2話 クラスメイト
「これより、第84回、王立魔法学園入学式を開始します」
先ほどまでざわざわと騒がしかった会場は、前に立った教師の一言で一気に静まり返り、ミルフィユはひそかに息をのむ。
さすが貴族と言うべきか、マナーはしっかりしている。……この調子で、平民への当たりも柔らかいものになっていくといいのだが。
そう考えるミルフィユをよそに、入学式は淡々と進んでいく。
「…………6、新入生代表挨拶。リシュラ・ディスユイルさんお願いします」
「はい」
しばらく視線を下げ、存在感を消しながらぼぉっとしていたミルフィユだったが、聞いたことのある名前と声に反応し、目を見開きながら顔をあげる。
「皆さん、初めまして。新入生代表の、リシュラ・ディスユイルです。今日は僕たちのためにこのような式を開いていただき、誠にありがとうございます。…………」
王立魔法学園は受験制であり、貴族の子供の中でもほんの一握りしか入れない超名門校。
魔法学園に入学できるだけで、貴族の中でもトップレベルで優秀ではあるのだが、その中でも、成績首位者が毎年、入学式の新入生代表を努めることになっている。
ミルフィユは、そんな名誉あることを任せられた人物がまさかの知り合いであることにはもちろん驚いているのだが、彼女が何より驚いていることは……。
(え、同い年だったの……?)
その後、入学式はいつの間にか終わっており、ミルフィユは驚きの余韻を残したまま、自身が振り分けられたクラスへと向かっていた。
ミルフィユのクラスは1-A。彼女はそこで来年のクラス替えまでの間、約 一年間の学園生活を送ることとなる。
「え、待って私、あの平民と同じクラスなのだけど」
「うわ、私もだわ……。来年はお父様に、絶対あんな子とは同じクラスにならないように頼んでおこうかしら」
……入学式が終わって教室に入っても、変わらずミルフィユの悪口は聞こえてくるが。
できるだけ早くほとぼりが冷めるよう祈りながら、ミルフィユは窓際の空いている席に適当に座る。
勿論、平民であるミルフィユの近くには誰も近づこうとせず、三人ほどは座れる席に、ミルフィユ一人がポツンと座っていた。
まぁ、これまで受け入れられてこなかった平民を、貴族の中でもほんの一握りしか入れない魔法学園に、受験もさせずに入学させたのだ。不当だと思われても仕方だがないのではあろう。
それに、ミルフィユ自身も一人は慣れていた。……これまで、ずっと一人ぼっちだったから。
(でも、やっぱり心細いなぁ……)
「失礼します」
生徒たちからの非難を多分に含んだ視線を感じながら、ミルフィユが一人、心細さに押しつぶされそうになっていると、まるで救世主のように、教室の入り口辺りから男子生徒の声が響いた。
「え? もしかして、ユレイズ様もここのクラスなのですか……?」
教室の入り口近くにいた女子生徒の一人が、男子生徒――ユレイズにそう声を掛ける。
ユレイズ・ライヴィジル。名前からも察せられる通り、彼はライヴィジル王国の第一王子であり、見た目は金髪に端麗な顔つきの好青年だ。
「あぁ、そうだよ。今日から一年間、よろしくね」
ユレイズのさわやかな返答に、教室にいた女子生徒の顔がパッと明るくなるのがわかる。
一方で、ミルフィユはクラスメイト達の関心が一気にユレイズへ向いたことにほっと息をつきながら、窓際の席であることをいいことに、外をぼんやりと眺める。
ユレイズに微塵も興味がわかないミルフィユをよそに、二人組と思われる女子生徒のうちの一人が、ユレイズに向けて声を掛ける。
「ユレイズ様! こちらの席が空いているので、ぜひ!!」
「ありがとう! ……でも、実は俺には先着がいてね」
リシュラの一言に、ミルフィユを除いた女子生徒が一斉に首をかしげる。
そんな彼女らに、ユレイズはさわやかな笑みを向けながら、いまだ外に目を向けているミルフィユにゆっくりと近づく。
「よろしくね、アレスティファさん」
「……は?」
呆気にとられるミルフィユの目には、ユレイズのさわやかな笑みが、とても胡散臭いように感じた。




