冒険の始まり 創世竜 2
俺はこの一家の雰囲気がとても重荷に感じていた。
騎士の道を歩むのだと、俺も含めて疑っていなかったし、期待されていた。
なのに、俺は突然15歳の誕生日を迎えると、職業選択権の行使で、考古学者になりたいと一方的に宣言した。
家族一同、俺の「生誕祭」の最中、一瞬凍り付く。
しかし、一瞬だった。
「それはいい!俺は賛成するぜ!」
オグマが熱く吠える。
「そうだな。カシムがそう選択するなら間違いあるまい!」
キースもすぐに同意する。
「そうだな。お前がそう選択するなら、きっとそれは大きな意味があるはずだ。お前の好きにするがいい」
父も即座に賛成する。
「まあ、共に騎馬に乗り、くつわを並べられないのは少し残念ではあるがな」
「ああ。それはある」
「まあなぁ。俺たちの夢だったしな」
父と兄たちはしみじみとほろ苦い笑顔で言う。
「やめよ。カシムはもう決断したのだ」
祖父も反対はしなかった。
「じゃあ、必要な物とか色々準備しなくっちゃね。何せ家には騎士の物は沢山あるけど、考古学者の必要な物なんてさっぱり分からないですからねぇ」
祖母はすぐに忙しそうにメイドを数人引き連れて町に飛び出していった。
「考古学者なんて、お坊ちゃま知的ぃ~~~」
「リアは考古学者がなんなのか知ってるの?」
「知らな~~い」
バルトは何か感涙してるし・・・・・・。
そんなやりとりがあっただけである。
「なんでみんなは俺の事をそんなに信用してくれるんだよ」
ため息交じりに俺は「禁句」を言ってしまった。
全員が息を呑み静まりかえり祖父を見る。
俺は「しまった」と思ったが、もう遅い。
「あれはな、カシム・・・・・・」
ああ。じーちゃんの語りが始まってしまった。もう耳にたこができるほど聞いたよ。家族全員、何度も聞いた話しなのに、なんだ、その初めて聞く物語を待つ少年のようなワクワクした表情は?おかしいのは俺か?俺の方なのか?
◇ ◇
カシムの祖父、ジーンの語った内容は、要約するとほんの一言で事足りる。
「カシムが生まれた夜、東の地より、白い創世竜「白竜」が飛来し、カシムの家の上を3回旋回して行った」
以上である。
この創世竜というのは、創世記に登場する、この世界を創ったとされる特別な「知恵ある竜」で、この世界に十一柱いる。
神も、魔神も太刀打ちなど思いもよらないほどの絶大なる力を持つ竜たちである。
深い知恵と知性を持つ竜ではあるが、それぞれが自分のためだけの領域を創り、その領域を地上世界に融合させている。
その領域内は、それぞれの創世竜が作り上げた、自分好みの生態系を持ち、その頂点として、自らが君臨している。好物はその領域内に生息する普通の竜種である。
人間たちに感心は持っていないようで、棲み家に近づく者は容赦なく殺してしまう。
中には領域に入っただけで襲ってくる場合もあるし、たまたま遭遇しただけでほとんどの者は生きて帰る事が出来ないと言われている。
ただし、希に創世竜と遭遇して、会話し、生きて帰る者がいる。そうした傑物は「竜の眷属」と言う称号で人々に讃えられる。
ジーンは「白竜」と「黒竜」に会い、話をして生きて帰ってきた「竜の眷属」の1人である。
そんな伝説の騎士ジーンでも、「紫竜」と遭遇した際は、ほうほうの体で逃げ帰っているという。
創世竜の恐ろしさは、どんな魔法も効果が無い事。
どんな武器もかすり傷一つ負わせる事が出来ない事。
創世竜の炎は数千度から数万度と言われていて、これはどんな魔法効果も打ち消して、直接数字上の温度で焼かれてしまうと言う事。しかも、創世竜の意志でしか消えない炎だという。
虫の居所が悪いと、低温で長く苦しめて人を殺す事があるという。機嫌の悪い創世竜と出会ったら、ただでは死ねないのだ。
一方で創世竜は、その名の通り創世記から生きていて、様々な事を知っているので、信仰を集めてもいる。
創世竜に関しては謎だらけなのだが、ある種の決まり事でもるのか、「四柱の竜に認められた者は『竜騎士』となる」などという伝説が語り継がれている。
事実、約200年前に竜騎士になった人物が、有史以来初めて出た。
その竜騎士の名前は「アル・ディリード」。元は単なる羊飼いだったという話しだ。
創世竜は、その姿も様々である。
「白竜」は比較的人間に友好的と思われている。白く美しい羽毛に包まれていて、鳥のような翼を持つ竜である。グラーダには度々飛来してくるので、グラーダの守護竜とされているが、棲み家はグラーダ南東の「カナフカ国」。
「黒竜」はとてつもなく巨大な竜で、全身が真っ黒の鱗に包まれ、長大な飛膜翼を有している。強欲な竜で、金銀財宝を集めていて、希に遠くの国にまで強奪に来る事がある。棲み家は白竜の棲み家のさらに南東の大きな島「黒竜島」である。
他に、祖父が遭遇した「紫竜」。そして「緑竜」、「海竜」、「青竜」、「黄金竜」、「天竜」、「聖竜」、「三頭竜」。そして最も凶暴で恐れられているのが「赤竜」。
これが十一柱の創世竜である。
その創世竜の中の「白竜」が、カシムが生まれた日の夜、カシムが産声を上げるとともに、ペンダートン家の上空で炎を吹き上げながら吠え、3回旋回して、また南東に飛び去っていったと言う事だ。
ジーンと会合したことも有り、ジーンに何らかの感情でも抱いていたのかも知れないが、会合以降、一切接触を図った事は無かった白竜が、何故かカシムの誕生を祝うかのように飛来して去って行ったのだ。
これによりカシムには「何かがある」と、家族全員が思い込んだのだ。




