なりに行けばいいんだろ?」
「へい、では行きます」
馬車が出発しアキト達は戦い方の打ち合わせを始める。
「俺とレックスが真正面。女子3人は援護。レインは女子の護衛を頼む」
真っ当で基本的な作戦に異議は出ず5人は頷いてアキトは馬車の向かう先、暗雲立ち込める道の先を睨みつける。
昨日の間に十分に仲良くなっていたレインは女子達とワイワイしてアキトは蚊帳の外という感じを味わう。しかし、会話内容に耳を傾けるとどうやら精霊の話をしているようで彼らは武器ではなくアクセサリーに宿しているようであった。
確かにガシガシ使う武器よりアクセサリーの方が長く身に着けるかとアキトは納得しレインはアキトから貰ったカフスを何度も気にしている様子でアキトはまさかと微妙な顔をする。
そのアキトの様子が伝わったのか女子達からアキトはチラチラ見られてシシーは精霊を従えて見せたと鼻を高くしていた。
「精霊は一生モンだと思って大切に扱ってくれ。あまり乗り換えるなよ?」
「複数使うオッサンが言うな!」
確かにとツッコミを受けてアキトは尻込みしてしまうのであった。




