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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第一巻 冒険の始まり
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冒険の始まり  地獄教の儀式 3

 アクシスは小さい部屋に連れ込まれると、ロビスと呼ばれた大男から解放された。ロビスと入れ替わりで室内に入ってきた女たちに囲まれると、身に着けていた物を全てはぎ取られ、代わりに用意されていた白いドレスに着替えさせられた。

 髪型を整えられ、金のネックレスや髪飾りを付けられる。

 猿ぐつわも外され、化粧を施される。

 それが終わると女たちは部屋を出て行き、外から鍵が掛けられる。小さな部屋は、粗末な寝台とイスが一つあるだけ。窓もない完全な密室である。


 アクシスはそれでも涙をこぼさなかった。唇をグッとかみしめて絶え間なく押し寄せる、恐怖や不安と必死に戦っていた。

 アクシスは絶望に屈しまいと、心の中の拠り所に必死に念じていた。

「信じています。きっと、きっと助けに来てくれますわ」

 胸の中でつぶやいた。



◇     ◇



 ジーンが放った追跡隊「鷹」による追跡は困難を極めていた。

 砂漠で痕跡が途絶えた上に、日もすっかり暮れている。しかも、今夜は砂漠の空に薄い雲が現れていて、月もかなり欠けてしまっているため、弱々しい光は地上を照らす役には立たない。夜明けを待たなければ、これ以上の追跡は出来ないと判断せざるを得ない。

 しかし、追跡隊は諦めるわけにはいかない。18騎の内、特に優れた能力の5人はそれぞれに追跡する事とした。そして、補佐に各1名ずつ付ける。

 無言でその采配をすると、それぞれ無言で散っていく。先行追跡隊を指揮する隊長は焦っていた。

 時をかけてはいけない予感がひしひしとする。

 そして、自分が何かを見落としている気がしてならない。重大な痕跡をである。

 


◇     ◇



 もうどれぐらい進んだ事だろう。狭い通路はそのままの幅で延々と続いていた。途中で一度休憩して、食事をして軽く眠った。

 興奮しているのかすぐに目が覚めて、居ても立っても居られずにすぐに前進を開始したが、景色は相変わらずであった。

 進んだ距離は感覚では3キロメートルといったとこだろう。四つ這いで進むにはかなりきつい。膝当て、肘当て様々だ。

 通路は、遺跡から緩やかなカーブを描いて北西に向かっている。


 俺は頭の中で地図を広げた。この方向に何があるのか分かったからである。地図で行けば、もう少し進むと刺し渡り数十キロメートルの長く南北に延びた崖で砂漠は終了している。 この通路は恐らく、その崖にある「王家の墓」という遺跡に行き当たる事になる。


 「王家の墓」とは、崖をえぐって作られた巨大な神殿の様な作りの、約二千年前の石窟遺跡である。

 かつて、その崖と海までの間に南北に延びた、細長い国土の王国があって、その王家が死後の魂を保管するために建築した遺跡だったそうだ。

 金、銀、宝石、美術品で彩られていた建物だったらしいが、今では盗掘にあい、彫像もほとんど壊れかけ、すっかり荒れ果てていた。その為、わざわざ訪れる物好きも居ないような遺跡である。

 俺は物好きだから、今の遺跡の後に行こうかとも考えていたが・・・・・・。


 

 この通路は「砂の岩戸」と「王家の墓」を繋ぐ通路なのかもしれない。

 いや、通路では無い。よく見ると、微かなスリットが着いている壁面が所々にあった。と言う事は、この狭い道は「通気管」なのだろう。と言う事は、この下か付近にちゃんとした通路があるようだ。

 それは分かっても、通気口は開かないし、壁を壊す事も出来そうもない。

 ともかく進んで見るしかない。

 もうじき王家の墓に到達するだろうからだ。


 しかし、何だって二つの遺跡を繋ぐ必要があった?年代もめちゃくちゃだ。

 ん?年代で言うなら通気管の方が古い。と言う事は、2つの遺跡の方がこの通気管を何らかの形で利用した物なのだろうか?

 結論を急ぐ事はない。今は前進を続けよう。気力も体力もまだ余裕がある。


 しかし、それから少し進むと状況が変化した。崩落である。「マジか!?」

 俺は思わずうめき声を上げた。崩落した所まで前進して明かりで照らしてみた。完全に土砂につぶされているようだ。

「ここまできて行き止まりか」

 俺は落胆のため息を漏らす。


 しかし、床と土砂の間からかすかな風が吹いてきていて、さっきから通路に充満している妙な臭いと、煙っぽい物もこの隙間から流れて込んで来ている。よく見ると、土砂の隙間に明かりが見える。

「この真下が王家の墓なのかも」

 俺はクサビを取り出して丁寧に土砂を掘っていく。内心崩落に巻き込まれないかとビクビクしていたが、大丈夫だった。 しばらく掘っていくと、土砂はバラバラと下の空間に流れ落ちていった。ボッコリと開いた穴を滑り降りて、俺はようやく立ち上がれるくらい広い通路に出る事が出来た。

 


 壁はあの狭い通路と異なり、古めかしい石造りと、天然の岩の壁が混在している。岩をくりぬいて作られた「王家の墓」遺跡に間違いない。

「しかし、ここは何処だ?」

 王家の墓は広大な遺跡だと聞いている。岩の壁があるから、恐らく最奥部なのだろうとは思う。

 

 周囲を見回す前に、俺は急いでカンテラを消した。そして、壁に寄り、身を隠すと耳を澄ませる。


 どうも様子がおかしい。遺跡のどこかから人の声が響いているし、うっすら明るい。煙を感じる以上どこかで火が焚かれているに違いない。

「誰かが居る。しかも大勢だ」

 こんな忘れ去られたような遺跡でいったい誰が?何のために?

「どうも・・・・・・よからぬ連中に違いない」


 ヤバいところに行き遭った様だ。このまま引き返すべきだろうか?そう思ったものの、何も分からぬうちに逃げ出すべきではないと考え、俺は進む事にした。

 騎士の家で育った妙な正義感が働いてしまったのかも知れないが、さっきから、頭の中で何かが激しく警鐘を鳴らしている。その警鐘は引き返すように促す物ではなく、急いで進むように俺をかき立てていた。


 俺は胸に抱くように装備していたショートソードを腰に装備し直しながら、油断無く通路を進んだ。


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