面倒くさい
「私の……名前はアルバンです。えっと、通称はアルで……」
戸惑いながらも、頬を赤くしながら自分の名前をいい、さりげなく自分のアダ名を教える。つまりは、それで呼んで欲しいということだ。
「じゃあアルって呼ぶね!よろしく」
私は子供特有の無邪気さで可愛いらしさを思いっきり出していった。この手の生真面目そうな男にはこれが効く。
私の前世では、5つの時に自国の遊郭に売られ、7つでこの国に密売された時は、子供らしさを全面的に売り出して生活していた。
だから、どうやれば自分に惹かれるのかは容易に想像がつく。
「ここね……すごく、怖いお兄さんがいて……ふぇっ……」
舌ったらずな口調や甘い声の出しかた。大きな涙の粒の出しかた、全部覚えてる。
「大丈夫……だったのかい?」
「アルが来てくれて、私ね、本当に嬉しいよ!」
会話が少し噛み合わない程度が、幼さの可愛さ。まだ目の前の優男は、私に惹かれたというよりかは、可哀想な子供を放っておけないというのが強い。
やはり、最初っから小さい子目当ての変態どもよりかは、難しいかもしれないが、まぁ別に大丈夫だ。
「ずっと……苦しくて……」
耳元で私はソッと呟いた。
優男はビクリとしたあと、私をみつめる。
「他に、ここの部屋に来た人はいないの?」
「アルだけだよ」
そう、アルだけだよ。私を助けれるのは、アンタだけだ。だからさっさと私に……
「なにをしているんだ?」
とても冷たい声が響いた。息子、エルヴァンだ。その顔はいつものキチガイじゃなくて、凛とした威厳のあるものであった。
「その……この子は?」
「君には関係がない」
説明を求める優男にピシャリといい放った。その目は冷たそうだが、何かを考えるかのように思案したあと……
「そうだな、あえて言うならば、私の母で妻だ」
「なにを……」
理解出来ないという表情をするアル。その反応は当たり前のものだ。
「もういいだろ、さっさと帰れ」
エルヴァンは冷たくいい放った。アルは何かを言いたげにしながらも、権力はエルヴァンの方が上なのか、素直に従ってでていった。
バタン
「…………ねぇ」
エルヴァンが、ゆっくりをこっちを振り向いた。優しそうで、穏和そうな笑みだ。しかし、私には悪魔にしか見えない。
「……あっちから勝手に入って来ただけ……だから」
「まぁ、そりゃそうだよね。アレは中からは出られないように特性の鍵だもの、開けれるはずないし、あの男が勝手に入ってきたんだよね。でもさ、可笑しくないかなぁ?なぁ、なんでぇすぐに叫ばなかったのぉ?」
私がくるまっているシーツごと抱き締めて、耳元でネットリとした声をだすエルヴァンに薄気味悪いものを感じる。
その薄気味悪さは、どこか再び感じたもので……思わずポツリと
「やっぱ父親にソックリね」
と、いってしまった。
コイツの父親もこんなんだったのだ。前世の私への独占欲は常軌を逸していて、私に無理矢理子供を作らせ、最終的には大量の薬を打ち込んで私を灰人にしたやつ。
そいつに、とてもソックリだ。
「……は?……なにそれ……」
でも、それはNGワードだったらしい。
上にのられ、ギュゥウっと首を強く締められる。空気は薄くなり、意識が遠く霞んでいく。
「違う違う違う俺はあの男に似てなんかいない。けれど感謝はしてるよ?あの男のお陰で僕は母さんの中に一年近くもいたんだよ。母さんのDNAが僕の中に融合したからね、それに色々と役に……」
狂った目をしながらギリギリィっと私の首をしめつける。頭に血がのぼり、吐き気や痙攣を引き起こし始めた。いつもの弄びじゃなくて、ガチで殺そうとしている。
それでも、いっそこのまま死んでいってもいいかもしれない。そんな思考が横切ったとき……
「あぁ、ごめんね、強くしすぎたね」
急に力を弱め、その反動で私は急速に入ってきた酸素のせいで過呼吸を軽く引き起こしながら、必死で息をする。
「キュー……しゅー……ケボッ……ハァ……ハァ……」
唾液と涙でグチャグチャになった私を心底愛しくみながら、エルヴァンは私を強く抱き締めていった。
「愛してよ……母さん」
それは、いつもの狂気の言葉ではなく。
どこが純粋で切実な願いだった。
「(本当に……面倒くさい)」
彼も、一人の子供です。
彼女も今は子供です。