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住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?  作者: 赤月ヤモリ
第三章 渋谷ダンジョン編

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ep57 探索者たちの共闘

 私こと富岡久信とエンジェル・クイーンの戦闘は膠着状態が続いていた。

 想像以上に攻めきれない。決め手に欠けるのだ。

 茨の攻撃にも慣れ、魔法の防御や牽制も慣れた。

 だが――突破できるだけの戦力差が彼我の間にはない。


(Sランク指定のモンスターであるエンジェル・ナイトの上位種……流石に厳しいな)


 そもそもSランク指定のモンスター自体、普通はAランク探索者と複数のBランク以上の探索者の協力を必要とするランクのことだ。そんなSランク指定のモンスターのさらに上位種ともなれば、はっきり言ってSランク探索者の相馬くんぐらいしか単独討伐は不可能だろう。


 なら、仲間を募ればいいという話になるが……。


 周囲を見回すと、エンジェルポーンとエンジェルナイトを相手にギリギリの戦いを続ける他の冒険者の姿が見えた。


(……っ、余裕はない)


 むしろまだ死人が出ていないだけましだ。

 全員が全員、回復魔法を使える魔法使いを中心に、彼ら彼女らを守るように戦線を維持している。大怪我すれば下がり、軽い怪我なら戦闘続行。


 極力傷を負わないように、時間を――私がクイーンを討伐して戦線に復帰するまでの時間を稼ぐ戦い方をしている。


 要は、私が助ける(・・・・・)ことはあっても、私が助けられる(・・・・・・・)ことはあり得ない。


「――ッ、っせい!」


 沙耶が大きく踏み込み『雲耀』でクイーンを攻撃する。私ほど正確に攻撃はできないが、それでも速度自体はほぼ変わらない。必然的に、威力も私とそこまで差はないのだが……エンジェル・クイーンには傷一つついていない。


 すべて茨と氷魔法の障壁で防がれていた。


「くそっ!」


 沙耶が苛立たし気に悪態をつく。

 こちらが相手の動きに慣れてきたということは、相手も同様に慣れてくるということ。私たちほど武術に精通した感じはしないが、それでも実力が高ければ観察眼も高い。


(最悪の場合、魔力切れを待つ……ということも考えていたが、この様子じゃ無理そうだな)


 先ほどから魔法を頻繁に発動し、茨を縦横無尽に動かしているにもかかわらず、手を緩める様子がない。普通、魔力が切れそうになればペースを落としたり戦闘スタイルを変えたりするものだが……それがないということはまだまだ余裕なのだろう。


 身体強化のみとはいえ、もともとそこまで魔力量の多くない私の方が先に底を尽きそうだ。


(ただ――)


 私は静かに息を吐き、フェイントを織り交ぜながら雲耀で攻撃を仕掛ける。

 狙うは左腕(・・)――と見せかけて、首。

 エンジェル・クイーンは左手を庇うように茨を集中させ、しかし首元にも氷魔法で防御を張り、フェイントも本命も両方防いで見せた。


(やはり左腕……それも正確には手首から先を守っている)


 考えられる可能性とすれば、そこに茨の核か何かを仕込んでいるのだろうか? だが、それなら身を挺してまで守る理由は分からない。重要な武器だが、武器を守るために命を懸ける意味はないだろう。


(分からない)


 分からないが、突破口となるのは左腕。

 ただ、そこばかり狙うと、今度はこちらの動きが制限される。結局のところ、何処までいっても状況は平行線なのだ。何か、大きな変化が起こらない限り。


「どうする、お父さ――ッ!?」


 沙耶が今後の立ち回りを話し合おうとした刹那、エンジェル・クイーンが動く。これまで見せていた茨による攻撃ではなく、直接本体が動き出したのだ。


 その速度は想定をはるかに上回り、息継ぎの間に距離を埋め――氷の刃を腕に纏わせて突き出す。沙耶は何とか刀で防ぐが、軽い彼女の身体は宙に吹き飛ばされた。


「っ、このっ!」


 追撃を阻止するために攻撃を仕掛けるが、クイーンはこちらに茨を飛ばして時間を稼ぐと、宙を舞う沙耶目掛けて風の刃を放った。一つ目、二つ目は剣で弾く沙耶だが、三つ目四つ目は防ぎきれず、身をよじって直撃を回避。頬と腹部に裂傷を負う。


「嫁入り前の娘によくもッ!!」


 茨を切り裂いて、中の本体へと刀を振るう。

 が、直前で回避され、切っ先は空を切る。


「チッ」


 手数が足りない。

 あともう一押しが届かない。

 戦力が足りない。

 せめてもう一人か二人、抑えられるものがいれば……。


 しかし同所のCランクとBランク探索者はエンジェル・ナイトとポーンに集中しており、とてもこちらに戦力を避ける状況ではない。そんなこと、馬鹿でも分かる。


 馬鹿でも分かる(・・・・・・・)はずなのに……ふと、背後から突風が吹き荒れた。


 何だと振り返ると同時、身の丈ほどもあるバスターソードを担いだ少女が、エンジェル・クイーンへと切りかかる。風の勢いを一身に受け、空中でグルグルと回転して力を籠めると――。


「どっせぇえええええい!」


 大剣をクイーンに叩き込んだ。

 茨の防御を叩き切り、氷の障壁を粉砕する火力は――直撃の寸前でクイーンが下がったことで命中とはならなかったが、衝撃で地面が割れて砂埃が舞う。


「あれっ!? 避けられた!? ってか何こいつ!? すんごいわしゃわしゃしてるんだけどぉおおおおお!?」

「白木ちゃんの馬鹿! なんで碌に相手を見ないで突っ込むの!? それ富岡さんが相手してる一番ヤバそうなモンスターだよ! ラスボスっぽい奴だよ!」

「……茨は、食べられない」

「友利ちゃん!?」


 白木、と呼ばれた少女に続いて現れたのは、フードを被った少女とお腹をぐーぐー鳴らす少女。確か、相馬くんがこの階層を出発する前に話していた三人だ。


 突然の闖入者に驚いていると、茨がツッコミ少女へと伸びる。

 咄嗟に助けに入ろうとして――。


「江渡、下がって」


 空腹少女が茨を無手で弾いた。

 相手の力を攻撃の流れを完璧に読み、最小限のパワーで受け流す様は何かしらの武術の気配を感じる。


「キミっ、戦えるか!?」

「え……できる、ます? けど」

「なら手伝ってくれ! そっちの大剣の子も! キミはサポートを頼めるか?」

「わ、分かりました」


 手数が、防御の数が増えた。

 攻撃は見え見えだが、大剣の子(確か白木だったか?)の火力も期待できる。


「まず私と娘で突っ込むから、キミ……友利さんでしたか? 飛んでくる茨を弾いて下さい。そして何とか道を切り開きますので、白木さんは最大火力で攻撃を喰わて下さい」

「はーい。あ、でも、どうせなら……おーい、猫ちゃんさん! ちょっと手伝ってー!」


 白木さんが声を大にした直後、どこか見覚えのある少女が目にも止まらぬ速さで駆け寄ってきた。


「何かあった……にゃっ!? と、富岡さん!?」


「はい、富岡です。貴方は確かダンジョン配信者の……」


 そうだ思い出した。

 相馬くんと同じ魔速型で、かなりの実力者の少女だ。

 ……なるほど。


「今からあのモンスターを討伐します。攻撃パターンを把握している私と沙耶が先に突っ込んで道を開くので、本体に攻撃してください。特に……左手首を庇っている様子があり、そこが弱点の可能性が高いです」

「は、はにゃ……わ、わかったにゃ。よくわかんにゃいけど……そろそろ向こうの防衛に富岡さんが欲しかったところにゃし……いっちょぶっ倒してやるにゃ~」


 ぺろり、とのの猫は唇を舐めると、笑みを浮かべてみせた。


(白木さんもそうだが、こんな状況でも笑えるなんて最近の若い子はすごいな)


 なんて、沙耶が聞いたら『ジジ臭い!』と怒りそうなことを考えながら、私は武器を構え――クイーンに一点攻勢を仕掛ける。


 まず迫ってくる茨を、私と沙耶が切断していく。

 ある程度棘で皮膚が裂かれるのも考慮しつつ、道を作る。これに対して迎撃魔法が飛んでくると、江渡さんが同系統の魔法をぶつけて撃ち落とし、それすらも突破してきた魔法は、私が切断する。


 必然、身体はがら空きになり、その隙を逃すまいと茨が迫るが――。


「ふんっ」


 友利さんが容易く受け流してしまった。

 それどころか彼女は江渡さんに向かう茨も同時に受け流し、恐ろしいほどの視野角と反応速度で茨の攻撃を捌いていく。


(……ほんと、最近の若い子はすごいな)


 なんて思うのと同時、エンジェル・クイーンに到達。私たちの役目はここまでだが、当然手を抜くなんてことはせず、躊躇なくクイーンの鎧の隙間目掛けて攻撃を叩き込む。


 父娘による――『雲耀』。


 二つの稲妻が迸り、しかしクイーンはこれを茨と魔法を駆使して阻止。私の刀は鎧に深い傷跡を刻むだけで、致命傷には至らない。――が、そんな私たちの背に隠れるように、二人の少女が躍り出る。


 白木さんは突風をその身に浴びながら大剣を軽々と振り回し――クイーンの頭部目掛けて叩き落す。鎧の隙間だとか急所だとか碌に考えず、ただの力任せ。当然回避されるし、仮に直撃していたとしても碌なダメージにはならなかっただろう。


 だが、視線を集めるには十分だった。


 小柄な少女――のの猫さんは魔速型で一気に加速すると、速度を一切緩めることなく左腕の内肘の関節部に剣を突き刺した。


『GI,GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――ッ!!』


 痛みによる絶叫――というよりは、悲嘆と激情が滲む咆哮を上げ、鎧越しにのの猫さんへと殺意をたぎらせるエンジェル・クイーン。これには堪らず、彼女も後ずさりし――刹那、クイーンが動いた。


 氷の剣を生成すると、恐るべき速度でのの猫へと突貫。

 その首筋を叩き切ろうとして――。


「怒ると動きが単調になる」


 二人の間に割って入った友利さんが攻撃を受け流した。

 その間隙を私たちは逃さない。

 私と沙耶は刀を納刀してから柄に手を掛けると、短く息を吐き――『雲耀』を発動。隙だらけのクイーンの左手首を切断した。


『GA,AAA……っ』


 クイーンは攻撃されて隙だらけにもかかわらず、私たちのことは完全に無視。

 左手首へと手を伸ばすと……それを守るように、ぎゅっと背を丸めた。

 まるで我が子を守る母親の様に、自らの命よりも左腕を守ろうとする。


 慈しさすら感じるその光景に、周りの少女たちが固まった。

 それもそうだ。

 それほどまでに目の前のモンスターは、どこか人間らしさを見せたのだから。


(……しかし)


 私は小さく息を吐き、クイーンの首へと刀を振り下ろす。

 身体強化を施した一閃は、正確に鎧と鎧の間を抜けてその中身を切断した。

 鎧の兜がごろりと落ちて、何かを守るモンスターはあっけなくその身を崩して地面に倒れる。


 しばらくすると、モンスターの身体はダンジョンに飲み込まれて、魔石だけが残る……はずだった。


「……っ」


 私は咄嗟に魔石の横に落ちていた物を足で踏んで隠す。

 他の少女たちに見せないように。

 幸い何も見えなかったのか、全員私の動きを不思議そうに見ているだけ。


「……お父さんどうしたの?」


「いや、何でも……それよりも今は他のモンスターを討伐するのが先だ。白木さんたちものの猫さんもありがとうございました。もうしばらく協力お願いします」


「りょーかい!」


「分かったにゃ~」


 そう言って、先に駆け出す四人。


「沙耶も、先に行きなさい」


「? 分かった」


 遅れて駆けだす沙耶の背を見送り、私は足の下の物へと思考を伸ばす。

 あの一瞬、そこにあったのは美しく輝く指輪だったのだ。

 落ちていた場所から考えて、左手に嵌められていた物だろう。


(クイーンが命を懸けて、最後の最後まで守り抜こうとしたのが、左手に嵌めていたであろう指輪だなんて……勘弁してくれ)


 モンスターとは思えない意思のある行動。

 言いようのない後味の悪さが、私の胸中を満たす。

 私はそれを回収しようと、足を退けて……。


「……え?」


 そこには何もなかった。

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