冒険の始まり 修行 6
その日の夜、俺の修行完了の祝いが、またしても盛大に行われた。もう休ませて欲しかったが、家族の嬉しそうな様子を見たら文句は言えない。
「やっぱりお前はすごい男だ、カシム」
キースが俺の頭をなでる。
「でも兄さん。兄さんたちは2週間で修了したんでしょ?俺は1ヶ月以上掛かったんだよ?」
するとオグマが目をむいて迫ってきた。俺の両肩に手を置いて、ガクガクと揺さぶる。
「何を言ってるんだカシム!俺たちは2人そろって無明の行に挑んだんだぜ。2人で協力して何とか乗り越えたんだ!」
キースも言いつのる。
「そうだぞカシム。俺たち2人でも相当厳しかったのに、お前はたった1人で切り抜けたんだ。やっぱりたいした奴だよ!」
「俺がもし1人だったら・・・・・・2ヶ月・・・・・・いやもっと掛かっていただろう」
オグマの追従に、キースもうんうんと頷いていた。
そうかな?そうなのかな?
そう言われるとそんな気もしてきた。・・・・・・いやそんな事は無い。この2人なら、1人でもきっと同じ2週間で修行を終えていたのでは無かろうか?
祖母が気遣わしげに聞いてくる。
「ちゃんとご飯は食べられたの?お風呂は毎日は入れたの?」
「ええ」
俺は笑顔を祖母や召使いたちに向ける。
「毎日、俺のためにしっかりとした食事をありがとう。しかもおやつまで付けてくれて」
祖母が頷く。
ベアトリスは「どういたしまして、カシム様」と笑顔を向けてくれ、リアは「いや~~~ん。本当はあ~~~んして差し上げたかったですぅ~~~」などと言って、「はしたないですぞ」とバルドに注意されていた。
しかし、それを聞いた双子の兄たちがいきなり叫ぶ。
「な、何ぃっ!?」
キースとオグマが目をむく。
「俺たちの時はおやつなんて無かったぜ!食事は1日2食で、せいぜいおにぎりだった!!」
「え?ちゃんとした食事が3回とおやつが付いてきたよ」
俺の台詞に2人は祖父母を睨みつける。
「そうちょ~~~う!?おばあさまぁ~~~~!?」
祖父母2人は慌てて視線をそらした。
そんなやりとりを無視して、父が俺の肩に手を置く。
「カシム。今回の修行の修了、おめでとう。だが、光ある世界に戻ってしまえば、今の感覚はすぐに薄まっていく。薄まらないように、日々、そう、日常生活全てを細かに感じるように精進するんだぞ」
父の言葉は、スッと頭に入る。こうした感覚がすぐに薄まるのはもうすでに実感している。
だが、右目が見えないのを補うには、きっと充分すぎるスキルとなるだろう。
いま、右目が見えない不自由を一切感じていない。それに集中する事で、死角の物まではっきりと捕らえる事が出来た。
恐らく真の「無明」にはほど遠くとも、それに近い技術を身につけたのだろう。
これは俺を確実に助けてくれる技能となるだろう。
俺は満足しつつ、手にした紅茶をすする。
「おお、そうだカシム」
兄2人に攻められていた祖父が、話題を逸らそうとするかの様に声を掛けてくる。
「修行が終わったので、明日にでも城に登城する事になるから、家で身支度をして待機していろ」
「ええ?!」
もはや嫌な予感しかしない・・・・・・。




