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突飛もないことを言われ頭が一時停止した。
自分の腕が半端じゃない?
こんな見習いが?
「いやいやいや!僕よりもっと上手い人なんてもっといるじゃないですか!」
「いや、君はこの国ではトップクラスだと思っているぞ。私は自分でも人を見る目はあると思ってはおる」
先程の様な好々爺の雰囲気は一切消し去り『全属性使い』の名に相応しい威圧を放っている。
僕はそれ以上口にすることは出来ず口を閉ざした。
それを見てか、アルガスさんは威圧を無くし先程と同じ様に笑い始めた。
「ククク、脅して悪かった。まぁ、見学ぐらいはして行かないかい?」
「……まぁそれぐらいなら」
その場の雰囲気に流される様に答えた。
「そうか、ならばこのまま学院へ行こう」
そう言って御者に何かを言うアルガスさん。
そんなアルガスさんに僕は気になった事を聞いた。
「そう言えばどこの学院へ行くんですか?」
「第一総合魔法学院じゃ」
「……は?」
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第一総合魔法学院。
この世界では三本の指に入る程優秀な教育機関だと言われている。
事実、この学院の卒業生が世界に名を馳せる優秀な魔法使いだったり国の中核を担う魔道士だったり、そんなふうに例を挙げれば暇がない程だ。
その様な学院はもちろんながら倍率は高い。
最高で100倍は記録した事があるらしい。
百人受けてたったの一人、本当に才能のある人と努力をし続けた者のみが入れる有名な学院だ。
勿論、裏口入学や袖の下は貴族、王族であっても処罰対象になる。
もう一つの国と言っても過言ではない程だ。
そんな生徒を教えるのだから講師も一流の人ばっかだ。
一線を退いた軍隊上がりの魔道士だったり、未だに活躍する錬成術士等と、かなり充実している。
そんな学院は校舎もでかい。
門だけでも何メートルある事やら。
聞いてみると十メートル程あるということだ。
確実に無駄だろうに過去の魔道具だから未だに使い続けて居ると言うことらしい。
そしてその門が発見されたのが街から少し離れた郊外に存在するため毎日通勤するとなると町の中心から馬車で一時間程かかる。
まぁ寮に泊まることができるのでそこら辺の心配は要らないか。
「さぁ、ここからが学院の敷地内じゃよ」
そう言ってアルガスさんは馬車から降り、半開きになっている門を潜る。
「……すげぇ」
語彙力が低下する程凄かった。
言ってしまえば本当に一つの町のような場所だったのだ。
商店が建ち並びその店に生徒達が入っていく。
娯楽も、必需品も、食事も全てがここに揃っていた。
「凄いじゃろ?」
「は、はい。凄いです」
「そうだろ?まぁ入学したらしばらく外出れないし、これぐらいしないと生徒達も不満が溜まるから、必要経費じゃよ」
「な、なるほど。そういう理由で建てたのですか」
「そう、大体はそんな感じじゃな」
多少含みを感じる言い方ではあるが素直に分かったことにしておいた。
そしてアルガスさんに連れて行かれたのは理事室、理事長のいる部屋だ。
アルガスさんはドアをノックもせずに堂々と入っていった。
僕は失礼します、と小さな声で言って入った。
アルガスさんはそのまま理事長の椅子に座った。
「さてリンくん、そこに座ってくれ」
「……はい」
僕は来客用のソファーに座りながらやっぱりか、と心の中で思った。
やはりアルガスさんは理事長なんだと。
「それじゃあリンくん、明日からは暇かい?」
「ええ、暇ですけど」
「それでは明日から仕事を入れておくから、よろしく頼むぞ」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、それと寮は既に開けているから、御者と馬車を貸しておく、荷物が有るなら持ってきてくれ」
「はい、ありがとうございます」
僕はそう言って理事室から出た。
そして門辺りまで戻り御者の人に冒険者ギルドに報告することがあるから、とまずギルドに行く事にした。
「なるほど、肌の色が黒いオークですか……」
「はい、普通のオークではまずないです」
そう断言した。
目の前のエルフの受付嬢───シェーラさんが難しい顔をしている。
関係ないがちなみに今個別の部屋にいる。
何故かまた連れられて来たのだ。
それを見た冒険者達は血の涙を流していたが。
「そうですか……モンスター図鑑にも載ってない、さらに過去の文献にも載ってないので多分突然変異種かと。一応その森は一週間ほどランク制限を掛けておきます」
「それでお願いします」
シェーラさんは大きなため息をついた。
仕事を増やすのは悪いと思うが報告しないと余計に被害が広がるかもしれないからしょうがないと思う。
「ま、そしたらリンくんに元気もらうしかないよね」
「……はい?」
ちょっと意味わからない、という意味を込めてはい?と言ったのだが通じなかったようだ。
シェーラさんは少しづつにじり寄りながら怪しげに目を光らせこっちを見てきた。
その目を見ると何故か少しばかりの恐怖を感じてしまう。
僕は逃げようとしてドアの方へ走った。
今までで確実に一番速いと断言出来る。
「────逃げちゃダメだよー」
「!?うわっ」
だというのに見事に捕まえられた。
具体的にはシェーラさんがドアの前に立ち僕がそのまま胸に突っ込んだだけなのだが。
そしてそのまま頭を胸に押し付けられる様に抱き着かれた。
「ほらほらー、皆の大好きなおっぱいだよ?リンくんもチラチラ見てるんだから嬉しいよね。お姉ちゃんにもっと甘えていいんだよ?」
こうなったらもう止まらない(多分)。
こうして僕は十分ほど遊ばれた。
……まぁ、最高だったとここに記しておこう。
こんな事やあんな事がありながらも僕は宿から直ぐに引っ越しの荷物を持って学院の寮に戻った。
その時には肉体的にではなく精神的に疲れてしまい何もする気になれなかった。
直ぐに常設されているシャワーで体を洗い夜食も食べずに寝た。
明日からの日々に期待を寄せながら。