旅の仲間 冒険開始 5
さて、鍋のスープは出来たようだ。肉も焼けてきた。
「なあ、まだか?まだか?」
良い匂いがしてきたのでファーンがうるさい。とりあえずファーンからお椀を受け取りスープをよそってやる。
「おお、サンキュ!うまそうだ!」
ファーンはフーフーと息をかけてスープを冷ましながら一口すする。
「おお。うまいな!あれだけの材料でたいしたもんだ」
「お前、何にもしてないな・・・・・・」
俺があきれると、ファーンは悪びれずに言い返す。
「何言ってんだよ。こうして今飯を食ってるじゃないか!うまい料理をありがとよ!」
・・・・・・こいつ、もしかしてずっとこんな感じなのか?
あきれるが、まあいい。こいつは「自分は死なない」と言ってるんだ。なら、俺が死ぬのをこいつに見届けてもらって、グラーダ王に報告してもらえばいいんだ。それも大事な役目だ。その為にこいつと一緒にいよう。
そんな事を思いながら俺もスープをすする。ん?なんか苦いな。アクが結構出てる。ちょっと失敗料理だぞ、これ。
俺、結構料理は自信があったんだけど・・・・・・。いや、これ野草間違えてたっぽい・・・・・・。
そう思ってチラリとファーンを見ると、時々顔をしかめている。ファーンも失敗料理だとは思っているんだ。なのに「うまい、うまい」と言ってくれてるのか・・・・・・。
悪い奴ではないんだよなぁ、やっぱり。
俺は少しファーンを見直した。
それに、なんだかんだ言って、道連れの仲間がいるのは楽しいものだと思ってしまった。
スープを飲み終わった辺りでウサギ肉も焼けた頃合いだ。こいつは間違いなく美味いはずだ。ウサギの肉は軟らかくてジューシーなんだ。
俺は部位ごとに解体してつるしていたウサギの肉を全部降ろして、ペグとロープを回収する。
そして、ウサギの足の部位を手に取ろうとした時、少し離れた森の奥から「グルルルオオオオオオン」と、野太い吠え声がした。
「ヤバい!大型の野獣に違いない!!逃げるぞ!」
俺は荷物を背負って急いで立ち上がる。
「そんな!?肉!!」
「置いてけ!それに惹きつけられている隙に逃げる!」
大急ぎでかまどに土をぶっかけて火を消す。その土がウサギの肉にもかかる。
「あああああーー!お前ぇーーーー!」
ファーンが未練がましくウサギ肉を見て叫ぶが俺は無視して道に向かって走り出す。
それを見たファーンも、一度ウサギ肉を振り返るが、また「グルルルルオオオオン」と吠え声がしたので慌てて俺に続く。吠え声は確実にさっきより近い。
「ああああん。オレの肉ぅぅぅぅぅぅ~~~!!」
俺たちは道に出てもしばらくは全速力で走って行った。
戦闘になるのも確かに困るが、そもそも野獣であれば、その棲息域に足を踏み入れた俺たちの方が悪いと考えている。
食べるため、または敵認定されてしまった時以外はなるべく無駄に傷つけたり殺したりはしたくない。
だから、逃げれる場合は逃げる。
しばらく走ってから、ようやく立ち止まる。
うなり声は遠くなったが、追って来ている気配は無い。
「オレの・・・・・・肉ぅ~~」
息を切らしつつ、まだファーンが嘆いている。
俺は訓練していたので、この程度では息は乱さないくらいには体力がある。
「まあ、仕方が無い。この先の村まで我慢だな」
俺がそう言うと、ファーンが口をへの字に結んで俺を睨む。睨んでも俺のせいじゃないっての・・・・・・。
「わかったよう。我慢するよう・・・・・・」
ファーンが半べそをかく。いや。ボロボロと涙を流し始めた。泣くなよ、マジで。
哀れなり、ファーン。
その時、周囲の森から、パキパキと小枝を踏む音が聞こえる。ガサガサと草を揺らす音も。
しかも1つ2つじゃ無い。
キョロキョロと辺りを窺うが、姿は見えない。
音からしても大型の野獣ではなさそうだが、群れだと、それはそれで非常に困る。
「ファーンさん?」
「お、おう。心得ているぜ・・・・・・」
俺は頷くと、ダッシュで走り出す。
ファーンも俺にピッタリ付いて走る。いや、俺を追い抜く勢いだ。
うわっ!?コイツ逃げ足速い!!俺を抜いて更にぐんぐん差を付けていく。さっきまでベソかいてたクセに、元気じゃん。
さっきまで俺たちがいた辺りで、獣が複数吠える声がしている。
追いかけては来ない様子だが、それを確認する為に振り返るような事はせず、ひたすら前を向いて走り続けた。




