文化はそれぞれ
馬車に揺られて数時間、御者が一旦休憩とそれっぽい開けた場所に停車する。
「馬も生き物。休めないと行けないからな」
近場から水を用意して馬に飼い葉と合わせて補給させ始めてアキト達も飯にしようと水号の準備を始める。
レインはアキトの用意する鉄の箱と生米を見て目を細めて懐疑的な視線を送る。
「何ですかそれ…」
「米だ。いやぁまさか亜人の国で栽培されてるとはな。色々買っちまったよ」
「それ…どうするんですか?」
アキトは見てろと石積んでと薪を焚べて御者から水を貰って米を道具で炊き始める。
「懐かしいな、ガキの頃キャンプでやったやつ。本当は他にもカレーを…カレー食いてぇ…」
大好物のカレーを想像してしまいアキトは少し気落ちするが吹きこぼれさせないように注意しながら火を見つめる。
米とはカレーとはとパンばかりの生活だったレインはその珍妙な調理を見つめる。
しばらくして炊きあがった米を御者を交えて3人でいただく事にする。
米の絵面にレインは渋い顔をする。
「ま、まるで…」
「おっと蛆虫だなんて言うなよ?」
アキトは刻み葱と塩を取り出して米の上に振りかける。
「本当はおかずが必要だが今はコレで我慢してくれ」
香味と塩と米の甘味だけの味気無い食事だが久し振りの味にアキトは満足気な顔をし人間族の御者も知ってはいたがパンで済ませていたと食わず嫌いは良くないと楽しみ始めてレインだけ微妙な顔をして一口食べる。
(な、成る程…確かにこれは味気無いですがイケますね)
見た目から忌避していた事を少し後悔しながら味わう。
アキトはグルメなレインの為にアドバイスをする。
「米はパンよりも食べ合わせや量の調整がきく。つまり好みに合わせて好きに食べていいんだぜ?」
「パンとは違う炊き立ての暖かさ…はい、少し見直しました」
袋に入って少量でもお腹に溜まる便利さも売りとアキトは微笑み3人での食事を終えて移動を再開するのであった。
ーーーーー
日も落ち始めてようやっと小さな村の灯りが見えてくる。
今日の休憩ポイントだと伝えられて馬車を降りて宿を何とか借りる。
「小さい村ですが宿はしっかりしてますね」
「中継がここしかなくて仕方なく設備投資されてる感じだな」
ベッドは小さいがしっかりしているとアキトは個別になってて安心する。
窓の外に見える田んぼを見てレインが不思議そうにする。
アキトはアレが米などの水耕栽培する農地だと説明する。
「帝都の農地とは違いますね…」
「四季折々って聞いてたからもしかしたらって思ったがやっぱりな。古米だろうと明日も補給しとくか。ついでにおかずも探す」
「おかず!そうでした!カレーとは何ですか!?」
アキトの呟きを思い出したかのようにレインはカレーに興味を示す。
「カレー…深いぞ?沼だぞ?覚悟はいいか?」
「は、はい!…ゴクリ」
アキトの前フリにレインは身構える。
スパイスについての話から始まり野菜の講釈まで続くアキトの熱いカレー愛にレインは目を回す。
「アキトさんの故郷にはそんなに香辛料が…?高いんですよ?スパイスって…!野菜だって取れる農地は厳選されてて…」
「それを可能にしたのが貿易の高速化と栽培の多様化だ」
まさに産業革命の産物。カレーとは奥深くその多様化された素材をいかに調整するかにより無限の可能性を秘めているとアキトはまた熱くなる。
かつては地球で黒いダイヤと呼ばれた胡椒から始まるスパイス伝説にアキトはこの世界のカレーはどんな味になるのかと垂涎する。
「世界を救うついでにカレー作ろう」
「何ですかその目標…」
「この世界のスパイスを集めて最強のカレー目指す。うん。そうしよう」
お金は何とかしてみせると好物への執着を見せてレインは呆れてしまう。
米があるならきっとスパイスもそれなりに地球に近いはずと材料の厳選を考え始める。
「トマトや野菜は新鮮な物を手に入れないと行けないな…っく、難しいな…スパイスは粉末にして密閉すれば数日は風味を落とさずに済むが…数日!?無理かやはり」
最強は無理でも作れるはずと何か呪文を唱え始めたアキトにレインは微妙な視線を送るのであった。
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翌朝、ようやく首都に向かえると二人は心地よい目覚めをして出発の支度をするが農地が騒がしくなり荷物を置いて二人は飛び出す。
どうやら農地にモンスターが侵入したらしくアキト達は素早く武器を手に退治に向かう。
「アキトさま!アレ!猪型!」
「召喚されてたのに似てるな!突進に注意しろ!」
二人は散見される敵を分担し木刀と如意棒でしばき倒していく。
特訓の成果を見せ付けるようにレインはあの時よりもキレの増した動きを披露し棒の両端をしっかり使った回転動作でアキトよりも多く敵を屠る。
十数匹の群れが侵入していたようで偶然立ち寄っていた二人の手により被害も少なく何とかなる。
「な、なんだか私、強くなってる!」
「実感する事は良い事だ。その調子で俺に楽させてくれ」
「アキトさまも頑張るんですよ!」
レインに背中を叩かれてアキトは出来るだけ力は温存したいと言い訳して叱られる。
倒した猪達を一箇所に集めて村人達に見せつけると喜び牡丹鍋だとワイワイ騒いで二人に感謝と謝礼をはずんでくれた。
「アキトさま。牡丹鍋とは?以前アキトさまも言っていたような…」
「ああ、猪の肉を使った鍋料理だ。文化は違えど名前は同じなんだな。確かうちの世界じゃ肉食は禁忌だったから花の名前を使って誤魔化してたとかが語源だったような…」
「それこっちじゃ猪鍋で良くないですか?というかモンスターの肉食べるんですか?!」
その通りなんだがと名称についてのツッコミを入れつつもアキトはレインをジッと睨みモンスターの定義について尋ねる。
「モンスターの範囲ってどういうものだ?他の生物はみなモンスターか?家畜も?」
「そ、それは…人に害為すモノ…みたいなぁ?」
「なら原生生物なら食えなくもないだろ?調理法だって確立させれば無毒で味わえるぞ?グルメなんだろお前?」
レインは少し考えたあとまだちょっと忌避感がと拒否する。
アキトは苦笑いしながら「美味いのに」と呟きゲテモノ生活してた事のある辛い過去を思い返すのであった。
「猪肉カレーなんてのもあるんだがな…あ、どの肉使うかも考えとかないとな」
一仕事終えて朝食を短めに済ませ手早く馬車に乗り込むのであった。
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補給を行い旅を続ける二人、レインは語源や名称の引っ掛かりにアキトの知識は何なのかと疑問に思う。
確かに他の世界の知識が活かせている事にアキトも深く考え込む。
「物理法則や科学的な知見はそのまま活かせるのは理解できる…そういう仕組みだと論理的に説明できるからな…だが名称や怪物の知識が役に立つのは確かに説明がつかない…」
「ですよね?文化だとか言ってましたが…同じとは思えませんし…」
「ものの例えだって十人十色というもので皆が皆同じ意見に…しまった諺も通じるとは限らないか…」
何気なく使っている四字熟語や諺、そういうものが平然と通じ合っている事にアキトは頭を痛め始めレインはアキトのその滑稽に見える仕草をわざとらしいと細目になりながらツッコミを入れる。
「まぁ…その…なんだ。俺がたまーに変な事言ったとしてもそういう言葉が外にはあるって思ってくれ」
「たまーに?」
「…変な事言っても気にするな」
顔を背けて気恥ずかしそうにアキトは答えてニヤニヤされる。
レインは知恵にも興味を持ってアキトに微笑み「教えて下さいね」とねだられてその時になったらと苦笑いで返すのであった。




