冒険の始まり 創世竜 1
俺が大きな玄関扉を開けると「快気祝い」の横断幕が掛けられた大玄関ホールに父、祖母、2人の兄に祖父、それに館の使用人大勢が待機していた。
ちょっと忘れかけてた、この家の俺に対するノリ。
「ああ。旅に出たい」
俺はそう思ったが顔には出さず、笑顔で家族に答える。
2人の兄、オグマとキースが左右から俺の肩を抱く。
「お帰りカシム!」
「大変な活躍をしたそうじゃないか!」
「他では話せないのが残念なくらいだ!」
「さすがはカシムだ!」
「いずれ俺たちを率いるべき男だ!」
2人は代わる代わる本当に嬉しそうに俺の肩を抱きながらまくし立てる。
上の兄はキース。金髪で理知的な兄。
下の兄はオグマ。黒髪で熱血漢。
2人とも長身でしっかりした体格をしている。年は21歳。
双子の兄弟で、グラーダ国王の親衛隊の隊長、副隊長をしている、化け物の様に強い。
「それぐらいにしないか。カシムもまだ完全に傷が癒えているわけでは無いのだ。早く食堂に移ろうでは無いか」
2人の兄に注意するのは父ガルナッシュ。
父は今の軍の最高責任者である「一位」の位にいる。
父は元々祖父の軍の副将だったが、副将になったばかりの頃、母フューリーと出会い、母の猛アタックでペンダートン家に婿入りしたそうだ。
黒髪短髪で目がつり上がっていて、いつも口をへの字に結んでいるので、怖い印象を人に与えてしまうが、不器用なほど真っ直ぐな人である。
この家の中では、一番俺に対して冷静である。だが、そこは「食堂」では無く「カシムを自室で休ませてやれ」では無いだろうか・・・・・・。
ちなみに兄たちは父親似である。
「そうね。もうすっかり準備は出来ているのよ」
祖母が数人の召使いを引き連れて忙しそうに食堂に走る。
ああ。とんでもないパーティーが開かれる予感がする。今夜は眠れそうに無い。
一同が食堂へ向かうと、祖父が眉間にしわを寄せつつ、妙にそわそわした様子待っていた。
なので「ただいまじーちゃん。いろいろありがとう」と俺が言うと、「うむ」と一つ頷く。
食堂には、大きなテーブル複数に、溢れんばかりの様々な料理が山のように用意されていた。今日は家の使用人たちも交えたパーティーになるようだ。一応家族用のテーブルとイスも用意されているが、しばらくは立食パーティーになりそうだ。
この家族は玄関ホールに自らが掲げた「快気祝い」の意味が分かっているのだろうか?
余談だが、門や敷地を守る衛士たちにも豪華な料理と勤務後の酒と、一時金が与えられるらしい。
この家の使用人たちのほとんどは、この家の孤児保護施設で育っていて、ペンダートン家には恩義を感じているし、常に待遇もいいので、我が家に忠誠を誓っている。
昼の12時過ぎから始まったパーティーは、歓談から始まり、誰とも無く始まった祖父ジーンの武勇伝語り、祖母の企画したゲーム大会(豪華景品付)など、大いに盛り上がり、20時になり、多くの召使いが退勤の時間になるとお開きとなった。
残ったのは住み込みのベテラン執事長と、2人のメイドだけで、家族の団らんの時間となる。
この住み込みの執事長バルドと、メイドのベアトリスとリアは、ずっと我が家に仕えていて、特に信用できる使用人だ。
ベアトリスとリアは幼い頃から我が家にいて、兄たちが生まれた頃には、もう働いていた。年は2人とも26歳。どちらも美人である。
リアはイヌの獣人で、少し(?)不器用、というかドジ。
ベアトリスはメガネを掛けた知的な女性である。
他にも住み込みの使用人は多いが、主たちの宴が続くなら、誰かが残らなければならない。その為、この2人が残ったのだろうが、使用人たちにとっては残った方が嬉しいという。
何らかのパワーバランスがあるのだろう。パーティーでは、バルドは常だが、メイドとして、この2人が残る確率が高い気がする。
人数が減り、静かになった食堂のテーブルを家族で囲み、ようやく俺は腰をイスに落ち着ける事が出来た。
「さて・・・・・・」
キースが長い金髪をかき分けると祖父と父に目配せする。「そろそろいいだろう」
オグマも俺に向かってギラつく目を向けてくる。
「な、何だい?兄さん」
「聞っかっせっろっよっ!」
「お前の武勇伝をよ!」
「ええええ~~~」
俺はあからさまに嫌そうな顔をしてしまう。
この兄たちは、俺への熱量が激しい。それを言ったらこの家族みんながそうなのだが、とにかく兄だというのに、俺の事を激しく高く評価して、何故かさっぱり分からない絶対的信頼を寄せてきているのだ。
もし俺が「白」を「黒」だと言えば、迷わずそれを信じるだろう。そんな兄たちに今回の事件を詳細に語ったらどんな評価がされるのか、考えただけで恐ろしい。
今も弟である俺を、英雄を見るような目で熱く見つめてくる。俺にしたら、兄たち2人の方が英雄である。騎士としても、人格としても、兄たち2人の方がよっぽど出来た人間だと俺は素直にそう思う。
あと、スキンシップが多い。すぐに俺の肩を抱いたり頭をなでたり。それはどうなのだろうか?
ともあれ、祖父も頷くので話さざるを得ない。
俺は、俺の経験した事を話して聞かせた。
すると案の定、兄たち2人は大興奮して2人で何度も乾杯をして酒を飲む。祖父は、誇らしそうにうんうん頷いている。いや、俺の前では厳しい祖父を演じようと努力しているらしいのだから、そこで誇らしそうにしていてはダメなのでは無いだろうか?
祖母は、ハラハラして心配そうに俺を見る。
メイドの2人は「いや~~~ん。お坊ちゃまに惚れちゃいそうです~~~」「こら!カシム様はアクシス様の物ですよ!」などと言っている。
「これ、慎まんか2人とも。カシム様は全世界の人々のものですぞ」
執事長ももはや訳が分からない。
「そうでした!」と声をそろえてメイド2人が胸に手を掲げる敬礼をする。
だから話したくなかったんだ・・・・・・。




