旅の仲間 冒険開始 4
「心配するなよ。エルフの大森林はもっと先だ。ここはただの森だ。この先小さな丘になってる」
俺がそう言うと、ファーンは納得する。
「そういやそうだ。エルフの森って村の先だもんな」
ファーンが胸をなで下ろす。
「やっぱりハーフエルフでも人間族と同じように怖がるんだな?俺だけが怖いのかと思ってたから、ちょっと安心するぜ」
俺は苦笑してみせる。
「いや、あのな、カシム。あそこを恐れないのってハイエルフ様たちだけだぜ。他のどんな種族も、野生の生き物もあそこには近寄らないぜ。ハーフじゃ無いエルフだって右に同じだ」
「おお。やっぱりそうなんだな?本だけじゃ分からない生の声を聞く事も重要だな」
俺は素直に感心した。なんだかんだコイツは冒険者だし、俺は、自分で言うのも何だが、頭でっかちな世間知らずな気がする。
「すごいな、エルフの大森林」
俺が言うと、ファーンが胸を張って言う。
「フフン。すごいだろ!?」
「お前が胸を張るな!」
俺は、森の中に分け入りながら、自分の装備を確かめる。今は額当て以外はフル装備だ。頼りになるのは、投擲技術と無明の行で習得した全周囲索敵。
俺は早速気配を探る。
「げっ」
思わず呻いたのをファーンが聞き咎める。
「どうした?」
「いや・・・・・・」
なんて事だ。
あの夜には、遥か遠くの鳥の揺らす木の枝まで察知できたのに、今は俺の周囲10メートルの気配しか察知できない。
いや、それでもすごい事なんだろうけど、感覚の鈍り方のひどさに愕然とする。あの時は極限状態だった事もあるにしても、ここまでとは・・・・・・。
右目が見えないのをカバーする程度には充分だが、それにしても俺の才能の無さに、修行を付けてくれた祖父に心の中で詫びる。
もう、しばらくはこの感覚をずっと解放して生活した方が良いのかも知れない。出来るかなぁ・・・・・・。
俺たちはしばらく森の中を進む。道なき道を切り開いて進んでいる内に、よく見ると枝が折れていたり、下草が踏まれている場所を見つけた。
俺は、後ろからガサガサやかましく付いてくるファーンに手で合図する。
「どうした?」
さすがに声のトーンを落として、ファーンが俺の隣に来る。
「獣道だ。ここからしばらく静かに進みたい。出来るか?」
エルフなら問題なく静かに出来る。ハーフエルフでもその技能を持つ者もいる。こいつは?
「うむ。最善をつくそう」
・・・・・・期待は出来そうにない。まあ、俺もそこまで得意じゃない。
俺たちは出来るだけ静かに獣道を進む。するとすぐに生き物の気配を感じた。少し先の獣道を、少し右に逸れた辺りで草が揺れた。足を止めてじっと待つ。
すると、小さなウサギが辺りを警戒しながら顔を出す。
俺はズボンから投げナイフをそっと抜く。距離にして30メートル。草や木があり上手く狙えない。距離もある。
少し待つと、ウサギがヒョコヒョコと歩き出す。
距離はあるが、ちょうど木と木の間に通りかかった。
俺はその一瞬を逃さすナイフを投擲する。
同時にもう1本のナイフを抜いて立ち上がる。そして、ウサギに向けて構えるが、上手い具合最初のナイフがウサギののどに刺さる。
俺は急いでウサギの元に向かう。
たどり着くと、ウサギは動けないが、まだ息をしていた。俺は投げナイフをしまうと、胸当ての左胸に付けてあるナイフを抜く。
「ごめんな。ありがとう」
そう呟くと、俺はウサギののどを裂きこれ以上苦しませないようにとどめを刺す。
「やるじゃん、やるじゃん!」
ファーンがはしゃぐ。俺はじろりと横目で睨むが、ファーンは何処吹く風だ。
近くに川はなさそうなので、やむを得ずここで血抜きをする。そして、腹の皮をナイフで割いて、ウサギの皮を丁寧に剥いでいく。手足を切断すると、皮は丸ごと剥がす事が出来る。
そして腹を割くと内蔵は抜き取る。食べられる臓器もあるが肝意外は土に埋める。処理をしている時間的余裕がない。他の野生動物が匂いに釣られてここに来るのを避ける為に、急いで土に埋めることにした訳だ。
この辺りには人がほとんど来ない。と言う事は、野生の生き物が沢山いるし、魔獣もいるかも知れない。いや、いるだろう。なので、出来るだけ早くこの場を離れたい。
ウサギの解体が済むと、俺たちは急いでその場を離れた。 元の道に戻る道すがら、食べられる野草をいくつか摘んでいく。
俺は道の見えるところまで来ると、少し開けている場所に荷物を降ろす。そして、すぐに土を掘ってかまどを用意して火を付ける。砂漠と違って沢山乾いた小枝が手に入るので楽だ。
俺は部位ごとに解体したウサギの肉に鉄製のペグを突き刺し、塩を振りかける、かまどのちょうど上に張り出している木の枝にウサギの肉を吊して火で炙る。
大きく解体したので4つの肉が吊り下げられている。炙りながら、時々回して万遍なく火が通るようにすればいい。
並行してかまどの端で鍋に水を入れて沸かす。
ファーンは横で見てるだけ。「おお」とか「なるほど」とかいちいちうるさいが気にしない。
湯を沸かしているうちに、摘んできた野草をちぎって鍋に放り込んでいく。セリやツリガネニンジンだ。そして、小さく切ったウサギの肉も入れ、塩こしょうで味付けする。
出来上がるまでの間に、さっき取ったばかりのウサギの肝をペグで刺して直火であぶる。ナイフで切ってファーンに勧めるがファーンはブンブン首を振る。
「いやいや!オレは遠慮するよ」
「そうか」
では遠慮なく俺が全部食う。他の部位もちゃんと処理したりすれば食べれるのだが、やはり山でもたもたしていては危険だ。
ファーンはレベル3だし、俺だってそう変わらないだろう。強い魔獣が出てきたら命取りだ。
それに、モンスターに遭遇したら、簡単には逃げられないかも知れない。
モンスターは人に害なす好戦的な生き物だ。ゴブリンとか、コボルトとかがそうである。




