3話 面倒ごと
その後、ユレイズがミルフィユの隣に座ると、タイミングを見計らったかのようにミルフィユたちの担任教師が教室へと入り、教室は一気に静かになったが……。
(皆さんからの視線が痛い……)
教師が今後の学園生活について説明しているさなか、主に女子生徒からの殺気を多分に含んだ視線を受け、ミルフィユはどうして自分がこんな目に、と考えながら、膝の上で拳をきゅと握る。
確かに、ユレイズが教室に入ってきたときは、クラスメイトの関心が自分からそれて、助かったと思った。でも、これならばユレイズが来る前の方が何倍もよかった。
「……以上です。今日は授業などは行いませんので、皆さんは今日の疲れをとるために、ゆっくりと休んでくださいね」
ミルフィユが悶々としていると、教師の話が終わったらしく、教室はあっという間に、教師が来る前の騒がさへと戻る。
(今日は早く部屋に戻って寝よう……)
なんだが、今日一日だけでどっと疲れた気がしたミルフィユは、これ以上注目されないようにそっと席から立ち上がり、速やかに教室から出ようとする。が……。
「アレスティファさん、君も早くこの学園に慣れたいだろうし、俺がこの学園を案内してあげるよ!」
「……」
ミルフィユにそう声を掛けるのは、彼女が知る限り一人しか存在しない。そう、ユレイズだ。
(嫌だ、何が何でも、絶対嫌だ……)
誰が好き好んでこれ以上目立たなければならないのか。でも、ここで断っていちゃもんをつけられるのも嫌だし……。
「…………わかりました……」
嫌々答えるミルフィユは、ニヤリと意地悪く笑うユレイズに気が付かなかったのであった。
「……と、まぁ、大体こんな感じかな」
時間にして約三十分間、ユレイズは付きっ切りでミルフィユに学園中を案内し続けた。
ミルフィユはその間、女子生徒男子生徒関係なく自身に向けられる、嫉妬、不審、疑念の目に居心地が悪さを感じ、この時間が一刻でも早く終わってくれと、願い続けていた。
そして、やっと終わりそうな気配を察知し、ほっと息をついたのもつかの間、唐突にミルフィユはユレイズに手首をつかまれ、行先も告げられずに連行される。
「あの、えっと……いったいどちらへ?」
「まぁまぁ、いいから」
何がいいのであろうかと口に出そうとしたが、きっと答えてなどくれないだろうと思い直し、ミルフィユは口を固く結ぶ。
「そんな緊張しないでよ。別に、取って食うわけじゃないんだからさ」
「……」
ミルフィユがユレイズに疑念の目を向ける間にもどんどん歩みを進め、二人は人気がほとんどない中庭の東屋に到着した。
「あの、ライヴィジル様。どうしてここに……」
「――ねぇ、アレスティファさん。単刀直入に言うけどさぁ」
何故、ユレイズは自分とこんな人気のない所に来たのか。
そうミルフィユが疑問を口にしようとした途端、ユレイズは彼女の言葉を遮るかのように、先ほどの学校を案内していた時のような穏やかな声とは打って変わった冷たい声でミルフィユに質問を投げかける。
「どうしてお前は孤児になったんだ?」
「!!」
――どうして、それを……!!
そんなミルフィユの内心の焦りを見透かしたかのように、ユレイズは薄ら笑いを浮かべる。
「なに、王立魔法学園史上初の平民の生徒がどういう人物かを調べていくうちに、お前が五歳の時に両親と姉を失っているのをたまたま知ってなぁ……。で? どうしてお前は孤児になったんだ?」
「そ、それは……」
「俺はお前が孤児になった理由が、この学園初の平民の入学を許可したことにつながっているとみていてな……。教会の神父ごときの言葉一つで、お前の学園入学が決まっただなんて、なんとも夢物語のように感じないか?」
「っ!!」
⦅ご、ごめんな……ごめんなさい……!!⦆
ユレイズの容赦のない言葉で、ミルフィユはあの日のことを思い出してしまい、息をのむ。
「おい、いつまで答えないでいるつもりだ? これ以上、俺の貴重な時間を奪うなら……」
「――おい、何をしている!!」
誰かの叫び声のような声が耳に届いたとたん、ミルフィユは声の主によって肩を抱き寄せられた。
「大丈夫か? アレスティファ君」
「…………ディスユイル様……」
声の主の正体――リシュラの穏やかな声を聞き、ミルフィユは安心したのか、ぽつりぽつりと、これまで耐えてきた涙を流し始めた。




