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〜未来へと〜

鏑木四郎少尉、神崎政次中尉へ


私はハワイの辺りから、この手紙を書いています。

何年先になろうと、必ずお二人に届くと信じています。


米国本土に行った後、船体を調査されました。

米海軍の艦魂たちは真珠湾で仲間を失い、日本軍を怨んでいる人も多いけれど、みんな本当は『ブルー』さんみたいにいい人たちです。

私と妹は世界最大級の潜水艦ということもあって、いろいろと気を遣ってくれました。

鏑木少尉に教わったあやとりを、米軍の艦魂たちともやりました。


あの戦争が、随分昔のことのように思えてしまいます。

なんで、戦争なんか起きたのでしょうか。

みんな同じ空の下にいて、同じ海を眺めているのに。

日本はあまりにも愚かで、米国はあまりにも残酷だった。


けれど、お二人が私と一緒にいてくれたから、私は今も幸せです。

あと数時間で、撃沈処分される今でも。

お二人のような方がいる限り、日本はまた、美しい国に戻れると信じています。

そして、世界中に平和な時代が来ると、信じています。


海の底へ着いた後も、ずっと見守ります。




絹海





…………


「……確かに、俺の祖父に宛てた手紙です」


青年が言った。

その服装から、訓練中の自衛隊員と分かる。


「もしかしたら、そなたがここに来るのを、知っていたのかもしれぬな……」


木製の椅子に腰掛けた女性が、微笑みながら言う。

恐らくは艦魂だろう。

だがその姿には、他の艦魂には無い、得体の知れない『力』が感じられた。


「そなたの祖父は、元気か ? 」


「ええ、さすがに体力は無いけど、健康です。神崎の爺さんも、近所に住んでます。車椅子が必要な体ですけど、飛行機乗りだった頃の度量は残ってますよ」


「そう……なら良かった。この手紙を預かった甲斐があったというものだ」


艦魂は優しく笑った。


「先の大戦、我々アメリカ軍は随分と非道な真似をしたようだ」


「日本も似たようなものです。祖父の知人の、小島さんという人から聞きましたけど、軍内部でさえ異常なまでに虐待行為が行われていたようですし……」


「私が初めて戦に出てから、もう二百年以上経った。それでも戦争は続き、より効率よく人を殺せる兵器が次々と生まれている」


「はい。けれど、俺は……」


青年も、微かに笑みを浮かべる。


「まだ、信じてみたいです。そうじゃないと、絹海さんに……祖父ちゃんの初恋の人に、申し訳ないですから」


「……うむ」


艦魂は頷いた。


「……未来を掴め。東から来た若人よ」


「はい。為せる全てを為します」


青年は非の打ち所のない敬礼をし、艦魂もそれに応じて敬礼をした。


「それでは、またいつかお会いしましょう」


「願わくば、友としてな」










………伊四〇〇型潜水艦。

壮大な『潜水空母』は、戦局に何の貢献もできずに終戦を迎えた、というのが一般の見解である。

それは事実だろう。


しかし。



鉄の棺に宿った無垢な少女の存在は、それを見守った者達の心に強く残っている。


そしてそれは受け継がれ、



決して忘れ去られることはない。




……完……

艦魂座談会




流水郎「さて、この話もこれにて終了、と」

絹海「読んでくださった方々、本当にありがとうございました」

小夜「で、誰かゲスト呼んでるんだって ? 」

流水郎「おうよ。ではご登場いただきましょう。まず、潜水艦の話を書くきっかけとなった、黒鉄大和先生のイツヤ様です ! 」


拍手、そして入場。


イツヤ「……はじめまして。呼んでくれてありがとう」

絹海「わぁ〜、伊五八潜の艦魂さんですよねっ。お会いできて嬉しいです ! 」

イツヤ「私も、最大の潜水艦にあえて嬉しい」

流水郎「そう、伊四〇〇型潜水艦は、原潜が開発されるまで世界最大の潜水艦だったのですなぁ」

絹海「いえいえ、私なんて……大きいけれど実用性はいろいろと……ね」

流水郎「まあ確かに、イツヤ様の登場するお話に書かれているとおり、普通の潜水艦が『刺客』として運用されたのに対して、伊四〇〇型は攻撃機を搭載することを主目的としてましたからね」

絹海「『晴嵐』を発進させる時には、嫌でも浮上しなくちゃなりませんし、丁度米軍が日本軍の潜水艦に対する警戒を強化してきた時期ですから、8月15日まで無事だったのも奇跡的ですよ……」

流水郎(ちなみに米軍の警戒網が強化されたのは、イツヤ様のインディアナポリス撃沈に起因する。ま、不要な話題だな)


流水郎「さて、続きまして……伊東先生の神龍様と、大和長官でございます ! 」


神龍「こんにちは、神龍です ! 」

絹海「わぁ〜、神龍さん ! お会いしたかったです ! 」

神龍「私もですよ絹海さん。前はゆっくりお話もできなかったし……」

小夜「………」


小夜の視線の先にいるのは、獲物を見つけた虎のような目で自分たちを見つめる、大和長官だった。


流水郎「あー、こりゃまた荒れそうですね」

小夜「呼んだのは貴方でしょ ! 何とかしてよ ! 」

流水郎「はっはっは、俺に帝国海軍最大の戦艦を止められるわけがないだろう ! 」

小夜「じゃあ何で呼んだの ! ? 」

神龍「大和さん、抑えてください ! 」

大和「どいてくれ神龍……さもないと私は、お前ごと××××したり○○○したり、ハァハァしたりしてしまう……ああ、考えただけで血圧が上がって……ふふふふふふふふふふふふふ」

神龍「私も狙われているんですか ! ? 」

イツヤ「だ、駄目……私には一ノ瀬が……」

絹海「私にも鏑木少尉がいます ! だからそっちの道には……」

大和「安心しろ、君たちの男は、その程度で君たちを捨てるような真似はしないだろう。だから……さあ来い、私の胸へ ! 」


流水郎「ああー、これはどうなるのやら。ただ己の無力を思い知る俺。……む、あの人は…… ? 」


神崎「邪魔するよ、っと」

絹海「か、神崎中尉 ! ? 」

神崎「よう、大和ちゃん、会えて嬉しいよ。俺、神崎政次な。宜しく」

神龍「や、大和長官を、ちゃん付け ! ? 」

大和「む……ま、まあ、宜しく頼む」

イツヤ「……さすがに戸惑っているみたい」

小夜「この人、とことん謎ね……」

神崎「なあなあ、海軍最大の戦艦ともなると、イケるクチなんだろ ? 一杯やろうや、とっておきの大吟醸と、なんと100年物の古酒クースーがあるんだ」

大和「なんと、それは興味ある……だが…… ! 」

神崎「あと俺が極秘に入手した、ドイツとイタリアの艦魂の写真集なんてのもある。いい肴になるだろ ? ちなみに俺のお薦めはこの、ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の……」

大和「おお ! こ、これは貴重な…… ! 」


流水郎「おお、大和長官、食い入るように見ている……」

神龍「た、只者じゃないですね、あの中尉さん……」

絹海「とりあえず助かりました……ありがとう、神崎中尉」


神崎中尉、絹海にこっそり親指を立ててみせる。


イツヤ「……ところであのお酒……本当に大吟醸と、百年物の古酒 ? 」

流水郎「さあ、ただのカストリかもしれませんね」

絹海「カストリって……大和さん、怒りませんか ? 」

小夜「ぶっちゃけお酒は二の次にして、肴の方に夢中だから、大丈夫なんじゃない ? 」

神龍「とりあえず、これで落ち着いてお話しできますね」




その後、しばらく雑談。



神龍「それで、三笠二曹ったら……」

絹海「まあ、そんなことが……」

イツヤ「一ノ瀬は確か……」

小夜「あっ、それ荻堂さんと五十嵐さんもやってた ! 」

神崎「やっぱりさ、俺が思うにはドイツ海軍のポケット戦艦の艦魂は……」

大和「うむ、世界は広いな。……ハァハァ」

流水郎「とりあえず楽しんでいるようで、何よりです。さて、今後のことですが、俺はまた戦闘機物を書いて、その後に艦魂物を書くつもりです」

絹海「どんな艦魂ですか ? 」

流水郎「俺以外に、多分誰も書こうとしないような艦魂」

小夜「こうして作者は、異端者の道を進むのでした」

流水郎「我道探求者と呼びなさい。ちなみにその辺について、他の先生が妙な批判を受けたりしているようなので、俺の見解を申し上げておきますが……俺は文章へのアドバイスは歓迎しますけど、しかし自分の好みに合わないとか、そういう意見は一切無視させていただきます」

神龍「まあ、好みじゃなければ読まなければいいのですしね」

流水郎「そうです。他人の『書く権利』を侵害するのではなく、自分の『読まない権利』を守ればいいのですから」


イツヤ「ところで貴方……何処に住んでるの ? 」

流水郎「山梨。甲斐の国っすよ」

イツヤ「……海、無い」

流水郎「はい、俺も海を見たこと、数えられるくらいしか無いです」

イツヤ「でも、富士山がある」

流水郎「そう、晴れた日はいつでも見ることができますよ。特に、雲の海の中から突き出るようにしてそびえ立つ富士山が大好きです、俺」

イツヤ「私も見たいな……。そういえば、世界遺産登録の話もあった」

流水郎「はい。でもゴミ問題とか、いろいろ壁があるんですよ。一番の問題は、自衛隊の演習場。世界遺産の近くで軍隊が射撃訓練しているとかいうのは、さすがにね……」

イツヤ「……復興しても、日本はいろいろ大変みたい」

流水郎「はい。けれど、戦争中にくらべれば、ずっとマシになっているはずです。だから我々は、もっと頑張れるはずです」


絹海「さて、そろそろお別れの時間ですね」

神龍「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

イツヤ「……じゃあね、絹海さん」

絹海「はい、潜水艦同士ですし、また何処かで会いましょうね」

流水郎「あ、山梨名物・ほうとうセットをお土産にどうぞ。これから寒い季節だから、これで体を温めてください。カボチャの入ったほうとうは健康にいいですから」

神龍「わあ、ありがとうございます ! 」

小夜「また来てね。そっちのみなさんに宜しく」

神龍「はい ! 」

イツヤ「……ありがとう。さようなら」









ブルー「……作者」

流水郎「あ、何すか ? 」

ブルー「鏑木の孫に、絹海の手紙を渡した艦魂は、まさか…… ? 」

流水郎「さすがアメリカの艦魂は気づいたか。そうです、『あの船』の艦魂です」

ブルー「………抹殺決定」


ブルー、サーベルを抜く。


流水郎「待て待て待て待て ! ! 何でそうなるんすか ! ? 」

ブルー「あのお方は、アメリカの艦魂にとって神に等しい存在。それをあのようなチョイ役に使うとは、万死に値する」

流水郎「わかってますよッ ! また戦闘機隊の話を書いたら、あのお方をメインにした話も書きますからッ ! 」

ブルー「……分かった。なら待ってあげるから、早く書くように」

流水郎「は、はい ! ……ああ、俺も他の先生方と同様、自分のキャラ達に尻に敷かれてしまう時が来るのかな……」






大和「もう我慢できない ! 神崎ちゃん、共に欧州へ征かぬか ! ? 」

神崎「そうしたいところだけど……神龍さん達、帰っちゃったみたいだよ ? 」

大和「なにっ ! ? ……仕方ない、私も帰ろう。また会おうぞ、神崎ちゃん ! 」

神崎「ああ、楽しかったよ、大和ちゃん」


流水郎「……ちゃん付けで呼び合ってるし……」



伊東先生、黒鉄大和先生、もしお気に召さないことがございましたら、伝えていただければすぐに修正いたします。

では。

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