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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第二巻 旅の仲間
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旅の仲間  文化都市アメル 1

 エレスで最も強大な大国グラーダ国。

 だが、グラーダ三世が登場するまで、このグラーダ国は砂漠の小国でしか無かった。王都も南の砂漠に隣接していて、綿の輸出をして細々と生活しているような弱小国だった。

 常に北の大国カロンの脅威があり、南には国を持たない少数民族たちや、人間に差別され恨みを持つ獣人や亜人たちの住む国があった。



 大国カロン国は立地条件として、東西貿易の中央に位置しており、陸路での貿易の最重要地点だった。

 歪ながら、神獣グリフォンに例えられるエレスの世界地図で言えば、グリフォンの首と翼の間の背中の部分がカロン国である。


 首と背中を隔てるのは、内陸に深く入り込んだアール海である。

 カロン近海はかなり遠浅で、沿岸に出ても暗礁地帯が多い為、海路を開く事が出来なかった。

 西の大国グレンネック国と東の大国アインザーク国で海上貿易をしていたが、海路には海賊の被害が 非常に多いという問題があった。

 その為、陸路を選ぶ貿易商が多く、大陸中央のカロン国は、東西貿易の中心地となっていた。



 カロンは東西貿易の中継地点として、東西の優れた文化や技術が集まり、建築技術に優れた国だった。

 その為、カロンの都には巨大な建築物が多く建っていた。


 カロン国の王城は、敷地も広大ながら、高い尖塔がいくつも建ち、高い城壁に囲まれ、その上からも更に威容を見せる巨大な城。

 城内の広間も荘厳で、それを支えるアーチが美しく折り重なるデザインをしていた。

 城のみでは無く、3つの丘からなるアメルの至る所に貴族の邸宅が有り、それぞれに巨大さと豪華さを競い合うように建てられていた。


 貴族達が、巨大建築を立てたり、贅沢をする裏では、民衆が血税にあえいでいた。

 王侯貴族、豪商人などは、民衆の生活の困窮など気にも止めず、法を自分たちの都合の良いように変え、弱い立場の人々から搾取していった。

 役人の賄賂、暴行は日常茶飯事だった。


 民衆の我慢が限界に来ていた時に、カロンは新王都建設を発表する。

 それが、現在グラーダ国の王都となっている地、メルスィンだった。

 カロンの役人たちは、アメルから大量に働ける若い男たちを新王都建設の作業の為に徴用していった。

 それにより、働き手がいなくなった田畑は荒れ、餓死者が大勢出る有様となった。


 本来は、貧困層に仕事を与える為にと計画された国家事業であったが、働き手に渡るはずの給料の大半が貴族や役人たちの懐に入り、民衆は奴隷のように働かされる事となっていた。


 それでも、ようやく新王都が完成しようという時に、今度は突然カロンが隣国グラーダに攻め入る事となり、またしても兵士として、多くの者が徴兵されてしまった。

 若者たちは新王都建設に徴用されたので、残ったまだ年若い者や、老いた者が戦場に駆り出される事となったのである。



 しかし、その戦いで、カロンは大敗を喫し、敗北の報が王都に届くより早く、グラーダ軍の逆侵攻にあい、呆気なくカロン国は滅亡した。


 次に行われたのは、グラーダ国国王、グラーダ三世による大粛正だった。王族はもちろんだが、貴族の大半、悪徳豪商人、不正役人など、実に1万人以上の旧支配者層にみする連中が処刑された。

 グラーダの逆侵攻から数日での出来事であった。


 その為、民衆もグラーダの支配に対して、恐怖と不安を抱いていた。

 しかし、それは長く続かず、次第に歓迎するようになった。

 

 グラーダの支配は、公平な政治、民衆を守る政治を行ったのである。

 まず、カロン国が無駄に蓄えていた備蓄庫を開き、民衆が飢えているのを救った。

 無駄な事業を停止して、労役に苦しむ人々を解放する。その上で、適正な労働条件と賃金で、新王都建設の工事や、街道の敷設の事業を行う。

 奴隷を解放し、就業と住居の斡旋あっせんをする。また、奴隷を使っていた家には保証金を支払う。ただし、こちらは低い金額となった。


 税金も一年を免除とし、地域ごとの関税も撤廃する。その為、商人たちは諸手を挙げて歓迎した。


 更に法律を整備し、民事裁判所の開設をし、地位にかかわらず公平な裁判が実施されるようになった。

 以前は、貴族や金持ちを擁護ようごする法律が多く、民衆の死刑率もかなり高かった。その為に、貴族や役人、金持ちたちは好き放題振る舞って、民衆は泣き寝入りするしか無かった。

 公平な裁判を受ける事が出来るようになった事と、刑罰の改正もされて、民衆は安堵したのである。


 一方で、グラーダ国内の野盗、盗賊の殲滅作戦は苛烈なまでに行われた。一軍以上をもって、迅速に盗賊たちを捕らえ、処刑していった。

 海賊に対しても同様で、メルスィンに海路が切り開かれると、グラーダ三世が陣頭に立ち、大軍をもって広いアール海の海賊を一網打尽にしてしまった。そして、グラーダ国が認証する旗を掲げる船を襲わない、暗黙の誓いを立てさせたのである。


 

 元々、カロンという国は、東西陸路の中心地だったので、東西貿易の中心として大いに栄えていた。その富を王族や貴族や一部の豪商人が独占していたのである。

 それが公平に、自分たちの裁量で商売できるとなると、経済は活性化する。人も物も急激に集まってくる。


 そうなると犯罪が増えるのだが、前述の通り、グラーダ国は犯罪行為を憎む。

 わかりやすい法律を作り、まず、役人がモラルを持って法を遵守じゅんしゅする。そして、民衆の権利を守りつつ、犯罪に対しては適切な罰を与える。

 最も重い犯罪は、放火、盗賊、海賊行為。これは極刑となる。その他は禁固刑だの罰金だの。

 しかも、施行するのに、しっかりと周知期間を設けて行った。


 また、人種差別の撤廃を宣言し、センス・シアや、獣人、ドワーフ、エルフ、混血種、さらには、これまでひとくくりに「亜人」と呼ばれ、忌み嫌われ迫害を受けていたスプリガンやリザードマン、ドラゴニュート等々の特化人スピニアンたちにも、人間族と同じ権利がある事を認めた。



 こうしてグラーダ三世は、グラーダ国が併呑へいどんしたカロンの全土の掌握を、1年を経ずして成し得たのである。

 その後、王都をメルスィンに移すと、グラーダ三世は世に言う「狂王騒乱戦争」に突き進んでい事となる。


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