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第47話 久しぶりの《仮想戦闘》を彼らと

 ランク戦。

 

 

 進からすれば《ハンター》とかいう組織の登場によって時々忘れかけるような行事となってしまってはいるが、ちゃんと低ランク帯の試合は毎日行われていて、それこそトーナメントや暫定ランク付けも進んでいるらしかった。

 


 進は転校してきたばかりで、ランクというものを持たない人間だが、光の推薦を使って編入してきたことにより中間ほどのランクからのスタートとなるらしい。

 

 なんとも親切だ、と前にもこんなことを思った気がするなと気が付いた。


 

 で、どうして急にランク戦の話になったかというと、ランク戦が始まったことにより地下でしか行うことができなかった《フリーマッチ》と呼ばれるランクに関係しない対戦を屋外からもアクセスできるようになったからだ。

 


 それだけならば、少し前からできるようになっているという話を進は誰かとした気がするが、実際に足を運んだのは今日が初めてだった。

 

 ランク戦が始まると、どうやら授業は午前中だけになるらしくここのところ暇をしていたのだ。



「人外とばっかり戦闘してたから、対人戦の感覚微妙に狂ってる可能性が高いんだよなぁ……」

 


 進は、隣で一緒に歩いているみことに声をかけた。

 みことが進のほうを振り向いたので進もそちらに顔を向けた。



「まったく、そうだよなぁ。いや、まぁ俺は一回人型と戦ってはいるんだけど……」

 


 心当たりが進にはなかったので、進のいないときに戦ったのだろう。

 なんとも歯切れの悪い言葉に進は首を傾げた。



「いや……。あれは戦闘というか俺が一方的に蹂躙される側だったからな。戦った、とは言いにくいか」

「あぁ、ぼこぼこにしたのね……。って、蹂躙されたのかよ! お前がぁ?!」

 


 続けて発せられた言葉に、進は進なりの理解を行おうとして、失敗した。

 蹂躙したならまだしも、蹂躙されたとなれば話はまた変わってくる。

 

 まさかそんなことがあるなんて、とわが耳を疑いたくなる。



「え、戦ったのは誰? 光か未来さんか、友野さん?」

 


 No4はどうやらこの学園には現在来ていないらしいので、それを除いたみことよりも順位の上の人間を口に出してみる。

 

 それくらいだろう、とあたりをつけてみたのだがどうやら違ったらしく、首がはっきりと横に振られた。



「え、じゃぁわかんねぇわ。そんなに強い奴いたっけ?」

 


 進そう聞くと、みことは露骨に目をそらした。

 不思議に思ったが、それは仕方のないことだったらしい。



「いやぁ、まぁ。この学園の人間じゃなかったしな。えっと……ほら、そうそう。ぜ、全国ランキングで俺よりも上位のやつとやったんだよ」

「ふぅん」

 


 なんとも抽象的な言い分だったが本人がそう言っているんだからそうとでも思っておこう、と進は思った。

 

 実際、これなんじゃないかというあたりはあるにはあるのだが本人が触れられたくない内容らしいので無視しておこうと決めた。



「ま、とりあえずそんなことは置いておいて」

 


 このまま話題を続けると絶対にぼろを出すと自覚したのか、みことが話題を変えてきた。



「ん、そうだな。今は過去の事とか関係なしに目の前の戦いに集中しようか」

 


 何を隠そう、進もみことも対戦する気満々でこの場所にやってきたのだ。

 最近のうっぷん晴らしもかねて。


 お互い拳を打ち鳴らしたところで、あたりのもうもうとした熱気と、声援の中から知り合いの声が聞こえてきた。



「へぇ、楽しそうなことをしてるじゃん。私たちも混ぜてよ」



 進のこういうことに首を突っ込んでくるのは誰か。

 そんなの決まっている。



 みことの他には光一択しかなかった。



 それに対しておぉ、いいぜと返しそうになって、ふと進は私たちという部分が気になった。


 そうして光のほうのさらに少し後ろをのぞき込んでみると、なるほど黒髪でショートヘアの少女がおとなしくついてきていた。

 

 え、誰と口には出さないが思ってしまった。

 少なくとも、進は一度も話したことがなかった。



「こっちは、白羽結よ。ほら、自己紹介」


「ん、了解。白羽結です。こんなんですけど、何故かこの学園のS級やってます。現在No7です。よろしくね」



 暗めの子、という印象を見た目で持ってしまっていたが話し声ははきはきしているし、とてもそうではないらしかった。

 

 暗く見えるのは体に少し疲れがたまっているからのようだ。

 と、冷静に相手の分析を行って、進は自分の自己紹介がまだだったことを思い出した。



「あ、すまん。えっと、言野原進です。特にランクはないです。よろしく……結でいい?」

「うん。大丈夫だよ。こっちこそ進でいいの?」



 あぁ、いいよ。と進は答えた。

 なんと呼ばれようが相当ひどい呼ばれ方以外ならば、たいていの場合進は気に掛けることはない。


 そもそも、人の呼び名などその時々によって変わるものだと進は認識しているのだろう。


 これが魔法や魔術と呼ばれる《名》が重要な意味を持つものだとしたらまた違ってきたのかもしれないが。


 この場合《真名》を名乗ることなど全く必要がないものだった。



「で、光と結も参加するのか?」



 一応、確認といった風に進は二人に聞いた。

 そうするとすぐに肯定の言葉が返ってきたので、機械のほうを操作しているみことにだってよ、という。


 聞こえてるよ、とみことは返事をして機械の設定をいじり始めた。


 人間一人分くらいとそこまで大きくない機械にこんな機能があるなんて思ってもいなかったな、とそれを見ながら進は思った。



「よし、準備完了。今回は四つ巴に設定してあるからな」

「了解」

 


 しばらくして、みことが進たちに向けてそういってきたので進はそちらに向き直った。

 あとは学生証を持っているだけでこの機械がどこかよくわからない場所(ステージ)に飛ばしてくれる。


 今回はステージがどこか言われてなかったので、そうやらランダム設定らしい。

 進は少しの浮遊感に包まれながら、そっと目を閉じた。


 次に目を開けた時にはそこは大きな森の中だった。



「森の中……か」

 


 かなり厄介な場所に転移してしまったな、と進はその瞬間に理解した。


 

 森の中。

 

 確かに物資は大量に手に入るだろう。

 しかし、それのほとんどが木材と土。

 

 少量の石材だった。


 

 サバイバル系のゲームならば木材が大量になって困ることはないのだが、今はバトルロイヤル。

 それだけに素材が絞られるのは進にとってかなりのハードモードになりそうだった。


 

 そもそも《錬金術》という《ウエポン》の性質もあって環境が戦闘に影響しやすいのだ。

 

 ざわざわ、とご丁寧に再現されたそよ風の音をよく聞き取りながら、進はあたりを見渡した。


 

 木、木、木、木、木木木木木木木木木木木木木______どこを見渡しても同じような木ばかりだった。


 

 これでは方向感覚も狂うどころではない。

 かといって通った場所に印をつけながら歩くと、ご丁寧に敵に進んだ場所を教えることとなってしまう。

 

 そうなってしまうのが、一番の不都合だった。

 とりあえず、そこらへんに見えている石材を使っていつもの《短剣》よりかは少し刀身の長いものを作っておく。



(マジでこれからどうするか……)

 

 

 そう考えた時、後ろからがさりと明らかに不自然な音が聞こえてきた。

 ん、と進はそちらをのぞき込もうとして直感的に覚った。


 

 あ、これのぞき込む時間だけ無駄な奴だ、と。

 


 その証拠に風を切る(・・・・)音がした。

 それだけで誰なのかわかってしまった。


 だから、まずは顔を出すことなどせずに前に回避した。

 

 その後ろで、おそらく空気と空気がぶつかり合ったのだろう、ボンッという音がして余波が進の髪を揺らした。

 直撃に近かった木はなすすべなく倒れていく運命にあったようだ。



「進、みーつけた」

 


 光が大変かわいい猫なで声で進にそういって、言われたほうはゾクッと全身の毛を総毛立たせた。

 鳥肌が、全身に現れた。

 

 「うわぁ、最悪なのにみつかっちまあったよ」と若干変な言葉になりながらも思った進は苦笑いしながら一歩後ろに下がった。


 その先に特に変わったものはなかった。



(ように見えるだろ?)

 

 

 そして、進はさらに素早く一回、二回とバックステップを決めて。

 

 光がおそらく風で攻撃してくるであろう間合いを見計らって背を向けて走り始めた。

 案の定、光は攻撃を仕掛けてきてしかしその攻撃は進が用意した土の壁に防がれた。


 それは、崩れ去ったが同時に周りの大樹どもも一緒になって崩れてきた。


 

 まるで最初から光のほうに倒れてくるように計算されていたかのように。

 

 光は一瞬驚愕のような表情を浮かべたが、すぐに笑ってそのすべてを吹き飛ばした。



(まぁ、あんなので倒せるほど安くはないってこと、分かってるけどな)

 


 それを肌で感じとった進は逃げる足を速くした。

 ここで一番困るのは他二人と鉢合わせてしまうことだったが、さすがにそこまで近くにスポーンしていないだろうと進は踏んでいた。

 

 

 そもそも、初期スポーンは一定以上の距離が確保されるのだ。



(つか、それだと光は開始してから速攻で俺のところに突っ走ってきた計算になるんだけど。そんなことってある?)

 


 光の《ウエポン》ならば、周りの情報を調べることも可能かもしれないがだとしても、進を最初に狙ってきたのは弱いからだろうか。

 

 いいや、むしろ即効性はないにしろ時間ををかけて戦ったら一番何をされるかわからないから、かもしれない。


 

 あらかじめ周囲の木に切れ込みを入れておいて、光が追ってくるであろう場所に倒れるように罠を貼っておく、というのがさっきのトラップのネタ晴らしなのだがもう一度同じような手を使ったとしても何も生まれないだろう。

 


 一度目で防がれたとをもう一度やって通用する、とも思えないし。



(むしろ、逆張りでやってみてもいいけどな)

 


 そんな、某対戦ゲームのようなことを考えながらも進は後ろを振り返った。

 緑に彩られた視界の上側には特に気になる点はない。

 

 光もおってくるだろうからそこまでゆっくりはしていられないのだが、やみくもに走り続けていたらフィールドの端に追い詰められて、最悪場外負けという可能性もある。

 

 今回はどうやら一回やられたら終わりらしいので、そこだけはしっかりっしておこうと思った。


 

 その先に少しだけ木が途切れている場所があった。

 

 不思議に思ってそこに行っているとどうやら小さな川のほとりらしかった。

 せらせらと穏やかに流れるそれは一度おいておいて、進は河原に大量にある石を手に取った。


 

 攻撃用の刀はもう手元にあるのだが、もう一本くらいは作っておくべきかと思い、《変形》させた。

 ついでに、そこら辺にあった木の皮でそれらが収まる鞘も作っておき腰に止めた。



(さて、こんなところでじっとしてないで移動しますか)

 


 手に持つ物がなくなって身軽になった進はその小川を飛んで超えて、スポーン位置とはそれをはさんで対面となる森の中へと足を踏み入れた。

 

 もしも、あのまま光が進を追ってきているのだとしたら、もうかなり近くにまで来ていることだろう。

 

 進は別にそれでもかまわなかった。



(もしもこっち側に、みことと結がいるんなら光と遭遇させる分にはメリットがある)

 


 そう考えながら、奥へ走って行って。

 もう一歩踏み出そうとした瞬間。


 

 進の足に何かがガッと引っかかった。


 

 それで体重が前にかかった進はつまずくような形になって地面を転がった。

 そんなことをしてくる《ウエポン》なんて進は知らない。

 

 それで、必然的に答えが導き出される。唯一敵の中で《ウエポン》を知らない人物。

 それは、



「……っ! 結、か」

 


 運悪くもたった一人だけの時に一対一でNo7と当たってしまったのだった。

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