早起き
彼女はとても早起きだ。冬の日でも、朝日が昇るころには起きてたりする。早朝の空気は気持ちがいいらしい。起きるのが遅い僕にはあまりよく分からないけど。
着替えると、彼女はすぐに散歩に出かける。彼女が通る道はいつも同じ。変わらない景色は退屈でしょ、と言ってみたけど、どうやらそうでもないらしい。同じようでいて、毎日ちょっとずつ変わっているんだって。野端に花が咲いて居たり。昨日まで紺色だった空が透き通る水色になっていたり。花の香りがするようになっていたり。そんな変化を見つけるのが楽しいそうだ。
そして彼女は決まった時間に帰ってくる。その頃には僕も起きていて、二人分のコーヒーを淹れるんだ。彼女は僕を見て、嬉しそうな顔で今日の発見を教えてくれる。彼女の言葉はたどたどしいけど、その時間はとても楽しい。
彼女は、喋るのがちょっと苦手だ。思っていることを口にするのが難しいらしい。でも、その分言葉にできない美しいものをたくさん胸の中に持ってる。そのほとんどが些細なものだけど、その全てがかけがえのないもの。僕は、毎朝美しいものを見つけてくる彼女のことが大好きだ。