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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第一巻 冒険の始まり
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冒険の始まり  修行 2

 目が覚めたものの、時間が分からない。

 しまった。この修行は時間の感覚も大切なんだ。朝も夜も分からない状況で正確に時間を把握しなくてはいけない。

 祖父が言っていたが、食事の時間が決まっているし、一定時間で下げられてしまう。日付も把握している必要がありそうだ。

 俺は昨夜の就寝時間を考える。

 22時ぐらいに会がお開きになり、その後、祖父にこの地下室に案内された。それから説明を受けたので、修行開始したのは恐らく23時過ぎだ。



 1日は25時間で、俺は大体、普段何も無ければ6時間~7時間睡眠を取って自然に起きる。だが、ここ最近はケガの療養で不規則になっていた。

 ああ~。こんなことなら療養中の睡眠時間を把握しておけば良かった。

 後悔しても仕方が無い。とりあえず起きた時の体調から考えて、今日は割としっかり寝られたと考えると、7時間寝た事としよう。すると、23時半に就寝して、1日25時間だから、今は朝の5時半・・・・・・。


 合っているかどうか分からないが、今は2月26日の5時半という事にする。


 1年12ヶ月、1ヶ月は33日、1週間は7日間、1日は25時間。

 これがエレスの暦だ。


 兄たちはこの修行が終わるまで2週間かかったと言っていた。俺は兄たちより才能に劣る。だから、3週間ぐらい掛かると考えると、3月13日ごろまでに修行を終えられればいい方かな?


 これからどうするか?まず、食事がいつ出されるか分からない以上、食事を探す事にしよう。その間にこの迷宮を探索して、水飲み場を最優先で探さなければいけない。

 それから、当然だが、この部屋の位置を覚えておく必要がある。


 この地下室の全容を把握する事に関して、俺はそれほど心配していなかった。迷路の攻略法は昔から決まっている。

 片手を壁に当て続ければ、グルグル回ったり、遠回りしたりしつつも、必ず出口にたどり着けるのだ。


 俺は右手を壁に当てて、ゆっくりと歩き始める。しばらく歩くと、トイレが見つかる。俺はそのまま素通りして歩き続ける。更にしばらくあちこち曲がりながら進むと・・・・・・元のベッドのある部屋に戻ってきた。


「あれ?水飲み場は?風呂は?」


 ああああ!!


 迷路の攻略法は確かに片手を壁に付けて進む事だ。だが、ここは迷路ではないし、出口にたどり着けばいいというゲームでは無い。

 全ての壁が全ての通路につながっているわけでは無いのだ。壁伝いではたどり着けない通路、部屋を全て把握しなくてはならないのだった。


「俺は馬鹿か?」

 思わず自分の頭を叩こうとして、兜を叩いてしまう。あまりに自然な着け心地だったので、兜の存在を忘れていた。

 

 俺は自失から立ち直ると、今度は床に這いつくばる。手を伸ばして、床から壁から触りながら、とにかく慎重に進む。

 一つの通路を、曲がり角、分岐まで行く度に、一度寝室に戻って空間を把握しながら進む。


 そんな作業を続けて、ようやく水飲み場とトイレと風呂の位置を確認出来た頃には、俺の時間感覚で13時を過ぎていた。結局朝飯は手に入らなかった。

 まだ、迷宮全てをしっかり把握したわけではないので、同じ作業を継続しながら食事を探す。

 

 迷宮全てを、一応把握できたのは22時過ぎ。それでも立って歩いたり、壁から手を離して目的地に行けるまでにはなっていない。それに、結局食事にはありつけなかった。腹が減る。

 水飲み場で水を飲むと、俺は寝室に戻り眠った。



 目が覚めると、俺はすぐに体調から睡眠時間を推し量る。

 今は2月27日の4時だ。

 今日は昨日より早く起きたので、すぐに迷宮探索を開始する。今日こそ食事にありつきたい。


 15時。俺は迷宮をうろついていた。まだ食事にありつけていない・・・・・・。

 だが、壁に手をやりながら迷宮をうろつく事が出来るようになった。迷宮を進む速度が格段に速くなる。

 ただし、手を離すと立ってさえいられなくなっている。

 真の暗闇で、るべき物が無いと、上下左右の感覚がなくなるのだ。急速にどこかに落下していくような感覚に襲われてしまい、パニックになる。俺は壁に手をつきながら食事を探して迷宮をうろつく。

 

 24時。今日も食事にありつけない。俺は疲れ果てて温泉を利用する気力も無くベッドに倒れ込む。

 本当に食事は用意されているのだろうか?



 2月29日、14時半。俺は力なく迷宮の床に倒れ伏している。食事にありつけていないが、今はそれはもう問題では無い。

 あんなに軽くて違和感が無かったミスリル製の兜が、今はとても重い。息苦しくて窒息しそうだ。息が出来なくなるパニックに、この頃頻繁に襲われている。

 耳もやばい。自分の体に流れる血液の「ザアアアアア」という音と鼓動がやけに大きく聞こえて、耳をつんざく轟音の様だ。耳を押さえたいが兜のせいで押さえられない。

 耐えかねて何度も壁に頭を打ち付けるが、ミスリル製の兜は傷一つ付かないし、俺の頭に痛みをもたらしてもくれない。

 この際、痛みは恩恵だ。

 兜の中の何処かがかゆい気がする。それも気が狂いそうな感覚だ。

 もはや平衡感覚は失われて、自分が倒れている床すら感じる事が出来ない。深い水の中に落ちてしまったようだ。


「ああああああああああああああっっっ!!!!」

 俺は獣のような叫び声を上げる。

「じいちゃん!いるのか?本当にいてくれるのか?もうダメだ!助けてくれ!助けてくれ、じいちゃ~~~ん!」

 俺は泣き叫んだが、自分の声が耳をつんざき悶絶する。

 何の光明も見いだせず、俺は精神的にも限界だった。

 にもかかわらず、何の返事も、助けも与えられなかった。

 どうしようも無く孤独だった。心が張り裂けそうだった。

 もはや立ち上がる気力も無い。


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