冒険の始まり 戦い終えて 2
「わたくし、カシムお兄様と結婚いたします!」
グラーダ三世と対面を果たしたアクシスの第一声である。
「・・・・・・っっっ!!!!」
グラーダ三世が尻餅をつく。10万の軍勢でさえ成し得ない偉業である。
「あ、あくしゅしゅ~~。お、俺は、お前の無事を、聞いたのだぞ~~?!なのに、何故あの小僧の名が出る?!し、しかも結婚だとぉ~~~?!」
グラーダ三世は大いに狼狽えて、立ち上がる事さえ出来ない。
ちなみにそれは親子2人で、私室での事では無い。玉座の間の隣、王の執務室で、複数の文官や、側仕え、宰相の「賢政」ギルバート・ベックマンに、今は魔法学校の校長などの肩書きを持つ「賢聖」リザリエ・シュルステンがいる。
ギルバートは、また天井崩落とならないか心配して、天井をチラリと一瞥するとため息をつきつつ、文官や側使いを下がらせる。
「『あの小僧』ではありません!剣聖ジーン様の・・・・・・お父様のお師匠様の孫ではありませんか!お兄様はわたくしと共に育った大切なお方です。そのお方が、わたくしを命がけで救ってくれたのです。お兄様がおられなければ、わたくしの首は切り落とされ、地獄教の儀式の生け贄にされていました」
「ぐうううっ!」
グラーダ三世は未だ立ち上がれず、呻く事しか出来ない。世界を席捲した王が、闘神王が一方的にまくし立てられている。
「もし私が、あの儀式の生け贄にされていたら、何が起こったか、お父様もおわかりのはずです!」
その言葉にはグラーダ三世だけで無く、ギルバートもリザリエも息を呑む。
「聖魔大戦勃発」
誰がその言葉を口にしたのか。
「つまりお兄様は、わたくしの命の恩人と言うだけで無く、お父様や世界にとっても恩人なのです。ですから、わたくしは昔からの願い通り、お兄様と結婚します!!」
「小僧の・・・・・・い、いやカシムの功績は分かった。・・・・・・だが、なぜ、そこで『結婚』が出てくる?」
グラーダ三世が絞り出すように疑問を投げかける。論法としては確かに何の整合性も無い。だが、質問したが、グラーダ三世はその答えを聞きたくなかった。
アクシスはきっぱり言い放つ。
「当然、愛しているからですわ!!!」
ゆらりと、闘神王が立ち上がる。アクシスの方を一切見ずに言い放つ。
「あの小僧の功績は認めてやる!・・・・・・だが、結婚はゆるさん!」
そして、そのまま執務室を出る。
プリプリ怒るアクシスと、肩をすくめるギルバート。
リザリエはギルバートに目配せをすると、ギルバートは一つ頷く。
そしてリザリエも執務室を出る。リザリエはグラーダ三世の後を追った。
残ったギルバートはアクシスをなだめる役である。
ギルバートは、鋭く冷たい目つきをした男で、年齢は39歳と、宰相としては若いが、切れる様な冷徹さで合理的な判断をし、グラーダ国の政治を非常に良く支え、回していた。人を寄せ付けない雰囲気を持つ男だが、アクシスには穏やかな表情を見せる。
「姫。あまり怒らないでください」
長身のギルバートは膝を曲げて、アクシスと目線を合わせると優しく微笑む。
「カシム殿の功績は、もはや誰もが認める事です。もっとも、事が事だけに秘密にしなければなりません。それをご承知ください。そんなわけで、今回の事を功績としてカシム殿と姫のご結婚の理由にする訳にはいかないのです」
アクシスは頬を膨らませる。
「それではお兄様があまりにもお可愛そうです!」
「私どもとしても、姫様が他国の王子や貴族との政略結婚する事など一切望んでいないし、必要もありません。それくらい我がグラーダは力を持っています。それ故に姫には思いを寄せる殿方と添い遂げて戴きたいと願っています」
それを聞くとアクシスの表情が一気に明るくなる。栗色の髪が一瞬で黄金色になり、室内を照らす。その様子にギルバートは微笑みつつ思う。
『この方の髪は、正にあの御方だ。この力に頼らずに済む時代にしたいものだ』
「それでは、わたくしはお兄様と結婚できますか?」
ギルバートは苦笑する。
幼い頃、アクシスはギルバートにいつも相談してきていた。この事を話せるのはギルバートだけだった。
だが、いつの頃からかカシムの事を話すのをやめてしまっていたので、幼い恋心は幼いまま消えてしまったのかとギルバートは少し淋しい思いをしていたのだ。
だが、今日のアクシスの様子から、そうでは無い事をギルバートは知った。
アクシスの思いは消えるどころか、年を追うごと、日を追うごとに強くなっていっていたのだ。ただ、成長するに伴って、それを秘さねばならない事を自覚しただけなのだ。
そして、今回の事件があり、もう強い想いを心の内にしまっておく事が出来なくなって、溢れ出したのだと知った。
「姫。私はカシム殿と姫の結婚を応援します。なんと言ってもカシム殿はジーン様のお孫さんだ。家柄もこれ以上無いと断言します。・・・・・・ただ、カシム殿自身は、公には功績をあげておりません。なので、何らかの功績を挙げて戴ければ、もう王も反対する事は出来ないでしょう。私からも王にそう進言いたします」
「お願いします、ギルバート。さすが『賢政』ですね」
アクシスは花が咲いたような笑顔で礼を言うと執務室を去って行った。
一方、「賢政」と呼ばれたギルバートは苦々しげな表情をする。ギルバートは自信が「剣聖」「賢聖」に並んで「賢政」と呼ばれるのを嫌がる。
「三聖人」などと呼ばれているが、前者2人に並ぶほどの能力は自分には無いと思っているので、人々が「賢政」と言うのを快く思っていないのだ。
だが、嬉しそうなアクシスの足取りを見て、ギルバートは頬を緩めた。
「さて、後はあなたにお任せしますよ、『賢聖』リザリエ様」




