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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第一巻 冒険の始まり
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冒険の始まり  地獄教の儀式 2

 本来アクシス王女の誘拐などとても困難極まる事だ。不可能と言っても良い。

 だが、アクシス王女の厳重な警備が毎年一度だけ、わずかに弱まる時がある。

 それが毎年春、2月の15日に旧王都レグラーダで行う「地母神カーデラ」に捧ぐ豊穣祭に参加する公務である。これはアクシス王女がまだ5歳の時から続く恒例行事である。この行事でも警備は厳重だが、何故か闘神王自身は参加した事がない。

 そして、魔王の遣いが指定したのも2月15日の日の出である。これは偶然などではない。このタイミングでアクシス王女を誘拐して生け贄にせよとの魔王様の意志に違いない、とデネ大司教は確信する。



「よかろう。ヴァジャよ。儀式の進行具合を確認しに行こうではないか」

 デネ大司教はヴァジャの肩を抱きながら神殿奥にいざなう。

 ヴァジャ自身は、数年の潜入任務の為、今回の儀式がどのように進行していくのか、全く知らなかった。

「は。ご教授願います」

 ヴァジャが頷く。 

 一方で、背後に控えていた小柄で、危険な香りがする、髪の長い男に声をかける。

「ウシャス。外の警戒を怠るでないぞ」


 ウシャスは無言でうなずくと神殿出口から外に向かった。手には長い棒を持っている。そして、外に出ると、何処どこに隠れていたのか、影のように数人の地獄教徒が現れて、ウシャスの指示を受けて、出現したときと同じように影のように姿を消した。




 儀式の祭壇は凄惨な光景だった。

 広間はかなり大きな空間となっていた。

 最奥さいおうの2階部分に大きなバルコニーがある。そこに演壇えんだんが設けられている。

 バルコニーにはカーテンが引かれていて、その奥の部屋の様子は外からは窺い知ることが出来ない様になっている。

挿絵(By みてみん)


 デネ大司教に連れられたヴァジャは、このバルコニーから、儀式の様子を眺めていた。

 バルコニーから見て、対面がこの神殿に改修された遺跡の出入り口となっていて、扉は無く、西に向かって大きく開かれていた。

 広間の中央の祭壇は、入り口の通路よりも高い位置にあるので、アクシスを連れてきた時には、ヴァジャからは祭壇の様子が見えなかった。

 バルコニーから見下ろす事で、ヴァジャにも祭壇で何が行われているのか見る事が出来た。およそ予想通りだった。地獄教の儀式とは、結局は「性交」と「生け贄」である。


 祭壇は、一辺20メートルほどの正方形の舞台の中央に設けられたベッドのような形の石で出来た台である。


 舞台の四辺は、底が見えないくらい深い溝で囲まれていて、舞台への行き来は、木の板を渡して、幅10メートルほどの溝を渡る必要がある。この板も、使う時以外は舞台からはずしてしまうので、一度舞台の有る場所に渡ったら、自力では戻る事が出来ない。


 祭壇の上では、白い袋を頭からかぶり、白い袋状の服をまとった男女が交わっていた。

 広い神殿全体が篝火の煙、それに大量に焚かれた香の煙でけぶっており、バルコニーから見ても、祭壇の様子ははっきりとは見通せない。

 そして、祭壇の下は血の海で、舞台の四辺に大きな桶が置いてあり、その中に男女の首が沢山放り込まれていた。舞台に転がったままの物もある。その首の体の方は、祭壇を取り囲む深い溝の下に放り込まれている。

 

 祭壇は凄惨な光景ではあるが、ヴァジャや地獄教徒にとっては心沸き立つ光景だった。


 舞台を取り囲むように三方囲む形で設置された4段から成る回廊には、多くの地獄狂信者がひしめき合って、祭壇の様子を見ていた。

 彼らは興奮していて、自らも早く儀式に参加したい様子で、儀式を見守っていた。


 信者がまぐわっている寝台の様な祭壇の両脇に、斧を持った大男が2人立っている。元は白い布だったのだろうが、ほとんどが赤に染まった布を頭からすっぽり被っている。

 祭壇の交わりが終わると、祭司であるこの大男達によって男女は首をはねられる。

 普段の規模の儀式では、生け贄にされるのはもっぱらさらってきた無関係の人間だったり子どもだったりするが、今回は自分たちが生け贄にしてもらえるのだ。絶頂と共に首をはねられるとは、なんと幸福な事だろうかと、多くの信者は興奮していた。

 特別な儀式である事が信者たちの興奮をよりあおり立てる。

 

 地獄教は完全に狂っているのだ。刹那的せつなてきな快楽主義で、利己的で、殺人衝動が抑えられない者たちの集団なのだ。世界中が排除に躍起になるのも頷ける。彼らには筋の通った教義などありはしない。健全な世界という物、正しい道、光ある世界を憎んでいる集団なのだ。

 


 アクシス王女は、そんな狂信者に生け贄として囚われてしまったのだ。

 儀式としては、2月15日の日の出と共に、アクシスは祭壇で首を切られ、その後、デネ大司教によって、首を失った体を犯される事となっていた。

 それによって儀式が完成し、地獄の蓋が外れ、地獄の魔物や魔王が、地上に現れる事が出来るようになるはずである。


 ヴァジャは、儀式の流れを初めて知らされた。

御心みこころのままに」

 そう答えたヴァジャだったが、スッと顔を伏せて表情を隠した。

 ヴァジャには思うところがいくつかあった。

 その一つとして、アクシス王女である。

 デネ大司教から袋をむしり取られて時のアクシス王女の目には「驚き」と「恐怖」はあった。

 だが、「絶望」の色は皆無だった。

 護衛隊の副隊長となったヴァジャであっても、アクシス王女を間近に見た事は数回。遠目に見た事でも数えるほどである。

 ヴァジャは、その数える程度の対面でも、アクシス王女の目の輝きは強烈な印象を持っていた。常に希望を胸に抱いている事が伝わる強い輝きだった。

 それはヴァジャにはあまりにも眩しすぎた。


 この状況になって尚、絶望しない瞳の奥に、何が宿っているのか?それが気にかかる。


 そして、この儀式の顛末てんまつに対する思い。



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