旅の仲間 相棒 2
「案内ありがとうございました。ここからは冒険者である私の仕事です。どうか、ここでお待ちください」
リラは決然と告げると馬から飛び降りる。狩人は心配そうにリラを見つめたが「わかりました」と答える。
「ここで待っていますので、どうかお気を付けて・・・・・・」
リラは狩人に微笑みかける。
本当は男性が苦手なリラなので、狩人にしがみついて馬に乗っているのは、大変緊張していたのだが、冒険者として、吟遊詩人として振る舞う限りは、何とか余裕ある風に装えている。
完全に余談ではあるが、緊迫したこんな状況ながら、狩人の方も、かなりドギマギしていた事をここで告げておこう。
だが、2人とも、お互いの役割を理解して、無理を押して緊迫した雰囲気を作りきっていた。
リラは周囲を警戒しつつも、塔の入り口のドアに駆け寄る。だが、恐らくこのドアには何らかの罠が仕掛けられているはずだ。うかつには触れない。そう思い迷っていたら、内部での戦闘音が途絶えた。
「急がなきゃ!」
どんな罠だろうが構ってなどいられない。リラがドアの取っ手に手をかけようとしたその時、疾風と共に黄色い男が姿を現し、リラの手を掴む。
「待ちなさい。罠なら拙者に任せるでござる」
そう言うとその黄色い男は、取っ手に近づきどこからか出した針金で鍵穴をいじくる。
黄色い男の髪は見事なエメラルドグリーンで尖った長い耳。どうやら村に住み着いたハイエルフ一家の父親のようだとわかった。
「あなた、どうして・・・・・・?」
リラの問いに、黄色いハイエルフが軽く笑い、赤く立ち上る狼煙を指さす。
「あれが見えたでござる」
今はドアの隙間に何かカードのような物を差し込んだりしている。手の動きがとても素早い。「盗賊」職のようだ。
言うまでもないが、「盗賊」とはいっても、人を襲って盗みを働く犯罪者集団の事ではない。冒険者の職業としての「盗賊」である。
冒険者の「盗賊」といえば、索敵や斥候、鍵や罠の解除を専門とした、パーティーを組む上で必要性の高い職業だ。
黄色い男は、手を動かしながら説明を続ける。
「いやいや。拙者ら夫婦は、うちの娘が修行中に行方不明になってしまったようなので、ここ数日探し回っていたのでござるよ。そうしたら、狼煙が上がったので駆けつけたまででござる」
「では、お助けください!」
ハイエルフの戦闘力は人間を遥にしのぐ。ここで助力を得ないわけには行かない。
「心配召されるな。無論そのつもりでござる」
そう言って笑うハイエルフの男性は、無音でドアを開け放つ。
「では参ろう、吟遊詩人殿。敵は2階ですぞ」
黄色いハイエルフはそう言うと姿が薄れていき、ボンヤリとしか認識できないが、どうやらさっさとはしごに取り付いて登って行ってしまったようだ。
リラも慌てて後に続く。
塔の中には所狭しと黒い巨大な鎧が林立していて、邪悪な気配がヒシヒシと伝わる。
はしごにたどり着くと2階からの声が届く。
「私が得意な魔法はね、精神系魔法さ。特に人を操る魔法は得意でね。おかげで人を掠う事は朝飯前なのさ」
リラは状況を推測する。カシムは今、魔法使いの精神魔法によって苦境に立たされている。それならば、自分のやるべき事は一つだ。
リラは吟遊詩人で魔法が使える。
冒険者の吟遊詩人の役割と言えば、歌で仲間の士気を高めたり、心の安静を与えたりする他、魔法での支援がある。
実際には歌自体に魔法のような力はないのである。特化人のセイレーン族は、歌自体に強烈な魔法効果を持たせられるが、絶滅寸前の希少種族である。
吟遊詩人の多くは支援系の魔法使いだったり、記録係、マッパーなどの雑用的な仕事が求められる傾向にある。
リラは都会でこそ方向音痴になるが、自然環境での方向感覚は優れている。迷宮でもマッパーとして充分活躍できるレベルだ。
そして、魔法は例に漏れず支援系、回復系の魔法を使える他、風魔法も得意としていた。
冒険者ランクは下から2番目の黄色ランクだが、レベルは11。高い魔力特性を持っている。
すぐに口の中で精神系魔法解除の中級魔法を唱え始める。
『シュレーデル・エイミス。シュレーデル・エイミス。自由を司る風よ、汝の力を貸したまえ。忌むべき心惑わす魔法を退けたまえ。風の神ヘルメスの名において我が命ずる・・・・・・』
そして、はしごを登り切るや、うつむき跪くカシム目がけて解除の魔法を放つ。
『リアリード!!』
そして現在に至る。
◇ ◇
俺は、幾分回復すると立ち上がり状況を確認する。
「まだ、回復が必要です」
リラさんが俺に言ってくれるが、俺はそれを止める。
「ありがとうございます、リラさん。でも、俺以上に回復が必要な人がいます。それに急いでやらなきゃいけない事があります」
俺の言葉にリラさんも周囲を見回して頷く。
「まずは、俺の仲間、ファーンを回復してあげてください」
救出した女性を抱えたまま倒れ込んでいるファーンを指さす。
それなりに身構えてダメージを受けた俺と違い、ファーンは完全に無防備なところを何度も魔法攻撃を受けている。
ファーンも満身創痍なはずだ。それにファーンが動けるようになると助かる。
「わかりました」
リラさんは微笑むと踵を返してファーンの元に走る。




