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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第一巻 冒険の始まり
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冒険の始まり  救出劇 6

「よくぞご無事で、王女殿下!」

 出現した集団が地面に膝を突く。

「遅くなり、大変申し訳ありませんでした」

 男たちが涙をこぼしてアクシスを見る。

 よく見ると、男たちはペンダートン家の私兵の装備をしている。しかも特殊斥候部隊「鷹」だ。


 どうやら援軍のようだ。俺は安心して脱力し、地面に膝を着く。倒れそうになる俺を、アクシスと共に支えてくれた男が俺を見て叫ぶ。

「君は!カシム君だね?君が王女殿下をお救いしてくれたのか!」

 男は俺の事を知っているようだ。それも当然だ。

 俺はペンダートン邸の訓練場で10年間訓練したのだから。

「・・・・・・あ、あなたは?」

 息も絶え絶えに、俺は尋ねた。目がかすんで、相手をはっきり見る事が出来ない。

「私は、特殊斥候部隊『鷹』隊長、ノリス・ガウシス。カシム君のお爺さまの直属の配下だ」

 ああ。知っている人だ。

 


◇    ◇



 痕跡を見失っていたはずの特殊斥候部隊「鷹」が、遺跡付近まで迫った経緯はこうである。

 先行追跡部隊として、追跡しつつも砂漠でその痕跡を見失ったが、その部隊を率いていた隊長ノリスは、一つの見落としに気付く。

 崖に向かった馬車の痕跡をわざと残していて、それをカモフラージュとして、実は砂漠の道を進んで行ったのだろうと仮定して、砂漠の道を探索していた。

 砂漠に向かった方の痕跡には、隠そうとしたようで、ノリス達出なければ気付く事が出来ない物だった。

 だが、この分かりにくい痕跡の方こそがカモフラージュだった。


 弓矢使いの男ヴァジャは、スカウト能力も備えていて、あえて消し残した痕跡を作り、スカウトを誘う事に成功していた。

 この罠は、隠された痕跡に気付けるベテランこそ掛かりやすい罠だった。

 ヴァジャのスカウト能力も尋常では無い。


 そして、馬車を落とした地点から少し離れた場所から崖を下り、崖下の道から「王家の墓」遺跡に向かったのである。

 ノリス隊長がそれに気付いて、馬車が落ちた崖の方に急ぐと、崖下から狼煙 《のろし》が上がった。崖下に降りて調査をするために残った2人が、崖下で遺跡に向かう痕跡を見つけていたのである。

 

 崖下の2人の斥候は狼煙を僅かな時間で消し、行き先を示すサインを残すと、先行して追跡し、遺跡にたどり着いた。

 だが、遺跡のガードが堅く、なかなか遺跡に入る事が出来なかった。

 残されたサインを見て大急ぎでやって来たノリス隊長率いる本隊と合流したところで、遺跡からの騒ぎがあり、遺跡を守るガードが甘くなった。

 そこで「鷹」は、身を隠しながら遺跡に向かっていたところに、アクシスを抱えた、傷だらけのカシムに遭遇したのである。



◇     ◇



「アクシスをお願いします」

 俺はノリス隊長に懇願する。

「カシム君。安心したまえ。我が殿が、我らが残したサインを追って間も無くやって来るはずだ。殿の進軍の早さは並では無い」

 ノリス隊長の言う「殿」とは、俺の祖父の事だろう。

 ノリス隊長は、心配そうにノリス隊長を見るアクシスに頷いて見せつつ、部下に命令する。

「お二人の護衛に5人付ける。お2人をお助けし、殿の本隊に合流するのだ。残りは俺に続け!奴らをここで食い止めて時間を稼ぐぞ!」

 ところが、隊員たちは全員ノリス隊長を無視して、迫ってくる敵集団の方を向いて抜剣する。

「??・・・・・・お前ら?」

 ノリス隊長がいぶかしげな声を上げる。すると1人の隊員が答える。

「お断りします。我らの半端な能力ではお2人を確実にお逃がしする事叶いません。お2人をお助けする任務には隊長が就いてください。残りの4人は隊長がご指名ください」

「何を言ってるんだ?お前らは。俺がここを率いず逃げられるとでも思っているのか?!」

 隊長が怒声を上げる。しかし、隊員たちは隊長を振り返る事は無い。

「我々は隊長に比べまだまだ未熟です。隊長はスカウト技術を伝え残す義務があります。それ故に、ここは我々にお任せください。」

 眼前に迫る敵の集団は数百。ここに残った者はまず助からないだろう。

 だが、こんな押し問答をしている時間的余裕はもはや無い。今すぐ決断して行動しなければ、結局俺たちは1人も助からない。それが分かるから、ノリス隊長は決断を下した。優先するべきは何か?アクシス王女の救出である。


 だが、結論から言うと、ここにいた22名は1人も欠く事無く助かったのだ。




 白銀の閃光。


 問答をしている俺たちの横を、稲妻のように閃光が走り抜けた。次の瞬間、迫ってきていた敵の先頭集団が弾け飛ぶ。

 白銀の閃光が煌めく度に、10人以上の単位で敵が吹き飛んでいく。


 間違いない。


 あの馬鹿げた戦闘能力は俺の祖父、伝説の英雄「剣聖」「白銀の騎士」「閃光」「神殺し」「竜の眷属」「百の称号、千の伝説を持つ男」ジーン・ペンダートンだ。

 続いて、ときの声と共に、猛烈な勢いで駆けて来る騎馬集団が現れる。その数、およそ200騎。


 祖父の進軍速度は、直属の部下のノリス隊長でも読み違えるほど迅速だったようだ。

 


 騎馬集団は、俺たちの横を駆け抜け、敵に突撃していく。その内20騎が俺たちの側で止まり、防御陣形を敷く。

 その中央にアクシスがしっかり守られている。


 すぐに俺の元に魔導師が駆け寄ってくる。

 ペンダートン家の私兵団には、回復魔法の使い手としての最高位である「金リボン」の回復魔導師が3人もいる。

「これはひどい。すぐに治療を開始しなければ」

 俺は組み立て式の担架に寝かせられ、傷の具合を確認される。

 えぐれ焼かれた右目に、こめかみの裂傷。左腕の骨折に右手の平の貫通。両手のひらの裂傷。左足の刺し傷。体力も底を突いていて、まさにボロボロである。

 


 ともあれ助かったようだ。

 アクシスが治療の邪魔にならないようにしながら、俺の手を握りしめている。

 今は涙を流していない。

 偉いぞ、アクシス。

 王女として懸命に振る舞おうとしているのだろう。本当なら、安堵のあまり大声で泣き喚きたいに違いない。子どもの頃のアクシスならそうしていた。


 俺はアクシスの様子を見ながら意識を失おうとしていた。

「甘えるな!カシム!」

 そこに厳しい声が掛かる。その声に、反射的に俺は上半身を起こす。激痛が全身を駆け巡る。

 見るとやはり祖父の姿。白銀の鎧に、黒地に銀糸で盾十字の大きな刺繍がされたマント。

 剣はすでに鞘に収まっている。戦闘は部下に任せて戻ってきたようだ。厳しい表情でカシムを見る。

「騎士たるもの、王女殿下を城までお届けするまで気を保たずにどうするか!」

 祖父の怒声に頭がクラクラする・・・・・・。「伝説」はちょっとずれているのだ。


「じいちゃん・・・・・・。俺・・・・・・騎士じゃ、ない・・・・・・から・・・・・・」

 苦笑しつつそう言うと、俺の意識は暗闇に呑まれていった。

 アクシスの悲鳴と怒声が、失われつつある意識の隅で聞こえた気がする。


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