冒険の始まり 戦い終えて 1
「む。気がついたか・・・・・・」
祖父の声だ。
「ッッ!?」
右目に痛みが走り、思わず右目を押さえる。
「右目はもう使えん。義眼が入っておる」
祖父の指摘に、俺は気を失う前の記憶が一気に蘇る。
上体を起こすと、祖父に尋ねる。
「アクシスは?!」
すると祖父から怒声が飛ぶ。
「馬鹿もん!王女殿下と呼ばぬか!」
俺は自分のうかつな発言に首をすくめる。そうだ。俺はもう子どもの頃の俺では無い。王女であるアクシスの名を気安く呼んだりしてはいけないのだ。
「王女殿下はご無事ですか?」
言葉を改めつつ祖父に尋ねると「うむ」と答えつつも祖父は微妙な表情をした。
ああ。そうだった。祖父は結構めんどくさい性格をしていた。
あれは俺が10歳の頃の事だった。
それまで俺は祖父の事を、気安く「じーちゃん」と呼んでいた。だが、修行の時は「師匠」と呼ぶし、軍の訓練に参加する時は「総長閣下」と呼んでいた。
更に父も、年の離れた双子の兄たちも、家でも「総長閣下」と祖父を呼んでいたので、俺もいい加減態度を改めるべきだと思ったのだ。
そこである朝、起きてきた祖父に「おはようございます。総長閣下」と張り切って挨拶をした。ちゃんとした態度を取って誉められると内心期待していた。
ところが祖父は「うむ」と小さく頷くだけだった。
ボンヤリしていたのかと思い「総長閣下。お食事の準備は出来ております。ご一緒に参りましょう」と、つたなくも何とか丁寧な言葉で伝えたところ、やはり「うむ」と言っただけだった。そして、少し妙な表情をしたと思ったら、そのまま自室に引き返してしまった。
それからしばらく自室に引き籠もってしまった。
俺が何か失礼な事をしたのではと心配して、祖母に相談したら、祖母は怒りながら言った。
「あの人ったら、全く素直じゃ無いんだから!」
そしてプリプリした表情のまま俺に言う。
「いい、カシム。あなたは素直に思った事を表現できる人になりなさい。あの人はね、急にかしこまられちゃったもんで淋しくなってるだけなのよ。いつもの調子で声かけてごらん。すぐに機嫌を直すはずよ」
そこで、俺は祖父の部屋の前に言って大声で言った。
「じーちゃん。晩飯できたって~。一緒に食いにいこ~」
するとすぐに部屋のドアが開き、しかつめらしい顔をした祖父が「うむ」と言って出てきた。それ以来、俺は家では子どもの様に祖父に気安く話しかけるようにしている。
今も、敬語をちょっとだけ使ったので、淋しさを感じたのだろう。
「王女殿下は無事だった?じーちゃん」
めんどくささを感じつつ言い直すと、祖父は経緯を語ってくれた。
「うむ。アクシス姫はご無事だ。お体の疲労はひどかったが、回復魔法によってすぐに回復なさった。お前は6日も寝込んでおったが、どうやら毎日様子を窺いにいらしていたそうだ」
そうか。毎日・・・・・・。アクシスらしいな。
というか、アクシスが来れるという事は、ここはペンダートン家では無く王城か?
・・・・・・しかし、俺は6日も寝ていたのか。魔法で回復の治療を受けたに違いないのに、それでも6日・・・・・・。
しかも、義眼か・・・・・・。
部位欠損でも金リボンの回復魔導師なら直せるはずだ。何か事情があるのだろうか?
俺は祖父に疑問を伝えると、「呪術」について教えてくれた。
呪術とは、魔術とは全く違う謎の技術で、魔力が無い者でも方法を知って入れば出来るらしい。ただ、本当に何も分かっていない、実在するかさえも信じられていない者だそうだ。
どうやら俺の右目の傷は、その呪術によって負ったものではないかと見られている。呪術の傷であるが故に、魔法でも医術でも治療できないとの事である。
その為、アカデミーで研究が開始されて、呪術師と名乗る者を招集したり、東の島国アズマの方が発祥らしいので、何とかアズマ人の協力が得られないか模索しているそうだ。とは言え、アズマは厳しい鎖国状態なので、状況ははかばかしくないそうだ。
鏡を見ると、右目に縦の大きな傷があり、閉じたまぶたはピクリとも動かせられない。
傷近くのまつ毛は焼けてしまったが、他の部分のまつげは真っ白になっていて片目だけ白いまつ毛の妙な状態になっている。
他の体の傷はきれいになっているらしい。手のひらの傷も残っていない。
あの時、弓矢使いの男がゆっくり鏃を焼いていたのは、何かしら呪術を込めるための準備をしていたという事なのだろう。恐ろしい男だった。
俺が鏡を見ていると、祖父が小言を言う。
「あの程度の傷で6日も眠り続けるとは、まだまだ修行が足りんな」
そうかもしれない。俺は弱い。
「それはそうと、アクシス姫が、お前の事を色々王に報告なさったそうだ。面倒な事にならぬと良いが・・・・・・」
祖父が俺にとんでもない雷撃を与える。
あの王に・・・・・・、祖父が俺を思う以上に娘を溺愛しているあのクソ親父に、あの状態のアクシスが色々報告したとすれば、面倒ごとは避けられない。
「まあ、今はリザリエが側におるから、そこまでやっかいな事にはならんだろうとは思うが・・・・・・」




