第5話 i‐Pad編(後編)
7、友よ
一方ここは、緊急対策本部室の内部。
突然人質にされた対策部委員の面子は、皆非常に緊迫した状況で、互いに一定の距離を保ち、留まっている所だった。
始めこそは皆で叩き合い、蹴り合い自力で突破しようとしたものの、HRTらのM14によってこの部屋にも弾道が届いた瞬間、途端に皆萎縮してしまい、今はただ、ひたすら、ドアを隔てた激戦の音に耐えながら助けを伺うばかりである。
フェルナンデスはその中でも、天井まで届く細長い窓に壁をつき、ひたすら外の様子をうかがっている所であった。
ジョージのメールによってようやく分かったこの騒動の裏事情。
その鍵を握っていると思われる男が今、距離約60m先の広場に立っている。
一方、その仲間であろうサーラーは、今にも声を張り上げそうに頬を釣り上げて痙攣させながら、長い足を組み貧乏ゆすりをしている。
そのピンヒールの床を踏む音がフェルナンデスの不安と焦燥を更にかきたて不愉快なのではあるが、話しかけた途端、逆に彼女の地雷を踏みそうなので、そこはぐっと我慢する事にしていた。
再びぎゅとアイフォンを握りしめる。次に思った事はウェッブの事であった。
「俺はお前と違うか・・・。」
最後の、彼の言葉を思い出すフェルナンデス。
そうだ、確かに俺はお前と違う。
フェルナンデスは喧噪の中、目を伏せて、そうつぶやいた。
俺は、自分の信念を通すためなんかにな、アルバ。
お前を閉じ込める事なんて絶対に出来やしないよ。
しかし躊躇なくそれが出来た「相手」に、軽蔑とも諦めともつかないため息をもらす。
そうしてやっと今度はメールが来たと思ったら謝りの言葉もなしに、いきなりの作戦通告ときた。同じ「友」という認識の中での圧倒的な壁にフェルナンデスは切なくなる。
と、そんな心地でその壁を象徴する対策室のドアを見ていると、それがいよいよ大きく音を出して響いた事に目を開く。いよいよだ。ブラウンの瞳の中にある孔が開いた。
「なんだ・・・ついに助けがきたのか?」
ドアの響きに怖れつつ近づく人質たち。それに一言フェルナンデスは
「離れた方が良いですよ。」
と答えた。
そうして、どおんと床ごと揺れる音でドアはついに開かれる。
その中からHRTとNYPDがごっちゃになって溢れ出た。
倒れる刑事たち、シードを持って突入するHRT達、つんざく音を立てて崩れ落ちる机。耳が瞑れそうな程の爆音の中、フェルナンデスはそんな彼らには目をくれず、隙間の中からだたある者を捉えようと構える。
「いた・・・・―っ!」
観音開きしたドアの真正面、黒く蠢く奴らの後ろに、大柄の「熊」はそこにいた。
横にいるHRTを殴り飛ばし、その間に機関銃ミニミを奪いとったウェッブ。
窓を背景に立つフェルナンデスを横目に捉えた熊は、その8kgあるミニミを片手に振り回した。
「うけとれええええええええええええええええ!!」
吠えるような大声と共に、太い腕を力強くぶんと音を立て、ミニミを投げるウェッブ。黒く一光したそれはHRTや警官たちの頭上を、そして少し開かれたドアの隙間をすり抜け、大きく回転しながらフェルナンデスの元へ飛んだ。
丁度良く飛ばされた機関銃を、その鉄の音をたてつつ、ロッキングレバーを掴んで受け止めるは、フェルナンデスの逞しい腕。
飛ばされた勢いのままにミニミをぐるりと振り回し、フェルナンデスは両手でぴたりと構えた。その銃口の先は、「窓」だ。
「フェルナンデス、貴様何を・・・・!?」
戸惑うサーラーや人質たちを無視し、
フェルナンデスは無表情のまま、ホロサイトを覗いて引き金を引いた。
「いやああああああああ!」
突然の発砲音に再び身をかがめるサーラーの声が無かったかのように、
ベルト給弾による秒間100発の速さで弾が飛び跳ね、音を立てた。
目にもとまらぬ速さで排莢が鉄の音を立て床に落ちる間、弾は防弾窓も、対策室を支える鉄骨さえも突き抜け、ただ真っ直ぐ広場の装甲車の前にいる奴らを、撃ちのめす。
まさか人質がいる対策室から襲われるとは思わなかったのだろう階下の彼らは、案の定逃げるように装甲車の中へと入っていった。「例の男」も、その中の一人だっだ。
ドアの前、黒く蠢く隊員らを弾き飛ばしフェルナンデスに向かって走るウェッブ、負け時とシードで抑えつけるHRTに飲み込まれながら、ウェッブは赤い拡声器をフェルナンデスに向かって投げる。
ミニミを片手にそれも受け取ったフェルナンデスは、割れた窓から大声で「ジョージ」を呼んだ。
「ジョ―――――ッジ――――!!!今だ、いけ―――――っ!!」
キインとつんざく音と共に、広場に駆け出したのは、ペルージアを連れたジョージだ。
頭を低く構え、大股で風のように走るジョージ。装甲車の後ろに回っていた隊員がジョージの足元に弾幕をはるも、ジョージも2つのキルデットで迎撃する。
そして、ペルージアがジョージより前に走り、後ろに回って彼らを襲った。
その援助も合間って、ジョージはいよいよ装甲車に乗り込む事が出来た。
奥の方で驚いた顔で座る例の男-、ポールを確認した後、抵抗するドライバーを引きずり出し、外へ蹴り飛ばす。
そして自らホイールを握りアクセルを思い切り踏みつけた。バランスを崩し攻撃しそこねるGメン達。
車が走り出し、ただ一直上にプラザの入り口に突っ込む中、仲間たちの「いけ、ジョージ!」という幾多の声がはっきりと聞こえきた。
「行ってやるぜェヒャッハアアあああああ――っ!!」
ホイールを握り、後ろからの弾道には伏せる事で避け、アクセルを踏み続けるジョージ。
装甲車が左右に揺らぎ正面に入り口が映った。
そしてついに硝子を突き破り、けたたましい音を立てながら、装甲車が入り口のホールに突っ込んだのだ。
その衝撃に前に突き飛ばされる装甲車の中の男達。ホイールに撃ちつけられたジョージの身体でクラクションがホールの中で響く。それを合図に、一斉にNYPDが、そしてHRTがごちゃまぜに歓声を上げながらその装甲車へ全方面から迫った。
「おいこら――!邪魔すんじゃねえHRTがぁぁああああ!」
「うるせえ!NYPD共、そっちこそ勝手な騒動を起こしやがってぇぇえええええ!」
「大体お前らが俺たちにたてつけるからこんな事になったんだぞぉぉぉぉ!」
「知らねえよ!俺たちに関係ねえことだろそんなモン!」
「だからそういう自分関係ないみたい態度が腹立つんだよなああああ!」
互いに警棒で殴り合い、ヘルメットをはぎとり、ネクタイを掴みとり、互いの理不尽と不遇を互いのせいだと押し付け合う最後の取っ組み合いが、装甲車の周りで展開された。
装甲車の内部もジョージと奥にいるHRTとで銃撃戦が広げられている。
運転席を盾に狙い撃ちしたギルデットの弾は、そこでついに最後の男の片手を撃ちぬいた。
ジョージは、立ち上がりガタガタ手をつけて震える最後に残ったポールを見下ろす。
「おい。」
冷徹な蒼い瞳が男を捉える。
「な、なんだ・・・・。」
男は顔をあげ、這いつくばりながら後ずさる。しかしそれをジョージは、思い切り腹を踏みつけ押さえつけた。
「吐け。FBI側のミスとちゃんと報告して、この件についてはNYPDの妥協案に従う事にするんだ。」
「な、ミスだって・・・!?」
苦し気にジョージを見る男のアンバーの瞳が、青い瞳の瞳孔が開くのを恐怖と捉えた。
「身に覚えがないなんては、言わせねえぞ。」
ぐっと歯をくいしばりながらも、ジョージの問いに答えないポール。
ジョージはそれに眉をゆっくりと顰ませ、少し痛い目に合わせようとギルデットのマズルを彼のこみかみに突きつけようとする―、その時だった。
突然、装甲車に入り込んだペルージアがジョージの横につき、男を睨みつけ吠えた。
するとポールは苦し気な表情を更に歪ませ声をあげるではないか。
「うわあああああああ、犬、犬だああああああ!!追い出せええええええええ!」
マズルを向けられるよりも怯える姿に、ジョージは手のひらに鼻をすりよせるペルージアを撫でながら余裕の笑みで嗤った。
「よーっし、全部ゲロしてくれたら離してやる。そうでもしねけりゃ、こいつにたんまり頬ナメさせてやんぞ。なんてったて、こいつは甘えん坊だからなあ?」
「わ、分かったかあらあああああ!!」
ジョージは、今度はふっと笑い無線で皆に勝利宣言を伝えた。
途端に吹き抜けのホールに響く怒声は、NYPDたちの歓声にとって変わる。
「やったぜえええええええ!」
手を挙げて喜ぶ内に、巡査の一人はHRTに一発殴られた。
8、今日だけは
「・・・・・・これ・・・全体的に誰が責任とるんですかね・・・・。」
「やめろ。正直今は何も考えたくない。」
「俺も同じく。」
すべてが終わった後の祭り。
ガラス片と瓦礫が散らばるNYPDプラザ前の広場にて、ウェッブ、フェルナンデス、サーラーは並んでプラザの無残な姿を見上げる。
入り口はガラスが割れ鉄骨もめちゃくちゃに曲がっていたり、8階を始め、所々に噴煙が浮かんでいるのを見る限り、相当な散らかり様となっているのはにまず間違いないだろう、と見ていた。
ここでようやくこの騒動の「激しさ」を思い知った3人は埃と傷だらけの顔を互いに見合わせた。
「たっく・・・・ここまでしてそんなに不手際隠したかったのか?FBIは。」
「な・・・私は本当に何も知らなかったたんだぞ!隠したがってたのはあの男…!ポール・ヴォスだ!あいつらの方「が」、「あたしら」を利用しようとて・・・!」
「はいはい。分かりましたヨー。」
FBIとの付き合いだけでも面倒なのに、FBI「同士」のゴタゴタにまでも付き合ってられっか、とため息をつくウェッブであった。
「まあ・・・とにかく。俺たちがやるべき事はアリイシャにはまず謝っておかないといけないって事だよな。」
ウェッブの確認するような言葉にフェルはすかさず頷く。一方サーラーは、割れたメガネの奥で言われなくても分かってる、と言いたげな表情でゆっくりと俯いた。
「アルバ!」
ふとプラザと反対方向へ顔を向けると、HRTから解放されたニアとおかっぱ男が、1人の男を連れやってきた。それは安っぽいTシャツとズボン、サンダルを履いた白衣を羽織る、アリイシャと同じ褐色の肌を持つ男。
白髪の短髪、そしてにこやかに笑うその男は。
「もしかして、アイツ、アリイシャの・・・・。」
「・・・・・・ンバック!」
その瞬間、ウェッブとフェルの耳に届いたのは、紛れもない「少女」の声だった。
ふらふらとよろめくペルージアに率いられてプラザから出てきた少女は、羽織った毛布を落としたのを構わずに、ただ一点を見つめ、ンバックの元へと駆け寄る。それに気づいた男も途端に顔を綻ばせアリイシャの元へ駆け寄り―
丁度3人が並ぶ所でひしと抱きしめ合ったのだった。
「耳が聞こえないのになぜ言葉を・・・・。」
「「オヤジ」って言葉ってだけは頑張って言えるようにしたんだと。」
アリイシャに続き足を引きずり、鼻に絆創膏を付けて出てきたのはジョージだ。
脇の下もぐり込むペルージアの首に手をつきながらにんまりと笑っていた。
夕焼けから辺りが暗くなる刹那、橙色が群青色に変わる空を背景に黙って抱きしめあう2人。
やがて男が顔をあげ3人の方へ顔を向ける。アリイシャも男の脚をぎゅと掴んだまま同じ様に顔を向けた。
「初めましてNYPDの皆さん。僕はオンパン・ルンコレムと言います。今日の事はウチの娘が大変お世話になりました。」
にこりと口元に皺をよせて穏やかな口調で笑う男。目尻に寄る皺といい、さながら年齢は50から55といった所か。右目周辺に広がる赤黒い痣が印象的であった。
「いえ、私はFBI・・・・・」
とサーラーが言いかけた所でフェルは2人の前に出た。
「いえ、こちらこそ、私はバート・フェルナンデス市警本部長です。ニア巡査部長から大体話はお聞きしたでしょうが、此方の不手際で、アリイシャちゃんをテロリストなどと認識し、不名誉かつ恐ろしい目に合わせてしまい本当にすみませんでした。」
「おい、何謝ってんだ。市民ならともかく、こいつらはただの観光客なんだぞ。何もそこまで・・・」
「サーラー!」
諦めの悪い彼女を咎めるように、ウェッブが叫ぶ。ウェッブもフェルナンデスの前に立ち
「すまなかった。」
と謝った。
「・・・・・。」
サーラーはしばらく黙っていたが、その様子を見てしぶしぶと言った所で3人の元へ並び立った。
「不手際はNYPDだけではなくこちら、FBIの方にもありました。私もJFFTの指揮官として貴方と貴方の娘さんには深くお詫び申し上げます。」
と乱れた髪を掻き揚げ謝ったのだった。その様子を怒る事もなく、だた穏やかな大きな目で見守るオンパン、一方当の本人は何も分からずぽかんと口を開け、目を瞬かせている。
「おいおい見ろよ、信じられるかコレ・・・・。」
一方プラザ内、互いに治療にあたっているNYPDとHRTがこれまたごちゃまぜに、割れた窓ガラスから広場の光景を見守っている。
彼らにとって上官にあたるNYPDの「四ツ星」警察本部長と、教導担当委員長、そしてFBIの鬼と称されたJFFTの指揮官が共に並んで、わずか4歳の外国人の女の子に謝っている、という光景。
今日の騒動も含め、こんなの滅多にない事だと、皆固唾を飲んでいた。
「んで、オンパン。なんでコイツ、あんなオブジェの前にバックの中で置き去りにされてたワケ?」
そんな厳粛な空気を壊す「いつもの」口調で、ジョージはオンパンの遠い後ろに位置する赤のオブジェに親指を突き立て、質問した。
「ああ・・・・それはねえ・・・・。」
突然焦った表情をして白髪を掻くオンパン。
「いやっ・・・ここで言うのもアレなんだけど・・・僕たち実は不法入国者でしてねえ・・・・へへへ。」
「ぬな・・・・・!?」
犯罪者に謝った事に途端に顔を蒼くするサーラー。一方ウェッブはアリイシャの生まれた環境を考え、あーやっぱりねと口を開いた。
「けんども、そこで運び屋と金額の事でちょいともめやしてね。せめてアリイシャには手を出させまいと取りあえずプラザの前に隠したんですよ。万が一見つかっても警察本部の前なら奴らも手を出さないかなと思ってー。で、なんとかトラブルを回避して戻ってきたらこうなってた・・・・てワケでして。」
「なあああああああ!?」
サーラーは一目も憚らず叫び、オンパンの手を掴んだ。
「アリイシャの事はともかくお前はとりあえず確保だ!すぐに強制送還してやるぞ、この野郎!」
「えへへ・・・やっぱり。」
サーラーと対照的に呑気に笑い、髪を掻くオンパン。この父親の、呑気かつ無鉄砲な性格がアリイシャの生活に大きな影響を与えているのではないかと、ウェッブはオンパンのへらへらした笑顔を見ながらため息をついた。
しかしその足を掴むアリイシャの、父親を見る眼差しは、透明で純粋な黒色をしていて―、
「子は親を選べないってか・・・・。」
やがて、装甲車が突っ込んだホールから頭を出し、エンジン音をたてながら彼らの前に止まる。
「げっ。これで連行すんのかよ。」とジョージ。
「仕方ないだろ。お互いこの事は出来る限りチャラにしたいんだ。嗅ぎつけられる前にさっさとここからコイツらを見えない所へ連れて行くのが、賢明な方法なんだよ。」
と、サーラーはすばやく答える。そして彼女によって背中を押されたオンパンは、装甲車に手をつけた。
「よし・・・じゃあ、行こうかアリイシャ・・・ってあれ?」
さっきまでオンパンにしがみついていたアリイシャはいつの間にかそこからすりぬけ、ジョージの元へと走っていた。プラザの方から口笛が響く。
アリイシャはまず、ジョージの足元にいるペルージアの前にしゃがみ、首に手を回して白く、柔らかい毛に顔をうずめた。目を瞑り、強くかつ優しく抱きしめるアリイシャをペルージアはアンバーの瞳で伺いながら
「もう分かったわよ。」
と言いたげに、長い睫毛を伏せた。(※雌)
そして、アリイシャは髪をかきあげ長身のジョージを見上げる。
片手には最後まで手放さなかった、唯一ジョージと言葉を交わす手段、「i-Pad」。自力で、素早く文字を打てるようになったアリイシャは、精一杯の笑顔でその画面を両手で掴みジョージに示した。
『私、おにいちゃんに会えて良かった。ジョージお兄ちゃん大好き!いつかまた会いに行くからね!』
何も知らない、少女の曇りのない黒真珠の瞳はジョージの淀んだ蒼い目を真っ直ぐに見つめる。ジョージはアリイシャからまるで眩しいものを見るように顔をそむけ、ああと呟く事しか出来なかった。
そんなそっけない態度にも、アリイシャは頬を染め満足そうに「にこり」と笑ったのであった。
最後に軽やかに白ワンピースを靡かせて、今度はプラザの皆に向かって褐色の細い腕をかざし、手を振る。お別れの挨拶だ。
「さようならー!アリイシャー!」
「NYを楽しんでこいよー!」
「私も今度旅行でバリ島いくからー!会えたらまたよろしくねー!」
一方アリイシャと同じく事情を知らないプラザの仲間は、大声でアリイシャの最後の挨拶に答え手を振った。アリイシャはその様子に振り向きざまにもう一度微笑み、黒髪のボブカットを揺らしながら装甲車の方へ走った。
自分と同じ褐色の色をしたオンパンの手を、愛おしそうにそっと手に握り、FBIとフォントが付けられた車に乗り込むアリイシャ。彼女とその父を載せた車は、大きなエンジン音を一度ならし、そして一気に、ネオンがぽつぽつと現れ出たパーク・ロウを走り去る。
「あらら・・・結局あの子。ニア巡査部長のi-Pad、取ったままにしちゃいましたよ。」
おかっぱの男が心配そうにニアを見上げる。
「あら、やだ私はあの女のとは違うのよ。」
余裕の笑みを見せ、ニアは広場を歩いた。サーラーが装甲車に乗り、いなくなった頃合いを狙ってウェッブに近づき、その肩に手を置く。
「アルバ、今日は大変だったわね。」
「ああ、全くだ。」
と振りむいたウェッブの顔には、悲壮感は感じない。それはニアも同じであった。
「たっく、これから更に面倒な事になるってのに呑気に笑ってやがんな。」
2人を呆れるように見ながらフェルナンデスが2人の間に割り込む。
「そうだな、お前の頭の砂漠化がいつにも増して・・・。」
「そういう事じゃない!」
本気で噛みつくフェルナンデスに2人は同時に笑いあった。
「確かに今日は大変だったけれど、だからこそみんながこれで何か色々とふっきれたような気がするわ、私も。」
しばらくしてプラザの方へ振り向き、メアリーがHRTとに話し合う姿を見ながら呟くニアを横目にフェルナンデスは腕を組んでため息をつく。
「さあ、どうかな。明日もまたいつもの一日があるだけだと思うがな。」
「まあな、でも『今日は』、違うだろ?」
と答えるウェッブの言葉にフェルナンデスは何も言わずにふっと息吐のように穏やかに笑い、ウェッブと共に空を見上げた。
「え、何何、何か見えるの今。」
と、その空気を知らないジョージも興味本位にウェッブの横につく。
巡査部長と警察本部長、担当警察委員長にそして巡査。
階級も違う彼らは、今「だけ」その垣根を越え、共に並び、星が出始めた空を見上げている。
明日はまたいつも通り、いやそれ以上に過酷の日々になるであろう。
しかし彼らは今はただ、4歳の物言わぬ女の子によってもたさられた『今日この日』を忘れまいと、共に思ったのであった。
どこか遠くで、花火の咲く音が聞こえた。
〈終〉
〈あとがき〉
いよいよGGも、ここからあと2話を残すのみとなりました。
その2話は、今のところ色々シリアルな所が多くなりそうな予感なので、その前の5話はいつも通りのB級テイストで行こうと思い、以上の話となりました。
個人的に最もバカ騒ぎ出来た話だと思います。何よりNYPDのプラザを舞台に書けた事は私にとって大きいものでした。そして何より前から出してみたかったK―9を出す事が出来て良かったです。わんわんおわんわんおー!
さてはて、5話にてようやく登場した幼年キャラ、アリイシャ。他の女性の例にもれずジョージに一目ぼれしてしまったようですが、如何せん不法入国者の再入国は非常に厳しいもの。当分の間会える事はなさそうです。
ジョージがインドネシアに行くって事もなさそうだしなあ・・・自分で設定しといてとても切なくなりました。
そして今回は主人公のジョージのみならずウェッブにも焦点を当て、フェルナンデスとの微妙な(笑)友情関係を捉えていました。
ここだけの話、実はウェッブとフェルナンデスは巡査時バディーを組んだ以来の同僚・友人であり、当時(主にウェッブが)大暴れし放題のペアという事で名を覇していました。
つまりジョージ&ヨーナスペアの先輩方にあたるわけですね。そういう事もあってか、大暴れするジョージを上層部もそれなりに受け入れたのも、かつてのウェッブがそうだったから、というあまり意味のない背景がここにあります。
まあ、主にウェッブと言っても、あのミニミの使いようと言い、フェルナンデスもそれなりにその「気」があったのではないかと思わずにはいられません。
今回も5話を読んで下さってありがとうございました。
またしばらく、NYPDメンバーとのお付き合いをよろしくお願いします。
裏設定が一番面白いと定評の
根井舞榴
アリイシャ・ルンコレム:
インドネシア人。4歳。身長92cm。バリ島に住む平凡な少女。ヒンドゥー教徒。本当はインド人であるが、インド地方の道路にて捨てられていた所を、アンボン島出身のオンパンに引き取られ以来インドネシア人として暮らしている。捨てられた影響があってか、耳が聞こえない。呑気な藪医者オンパンの生活力の無さにより、貧しい生活を強いられるも、彼を本当の父と思い強く慕っている。
サーラー・アリ:
アラブ系アメリカ人。39歳。身長174cm。FBI捜査官兼JFFT指揮官を勤める女性。イスラム教徒。その厳しい態度と口調により仇名は「鬼指揮官」。
合理的な考えを突き止める一方、非常に短気でヒステリックな所がある。また宗教上の都合、女性である事にコンプレックスを持っており、非常に男らしく振る舞おうと背伸びしている。の割に黒ストッキングに紅いピンヒールというセクシーな服装をしているのは、ムアーマラートに忠実だった父に対するせめてもの抵抗。しかし、コンプレックス持っているという時点で、女である事に固執している事に気付いていない。アーサーに並々ならぬ恋心を抱いている。




