冒険の始まり 登城 1
世界の中心たるグラーダ国の王城「リル・グラーディア」は、「白亜の巨城」などと呼ばれている。
グラーダ狂王戦争以前にこの地を支配していたカロンという大国の国王に、グラーダ国の工作員だった大賢者キエルアが作らせた巨大な城だった。
二重の城壁は、高さと厚みこそあれ、敵の侵入を防ぐと言うよりも、至る所に装飾が施され、神々や神獣の石像、レリーフが設置されている。
四方の門も、常に開け放されており、一階部分は一般市民でも自由に出入りできた。
城壁の中にも、様々な装飾が施されていたら、ステンドグラス、壁画、天井画など、非常に見所がある観光地である。
二階は役所機能として活用しているので、こっちも一般人にも開放されている。天井が高く、役所機能の会にもかかわらず、装飾が至る所に施されているので、用がなくても観光に訪れる人も多い。
城の三階は、一般人は立ち入れず、階段ごとに衛兵が立ち、入階には許可、または身分の確認が必要となる。こちらは大広間が多く、祝宴などを行う会場になる事が多い。一応多目的用途に使用できるスペースである。
また来賓の宿泊部屋も、この三階に多く配置されている。
天井は高いが、一階、二階に比べると低い。
四階からは一般人は立ち入り禁止の、重要区画が連なっている。
そして、五階は二つの巨大なドーム状の建物が有、美しい天井装飾が城外からも見える。このドーム状の建物、柘榴宮、翡翠宮が王族専用の居住区である。
今はアクシス王女1人が使っている。
柘榴宮、翡翠宮の周囲は庭園となっていて、城外からも見える空中庭園と呼ばれる緑豊かな屋上である。
防衛の能力には乏しいが、とにかく美しく、広大な城である。
そのリル・グラーディア城の広い廊下を歩く女性が1人。
薄手の白い絹の衣を身にまとっているが、実に扇情的で、長いスカートの横には、腰の近くまで達するスリットが設けられていて、歩くたびに太もも辺りまで素肌が見える。胸元も左右合わせただけなので、豊かな胸の谷間がチラチラ見え隠れする。
顔も美しく整っていて、服装とは異なり、とても知性的で清純な雰囲気を漂わせている。
大人っぽい雰囲気の顔だが、大きく丸い耳が、どこか少女っぽさを残していて、異性からも同性から見ても魅力的な容姿をしていた。
頭に木のツタをよってつくられた装飾品を巻いていて、腰には革製のコルセットのような太いベルトを巻いている。
長い髪は淡い栗毛。髪同様に栗色の瞳は、不安げに周囲をさまよっている。
どうやら、広い城で迷ってしまったようだった。
手にした竪琴から、彼女が吟遊詩人であると分かる。
リラ・バーグ。
それが彼女の名前だ。
リラは吟遊詩人としてそれなりに有名で、冒険者登録もすませている。とは言え、ランクはまだ下から2番目の黄色ランク。
冒険者としての功績には関心が無く、旅をして歌を集めるのに、冒険者登録しておいた方が便利と言う事で、登録しているだけである。
ただ、冒険者には2年に一度の更新時に、それまでの功績がノルマとしてあるので、時々臨時でパーティーに参加してノルマを達成する事で、自然とワンランク上がったに過ぎない。
リラは、かなり田舎の辺境国の、森の中の小さな村で育ってきて、建物が多い所では方向を見失いがちになる。今も、この城で方向を失って目的地にたどり着けなくなって困っていた。
しかも、さっきからすれ違うのは男の人ばかり。
リラは露出の多い服を着ているが、これはリラの国、エッシャの正装である。
そして、男性に慣れておらず、すれ違う男性に道を聞こうとしても切り出せずにいた。
リラは、村に住んでいた頃、事あるごとに「男は怖い」と叩き込まれていたため男性恐怖症になっていたのだ。
観光客の多い一階なのだが、かなり奥に来てしまったので、人があまり通らず、通るのも見回りの兵士ばかりである。
社交辞令的な受け答えはできるが、こちらから話しかけるのは怖くて、つい隠れてしまったり、関わらないで済むように観光をしているフリをしてやり過ごしてしまっていた。
そして、彷徨って、薄暗い廊下に来てしまった。約束の時間は過ぎている。現在地も目的地も分からない。心細くて泣きそうになってしまう。
また、正面から1人やってくる。期待を込めてリラはその場でじっと待ったが、またしても男性だった。リラは怖ず怖ずと柱に隠れるようにしてやり過ごそうとした。
男性に対して、緊張して顔を伏せていたが、チラリと、近付いて来る男性の顔を窺い見る。
若い、もしかしたらリラより年下かも知れない男性だった。まだこの城の中では、リラより若い兵士にあった事は無かった。
男性は鎧こそ身につけていないが、騎士風の服装に、胸に何処の家かは分からないが家紋徽章を付け、美しい黒地のマントをなびかせていた。
髪は黒に近い茶色で、背は普通。
特徴的なのは、鋭く、それでいて涼しげな目元。
髪同様に黒に近い茶色の瞳が、鷹の様に鋭い光を放っているのに、どこか優しそうな光を帯びている。
そして、右目に大きな傷。完全に閉じた右目のまつ毛だけが白く、神秘的な雰囲気に満ちていた。
さらにその男性のまとう空気が、自然と一体化したかのように、存在自体が超然として見えた。
折しも、廊下の高所にある窓から光が差し込み、その光の中に男性が立つ状況となり、まるで1枚の絵画のようにリラには見えた。
思わず見とれてしまった。




