旅の仲間 死闘 3
どれくらい切り続けただろうか。もう自分がカシムだったのか剣だったのかわからなくなる寸前で「カシム!!!」と呼ばれる声にハッとして、周囲の景色が戻ってきた。
ファーンが俺を呼んでいる。振り向くまでもなく見えているが、俺はファーンを振り向いた。
ファーンは、その腕に女の人を抱き抱えていた。ファーンは、体中、至る所から血を流している。
すぐ側の床に鎧の首が落ちていて、鎧の胴体が大きく開いている。
「ふさだ!!鎧の頭の金の房飾りだ!!」
ファーンの言葉で、魔法使いの話と魔人形ルシオールの話しが蘇る。
魔人形ルシオールシリーズは全て青い瞳に金色の髪。
人形の一部を使って量産するとしたら・・・・・・。
髪の毛だ!
そうか、金の房飾りには魔人形ルシオールの髪の毛が使われているんだ。房飾りの中の何本かが魔人形の物なんだ。
そして、それこそが魔人形を動かしている源なんだ。
俺は鎧の大剣を躱しつつ身を翻して鎧の背後に回り、渾身の力で鎧の両足の膝関節を狙った攻撃を放って鎧の動きを一瞬止めると、そのまま高くジャンプする。
そして、伸身で宙返りしながら鎧の上を通過し、兜に付いている金の房飾り目がけて剣を振る。
金の房飾りが根元から切れて宙に舞う。
膝から下が切断された鎧の前に俺が着地すると同時に、鎧の首が落ちる。
すると鎧の胴が前開きに大きく開き、中から目が覚めるようなエメラルドグリーンの髪をして、細く尖った耳を持つハイエルフの少女が転がり出てきた。
俺は落下する前に少女を抱き留める。少女は俺の腕の中で薄らと目を開けると、力なさげに微笑む。ひどく衰弱していて、言葉もしゃべれない。
鎧は完全に沈黙した。しかし、次の瞬間、俺は少女を抱えたまま床に膝を付いていた。
体が動かせない。
パチパチパチパチ。
乾いた拍手がフロアに響き渡る。
「おめでとう。おめでとう。君たち2人は良くやったよ。想定外だったが、全く問題はないよ」
ゼアルがニヤニヤ笑いながら、俺の方にゆっくり歩み寄ってくる。
これは、精神魔法・・・・・・。金縛りか・・・・・・。
しかも結構強力だ。まさか、こいつ・・・・・・。
「うん。そうだよ。私が得意な魔法はね、精神系魔法さ。特に人を操る魔法は得意でね。おかげで人を掠う事は朝飯前なのさ」
そうか。どうやって人を沢山掠ったのか、この塔をどうやって短時間で建てたのか、もっと気にするべきだった。
魔法で人を縛って、操る事で大勢の人を掠ったり、労働力として働かせる事が出来たのだ。対抗手段がなければ、この通りだ。
俺は精神魔法にはあまり耐性が無い。全く体が動かせない。
しかし、ハイエルフには精神系の魔法は効かないって聞いた事あるんだが・・・・・・。
俺がハイエルフの娘に視線を送った事に気がついたゼアルが、またしても得意げに説明する。
「そうそう。ハイエルフには精神魔法が効かないって事だよね。君は物知りだねぇ。だけど、そのハイエルフはとても幼いだろ?だからまだ抵抗力が低かったんだろうね。少し苦労したが、何とか鎧に押し込められたよ」
くそっ。最悪だ。当然ファーンも金縛りに遭っている。
「良い実験が出来た。それではそのハイエルフを返してもらうよ。鎧はまだまだあるんだ。全く計画に支障はないよ」
ゼアルが高笑いしながら、俺の手からハイエルフの娘を奪い去ろうとする。
ここまで来ておいてこの子を助ける事が出来ないのか?!そうはいくか!!絶対に諦めないぞ!
俺は懸命に手に力を入れようとする。右手の剣を持ち上げようともがく。
腕がふるえる。耳鳴りがする。目の中に星が明滅し始める。鼻血が伝う。頭の血管が焼き切れそうだ。
『リアリード!!』
高く澄んだ声が響く。
次の瞬間金縛りが解けて、渾身の力を込めていた右手が跳ね上がる。
右手の肘から先が宙に飛んでいた・・・・・・。
魔法使いゼアルの右手が、である。
「ぎいぃやああああああああああああ~~~~~!!!」
右手の肘から先を失ったゼアルが、絶叫を上げながら右手を押さえて尻餅をつく。
俺は何が起こったのか理解できずに呆然とする。
もう、俺の金縛りは解けていた。
「カシムさん!!」
誰だ?とてもきれいな声だ。
はしごを上がってきた誰かが俺に駆け寄ろうとしている。
だが、俺はそれを見る事なく、エルフの少女を抱えたまま魔法使いゼアルに向かって迫る。
『ア、アゼラス!』
『グイネード!!!』
魔法の詠唱が同時だった。「アゼラス」は確か催眠魔法で、人を操る魔法だ。
法的に人に使う事を禁止されているが、ゼアルが得意だと言っていた魔法だ。
一方「グイネード」は精神支配系の魔法を解除、防御する為の魔法だ。はしごを登ってきた誰かの魔法がゼアルの魔法を打ち消す。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺はこの男が許せない。人を縛って、操って、何人も自分の欲望の為だけに苦しめて殺してきた。卑劣で、身勝手で・・・・・・。
俺は男の胸に向かって剣を突き入れようとした。
「そこまででござる。少年」
俺の剣が、2本の短刀によって防がれた。




