旅の仲間 文化都市アメル 3
改修されて小さくなったとはいえ、それでも大きな入り口をくぐると、俺はまず、建物入り口のすぐ正面にある案内所に行く。
「あの、すみません」
俺が声をかけると、受付の若い女性が笑顔で対応してくれる。
アカデミーは世界に開かれている。そのため、受付の態度もすこぶる良い。
「はい。おはようございます。ようこそ王立高等学院へ。いかがなされましたか?」
「あ、はい。おはようございます」
少し緊張している。
「あ、あの。リザリエ様に言われたのですが、呪術の研究室に顔を出して欲しいって・・・・・・」
俺が言うと、受付の女性は驚いた顔をする。
「まあ、リザリエ様のお客様ですか?少々お待ちください」
女性はそう言うと奥に備え付けてある伝声管でどこかと話しをする。
しばらくすると受付の女性が受付室から出てきた。
「お待たせ致しました。カシム・ペンダートン様ですね?こちらにご案内致します」
女性はにこやかにお辞儀をすると、先に立って案内してくれた。
しばらくアカデミー内を歩くと、呪術研究室に着いたので、室内に俺を通すと女性はお辞儀をして去って行った。
俺は案内されて室内に入ると、5人の男女が待っていた。その内一人は高齢な女性だった。髪にジャラジャラと金属の飾りを付けて、模様だらけのボロボロのローブをまとっている。
立ち上がった小さな研究員(?)が挨拶する。
「お待ちしていましたよ、カシムさん。ボクがこの研究室の室長をしているトレット・リントです」
室長と聞いて驚く。どう見ても幼児だ。
しかし、その目をよく見て理解する。大きな瞳孔が丸では無く、十字に切れている。
トレットさんは「センス・シア」で身長が低く、魔力特性の高い種族の男性だった。見た感じでは少年の様に見えるが、センス・シアの寿命は長く、年齢は他種族では全くわからない。
とりあえず見た目年齢では5歳前後。身長も120センチを越えたあたりだろうか。
「そして、こちらが、バナー博士、デニロット研究員、サーベス研究員。そして、この方は呪術師の協力者バネットさんです。もっともこれは彼女の本名ではないそうですけどね」
全員が軽く会釈をする。バネットと呼ばれた老人は無言で俺を見つめてくる。
「さっそくで悪いんだけど、呪いをかけられたっていう目を見せてもらえますか、カシムさん?」
センス・シアのトレットさんは、すごくあどけない表情で下から俺を見上げてくる。俺はトレットさんが見やすいように腰をかがめる。
すると、他の研究員たちもやってきて俺の右目をのぞき込む。
「カシムさん、目って開く?」
「い、いいえ。自分では開ける事が出来ません。でも指で開いたら普通に開きます」
俺がそう言うと、何故かトレットさんが吹き出す。そして、咳払いをすると、キラキラした笑顔で聞いてくる。
「じゃあ、ボクが触ってみても良い?」
「あ、はい。どうぞ」
俺が答えると、また盛大に吹き出す。どうしたんだろうか?「じゃ、じゃあ、カシムお兄ちゃん。指で開いてみるね~。クッパァ~~~」
何とも卑猥な感じで俺の目を開けようとするが、トレットさんはそのまま笑い転げてしまった。どうしたんだ、この人は?
すると1人の研究員が助け船を出してくれる。
「すみません。センス・シアってこうで、頭良いくせに下ネタとか大好きで・・・・・・。これでこの見た目ですからね。種族全体が犯罪みたいなもんです」
「あ!コラ!ボクの種族を馬鹿にしただろう!」
笑いから立ち直ると、トレットさんが抗議する。
みんなが「ヤレヤレ」といった雰囲気になる。
そして、もう一度俺の目に手を伸ばすが、やはり吹き出してしまった。
「ご、ごめん。バネットさん、お願いします」
「まったく困った人だね。これであたしより年上と言うんだからやんなっちゃうよ」
軽く驚く。バネットさんは80歳近くに見える。そのバネットさんが俺の目を開ける。
「ヒッヒッヒィ~。カシムお兄ちゃんが・・・・・・おばあさんに、お、おばあさんに。ヒィ~。ク、クッパァ~~~って、ヒッヒィ~」
またトレットさんが笑い転げるが、無視する事にする。
バネットさんは俺の目をのぞき込み、「ふん」と言うと手を離す。
「ずいぶんときれいな目が入ってるじゃないか。ガラスの義眼なんて高価だろうに・・・・・・。あたしの頃は木の目ん玉を入れとったよ。ささくれたりして『痛ぇ、痛ぇ』って木の目ん玉入れた奴はしょっちゅう言っとったよ」
「いや、今は技術が進んでますから、ガラスの義眼は普通ですよ」
研究員の一人が訂正する。するとバネットさんは「フン」と鼻を鳴らす。
「イヤだね。医術だか魔法だか技術だかがやたらと進歩しちまって。だからあたしらみたいな呪術師が生きていけなくなっちまうのさ」
すると、笑いから立ち直ったトレットさんが、意味深な笑みを浮かべる。
「あの、それで何かわかりましたか?」
俺が尋ねるとバネットさんが言う。
「はっきりとはわからんよ。ちょっと準備するから待ってな」
そう言うと隣の部屋に行ってしまった。




