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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第7章 ~革命の塔編②~
119/203

114.unknown **

 「――洗脳魔導師は支部の地下で厳重に拘束してある。ギルドの裏通りで一番古いバーの地下」

 ティタは最期に、自ら明かした。それは最期に己の恋を聞いてくれたツィーニアに対する、ある種の礼だったのかもしれない。

 そしてツィーニアはその女を疑わず、ただ言葉の指し示す場所を目指した。今まさに傀儡と化した魔導師らを相手取る弟子が力尽きる前に、洗脳魔法の解除方法を模索しなければならないから。




 ホルトの検問近くでは、ムゾウがミヤビ型刀剣を振るう。最小限の魔力消費を維持していたとはいえ、彼の前に立ちはだかる魔導師の数は一向に減らない。魔力を機動力で補えば、自然と息も上がり始めた。

 「……ったく。俺は街の一つでも陥落させようとしてるのか?」

 魔導師として歩み始めて以来、かつてなく絶望的な状況には、もはや苦笑が漏れ出た。それでもムゾウは剣を降ろさない。師匠の言葉を信じているから。




 ギルド・ラブリンには緊張が続く。フィロルは絶えず狂気的な笑みを浮かべながら、ヴァレンへと歩を進めた。それは目の前の魔導師が万策尽きていることを、理解していたからだろう。

 ただそれでもヴァレンは、握った拳を降ろさない。全ては、背後に友人の為に。こちらへと一歩ずつ歩み寄る死神の恐怖に自ずと嫌な汗が滴るが、彼女はそんなものに屈するほど落ちぶれてはいなかった。

 「……ダイちゃんはまだ戻らない、か」

 ヴァレンは彼の再来を待ちながらも、また再び男への接近を試みる。策など無くとも、これ以外に選択権は無いのだから。

 フィロルは迫り来るヴァレンに対抗すべく魔法槍を高く振り上げた。彼女が強化魔法による並外れた速度を見せようとも、男は臆せず堂々と上段に構える。

 そしてヴァレンが間合いに踏み入った刹那、男は流星の如くその凶刃を振り下ろした。大振りの一撃は強化魔法が無くとも、凄まじい威力を宿す。しかしその単調な攻撃は、彼女に届かない。

 側方に忍び込んで刃を回避したヴァレンは、そのまま拳での攻撃を試みた。男の装甲(アーマー)が間に合いさえしなければ、その拳が通じると信じて。

 拳がまもなく男を捉えるそのときだった。ヴァレン半ば捨て身とも言えるその攻撃の成功を祈ることさえ忘れ、そこで呆然と立ち尽くす。

 「は……?」

彼女の瞳は、男に正面から飛び交った氷の刃に釘付けになった。

 刃は男の魔法装甲をいとも容易く切り裂き、血液と内臓を露わにする。男に張り付いた奇妙な笑みは、ようやく剥がれた。己の魔法装甲に絶対の自信を置いていた男もまた、呆然と立ち尽くすことしか出来ない。

 ヴァレンの視線は、ここでようやく攻撃手たる氷の魔導師を捉えた。そこには、痛みに顔を歪めながらもどこか得意気な顔で掌を掲げる玲奈の影。もはや頼りない新米魔導師の顔ではなかった。

 フィロルは力なく崩れ落ちる。腹部を貫いた無数の刃は、明らかに致命傷だった。

 男はその一瞬の逆転に悔恨を絞り出す。

 「ふざ……けるな……! こんな魔法が……あってたまるか……!」

ヴァレンは男の反応に違和感を覚える。ただ純粋に気になってしまった彼女はすぐそばに敵が転がっていることを忘れ、玲奈へと尋ねた。

 「……ねぇ。どうして、効いたの?」

遠くから玲奈が応える。

 「護謨魔法は……あらゆる打撃や刺突に耐性があります。けど……斬撃には弱い」

息を切らしながら話す玲奈の声を男の怒声が遮った。

 「黙れ!! いくら弱点だろうと……貴様のような……たいした魔力もない魔導師ごときに……!」

 男の反応に、ヴァレンはどこか納得してしまった。自分の魔法はおろか、ダイトさえ弾き返すその強大な魔力を、魔法をの手ほどきを受けて間もない玲奈が攻略してしまったのだ。それはまさに、魔力の法則に反した異常な魔法である。

 「くそ……! くそくそくそぉ……! 俺はこんなところ……で……」

間もなくして男は力尽きた。

 玲奈はおぼつかない足取りでゆっくりとヴァレンのもとへ歩み寄る。いつものヴァレンなら彼女にすぐ肩を貸していただろうが、このときだけは立ち尽くしたまま呟いてしまった。

 「……レーナさん」

 「ヴァレンちゃん……無事だった……?」

 玲奈は自身に傷を負いながらも、ただヴァレンの身を案じる。しかしその一方で、ヴァレンの顔にはある種の未知に対する畏怖が浮かんでいた。

 「レーナさん……あなた……何者なの……?」




 同日。王都・ギノバスは晴天だった。ギノバス王立病院で療養するフィーナは、大好きな魔導書を黙々と読み進める。

 フィーナは魔導師を夢見た。それはきっと、彼女が父と慕うフェイバルの存在が大きいのだろう。彼のあまりに大きすぎる背中は、フィーナの憧れであった。

 そのとき看護師の女が少女の病室を訪れる。目を覚まして本に耽る姿を見てすこし嬉しそうにすると、ベッドの側の椅子に腰掛けフィーナへ尋ねた。

 「体調はどうかな?」

 「……大丈夫。いつもどおり、少し頭が痛いくらい」

 「……そう、ならよかった」

 彼女もまた、洗脳魔法による後遺症を抱えるひとり。一度でも洗脳魔法を行使されたならば、例えそれが解除されようとも慢性的な頭痛と共に生きることとなる。

 加えて彼女を縛るものが、突発的な不安障害。幼き日に刻まれた恐怖が、今もなお彼女を苦しめる。そして彼女はまだ知らない。その恐怖が、父と慕うフェイバルによって刻まれたものであるということを。

No.114 護謨魔法


弾力のある高分子物質を生成する発現魔法。魔法陣は桜色。

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