第二十章『もふもふが繋ぐ未来』
クラウドファンディングの成功と地域の応援イベントの効果で、もふもふカフェは再び活気を取り戻していた。新しいお客さんも増え、カフェの雰囲気がますます温かくなっている。SNSで拡散されたこともあり、遠方からも「癒されに来ました!」と訪れる人が多くなった。
将之はカウンターで、今日の売上を計算していた。佑佳が数字をチェックしながら、少しだけ笑みを浮かべた。
「順調ですね。イベントの効果がしっかり出ています。」
「本当に良かった……正直、一時はどうなるかと思いました。」
その時、厨房から広孝が元気よく顔を出した。
「将之!今日も忙しいけど、調子どうだ?」
「絶好調です。お客さんが増えて、忙しいけど充実してますよ。」
「それならいい。俺も負けてられねぇな!」
その勢いに押され、将之も自然と笑顔になる。カフェ全体が活気に満ち、スタッフ一同がやりがいを感じているのが伝わってくる。
ふと、美優香がメニュー表を手に現れた。
「新しいメニューを考えてみたんです。動物たちと一緒に楽しめる『もふもふプレート』。人用と動物用を同じプレートに盛り付けて、家族で楽しめるようにしてみました。」
「それ、絶対人気出ますよ!」将之が感心すると、葵も目を輝かせた。
「家族連れにぴったりですね。お客さんと動物たちが一緒に食事を楽しむ姿、想像するだけでワクワクします。」
「SNS映えも間違いなしだな。」味夏が写真を撮りながら笑う。
その時、カフェのドアが開き、常連客の年配女性が入ってきた。手には小さな植木鉢を抱えている。
「これ、カフェに置いてもらえないかしら?家の庭で育てた花なの。」
「わあ、綺麗ですね!もちろん、ありがとうございます。」美優香が嬉しそうに受け取る。
「ここに来ると元気をもらえるから、少しでもお返ししたくて。」
その言葉に、スタッフ全員が胸を打たれた。カフェが人々の心を支え、笑顔を生み出している。その事実が、何よりの誇りとなっていた。
昼過ぎ、葵がカフェの隅で動物たちと戯れていると、将之がふと声をかけた。
「葵さん、最近どうですか?カフェには慣れましたか?」
「はい。皆さんが優しくて、動物たちも可愛くて……毎日が楽しいです。でも、もっとできることがあるんじゃないかって、いつも考えてます。」
その前向きな姿勢に、将之は少しだけ感心した。
「すごいですね。俺なんか、やっと慣れてきたくらいで……」
「将之さんもすごいと思いますよ。動物たちが、あなたを見ると安心しているのがわかりますから。」
「そうかな……そう言ってもらえると嬉しいです。」
その時、涼楓が横を通りかかり、ポツリとつぶやいた。
「将之さんは、動物が安心できる空気を持っている。それが一番大事。」
「涼楓さん……ありがとうございます。」
動物たちが自然と寄ってくる将之の姿を見て、涼楓も少し微笑んだ。カフェの雰囲気が穏やかで、そこにいるだけで心が癒される。そんな空間を守っているスタッフたちの存在が、何よりの支えになっていた。
夕方になり、店内が少し落ち着いた頃、美優香が将之に声をかけた。
「将之さん、少し散歩に行きませんか?」
ルカを連れて、二人はカフェの裏手にある小さな公園へ向かった。桜が満開で、花びらが風に舞っている。将之がベンチに座ると、ルカが膝の上に乗り、安心したように丸くなった。
「こんなに穏やかな日が続くといいですね。」美優香がつぶやく。
「本当に……でも、ここまで来るのにいろんなことがありましたね。」
「そうですね。でも、将之さんが来てくれて本当に助かりました。カフェを守るために、一緒に頑張ってくれて……ありがとう。」
美優香が素直に感謝を伝えると、将之は少し照れたように笑った。
「こちらこそ、都会を離れてここに来て、カフェに救われました。美優香さんが温かく迎えてくれたから、今があるんです。」
美優香は少しだけ顔を赤らめ、そっと桜の花びらを手に取った。
「これからも、動物たちと一緒に、この場所を守っていきましょうね。」
「はい。ずっと一緒に。」
その言葉に、美優香が驚いた顔をしてから、優しく微笑んだ。桜の花びらが風に乗って二人の間を舞い、ルカも気持ちよさそうに鼻を鳴らす。
「ルカも嬉しそうですね。」
「ええ、春が来て、心も体も軽くなったのかもしれません。」
カフェを支え、動物たちを守りながら、少しずつ未来が見えてきた。これからも人と動物が共に過ごせるこの場所を大切に育てていく――その決意が二人の間に流れる春風に乗って、優しく心に溶けていった。
「ここで、たくさんの人を癒していきましょう。」
「はい、そうしましょう。」
春の光が二人とルカを包み込み、もふもふカフェの未来が希望に満ちた色で彩られていた。
(終)




