旅の仲間 託されたもの 4
するとこの父親は急にボロボロと泣き出した。それをネイルーラさんに慰められている。
だが、俺の良心は痛まない。
この親の教育が偏ったせいで、俺はハイエルフの至宝を預かり、あまつさえ危険な旅に同行させなくてはならなくなったのだ。俺の抱える重圧を少しは思い知るがいい。
「お兄ちゃん!今のって、ミルと・・・・・・あたしと結婚してくれるって事?!」
やべっ!ハイエルフってすごく耳が良いんだった。
「いや、そのね」
思わず慌てると、ミルが屈託無く笑う。
「大丈夫だよ!あたしも今すぐだなんて思ってないから!もちろん100年後とかでもないよ!あたしが大きくなってからで大丈夫だからね!」
「ん?ああ」
そっか。いくらハイエルフでもちゃんと時間と共に成長するはずだもんな。この子が大きくなるのってどの位の時間なんだろう?
そう考えたが、俺の中途半端な返事がミルに誤解を与えてしまった。
「じゃあ、お兄ちゃん。あたしが大きくなるまで待っててね!!」
ミルは嬉しそうに笑うと、クルッと回って見せた。
この子が大きくなる頃には、今の幼い恋心なんて変わっているはずだ。
どんな形になるにせよ旅は終わり、この子はエルフの大森林に戻り、ハイエルフとして生きていくのだから。そして、ハイエルフの人生は果てが無く長い。
俺はたまたまこの子が初めて見知った、自分を救った男というだけだ。俺がこの子の長い長い人生に大きな関わりを持ってはいけない。
そう考えているとネイルーラさんが俺に近寄ってきて、俺の耳元に極小さい声で囁いてきた。
「ハイエルフの愛情は永遠ですよ」
ええ?何だか急に腕に鳥肌が立った。ネイルーラさんはクスリと笑うと、うなだれるヒシムさんと、浮かれた様子のミルを連れて歩いて行った。
去り際にミルが大きな声で俺を呼ぶ。
「お兄ちゃん!後であたしの家に来てね!!」
俺は片手を挙げて答える。
「ああ。迎えに行くよ」
どうせ村に荷物を取りに行くし、報告もしなくてはいけないのだ。その時に合流しよう。ミルにも旅の準備を整えてもらわなきゃいけないからな。
「やだ!『迎えに行く』って、本当に王子様みたい!!」
ミルが嬉しそうに飛び跳ねながら去って行く。何だかやっぱり子どもだよな。
そう思って見送ると、いつの間にか俺の隣にタイアス殿が立っていた。
「カシム殿」
「はい」
俺はタイアス殿と向き合う。
「あの子の事をお願いする」
ハイエルフの里長が俺に頭を下げる。
「あの子は我らの宝だ。本当は危険な目に遭わせたくない。他の永遠の初芽共々、森で穏やかに楽しく過ごして欲しい」
おお。他の「永遠の初芽」は森で楽しく過ごしているわけだ。あれ?この情報、秘中の秘の更に秘密にしておかなきゃいけない事柄なんじゃないでしょうか?
身内かと思って人間にあんまり秘密をしゃべらないで欲しいなぁ~。それだけ信用されているって、光栄に思うべきなんだろうが、俺には重荷だよ。
「だが、我らが大切にするのは『夢』だ。長く生きる我らにとって、夢を持ち、叶える為に努力していく事こそが最も大切な生き続ける糧になる。夢がなければ我々など生きる屍同然なのだ。一つ夢を叶えてはまた夢に挑む。その繰り返しで我々は生き続けていける。我らが最も愛する子どもたちの夢を、どうして応援しないでいられようか」
そうか。永遠に生きる事って、思っているよりも大変な事なんだな。俺だったら耐えられるだろうか?
食べる事も飲む事も本来は必要としない以上、労働する意味が無い。そして、永遠生き続ける。
虚無に陥ったとしても当然だ。
そうならない為にハイエルフたちは、本来必要無い睡眠を取り、食べて飲んで、作って、育てている。
夢を持ち、夢の実現の為に、敢えて困難な道をたどろうとする。
そうして生を感じ続けているんだ。そうしなければ生きていけないのだ。そんな生き方は俺には出来そうもない。
ハイエルフたちって強いな。俺は素直に尊敬した。
「カシム殿。君にとんでもない重責を背負わせるようで心苦しいが、くれぐれも頼む。あの子の夢を叶える為に協力してほしい」
「はい。出来るだけの事はします。・・・・・・もう、ミルは私の仲間なのですから」
俺がそう答えるとタイアス殿は安心した様子で笑う。
「君の進む道に祝福あれ」
俺はタイアス殿と握手をする。
「いずれ君にはエルフの大森林に遊びに来て欲しい、『森の友人』カシムよ」
「ええ。いずれ」
俺は自然にそう答えていた。だが、エルフの大森林に踏み行ったりして平気なのか?
「初芽がいれば、恐らく何とかしてくれるはずだ。まあ、死ぬような事もあるまい」
え?ちょっと不安になってきたんだけど・・・・・・。
「それとな。やはり一番の不安はアズマだ」
え?一番の不安は創世竜じゃないの?俺はそれが一番不安なんだけど。
「アズマのアマツカミと我々ハイエルフの確執はかなり深刻でな。ハイエルフがアズマに入国する事など、とうてい許される事ではあるまい。だが、忍者マスターになるにはどうしてもアズマに入らなければならない。あの子が永遠の初芽だとしてもアマツカミたちと我々の架け橋になる事は難しかろう」




