第43話 とある日の《学生》たち
さてさて、今日は忘れずに土曜に更新できたぞぉ!
「おはよう、急に呼び出してごめんね」
早朝。
朝日が昇りきって少しほどの午前。
《オリジン》の朝は思ったよりも冷え込んでいて進は身震いした。
対面で声をかけてきた光もハァーと手に温かい息を当てている。
ここは、まだ人の少ない東京の街。
日曜日ということもあって、通勤時間帯でもないらしい。
そうなるとまだ不良たちのうろつく時間帯なわけだ。
二人にとってはだからどうしたという感じだが。
「どうしたんだよ、光から呼び出すなんて珍しい」
進は、顔を上げてそういった。
光も手をポケットの中に入れて顔を上げた。
「ううん。そんなに大した用事じゃないよ?」
「じゃぁ、どうして」
用事がないのならわざわざ進をここまで呼び出すことはなかったのではないだろうか。
そう思って、問い返すと何やらそれが気に障ったようだった。
激しく怒る、というよりかはプクーと頬を膨らませて怒るような感じで大変かわいらしかった。
それから、光はそっぽを向いて少し小さめな声で言った。
「……最近、進と会うときって何かしらのハプニングにあってるから。たまには、こうして一緒に遊ぶのもいいかな、なんて思っただけだもん」
はて、とそんなかわいらしいことを言われてしまえば進は付き合うしかなかった。
というか、はたから見たらこれデートでは? と疑問に思ったがそこはあえて触れないようにした。
別に触れてもよかったのだが、何か光の決定的なものを引いてしまいそうで少しビビッてしまったのだ。
腰抜けと思うのならば笑うがいい!
「で、だから俺はこんなにラフな格好をさせられたわけか」
昨日、メッセージで呼び出されたとき『制服でいい?』と聞いて『絶対にダメ!』と返ってきた理由がやっと理解できた。
こんなことをするなら、事前に言っておいてほしかったと思う進だった。
それならばもっと早くに教えていてくれればよかったのに……と思ったが、そんな暇はなかったかと苦笑した。
最近は本当に変なことに巻き込まれることが多いから、こういう学生らしい青春はもってこいだったが。
「うん、今日はいっぱい楽しんでほしいな!」
いけない、一瞬彼女にメモリーの姿を重ねてしまった。
罪悪感に浸されるほどではなかったが、馬鹿なことをしたなと進は反省した。
今ここに彼女はいないのだ。
……いつか、彼女と一緒にこの街を歩ける日はやってくるのだろうか。
来るといいなと思ったが、彼女はずっとミステリアスな存在でもいいなと思ったりもした。
そんな別人(別神?)のことを考え始めると、胸が痛くなるのでとりあえずいったん、その思考はどこかに放り投げておいて。
「さ、じゃぁ最初はどこに行く?」
光に無邪気な笑顔を進は向けた。
「そうだね……。私の買い物に延々と付き合わせるっていうってもあるけど……」
「やめて、それだけは本当にやめて!」
ハハハ、そんなことしないって、と光は屈託なく笑ったが、進からすれば本当にしそうな勢いだったので少し油断できないことであった。
忘れてはいけない。
この光という少女は、気が付かぬ間に爆弾発言をかましてくるのだ。
進が流星学園に入るきっかけとなったのも多少強引に推薦を押し付けられたというのが大きいのだし。
「そうだな……。まずはなんか軽く食べに行くか?」
「この流れで、真面目に話した?! 一回くらいぼけてよ、私がバカみたいじゃん!」
「なんか理不尽な言動を押し付けられた?!」
朝っぱらから元気な二人だ。
人通りの少ない街にはその声がよく響く。
漫画ならうるさい、と叫ばれそうだがさすが騒音には強くしているらしい。
「つか、こんな早くに店って開いてる?」
「……コンビニなら、ね?」
「かわいく言っても無駄だからな!」
「はい、すみません! 私が悪かったです」
「素直に謝っただと?!」
そんなバカ騒ぎで寒さを紛らわせながら、進と光は歩いていく。
どこへ、などは特に決めているわけではないがどこかへただぶらぶらと。
どこか行きたいところがあればそこに入っていくという感じで。
《行間》
そろそろ、昼も近づいてきたというころ。
進と光は早めに昼ご飯を食べようと近くのファミレスへ入っていった。
朝、騒ぎすぎて結局ご飯を食べる気力さえ失ってしまっていたのだ。
なんだ、その笑い話はと思うかもしれないが、本当の事である。
「進……、眠い」
「いや、それを俺に言われても何をしろと?」
向かいの席に座った進と光の最初の会話はそれだった。
というか、今日マジでなにをするかなぁ……と、進は考えた。
午後からならほぼすべての店は開いているだろうし遊び放題といえば遊び放題なのだが。
「光、言っとくけど俺はそんなにお金がねぇぞ」
「大丈夫、大丈夫。遊ぶ時のお金くらい私が出してあげるから。これでも私結構お金持ちなんだぞ」
S級だからということだろう。
順位が全国区で上がってくる人間の収入はかなり高いと聞いた。
それこそ、全国四位という異次元の成績をたたき出している光の収入は高いのだろう。
本人は気にしていない様子だったが、進としてはそこからお金を取ってしまうのは少し気が引けた。
元々、友人間でのお金の貸し借りというものが進はあまり好きではない性格だった。
面倒な問題に巻き込まれたくないという意思があったからだ。
(つか、光はそういうところメチャクチャ緩いよなぁ……)
性格に棘があると周りから言われている__進はあまりそう思わない__光だからこそそういう問題は起きないだろうと思えるのだろうか。
いやそもそもそんな問題になりそうな人間にお金を貸すことはない、か。
「あ、すみません。注文いいですか?」
そんなことを考えながらも、進は店員を呼び止めた。
「はい、ご注文でしょうか」
「あ、そうです。えーと、このサイコロステーキ定食ってやつと……光は?」
「ん、じゃぁ同じので」
「承りました。サイコロステーキ定食ですね。それでは少々お待ちください」
そうして、この店で一番高いものを頼んだのだが光はそれをやめさせるどころか、自分もそれを頼んだ。
本当にお金を持ってるんだなと認識した。
S級様は、どうやら食費はできるだけ安く抑えたい、なんて思わないらしい。さすがだ。
「そういや、《ランク戦》がもう始まってるんだったな。光たちは見に行ったりするのか?」
ふと気になって、進はそう聞いた。
「ううん。ちょっと気になるな、とは思ったりするけど。さすがにこの時期の戦いは感染しにはいかないかな。B級の試合くらいからはちょくちょく見に行くよ」
「そうなのか」
「あ、でも進の試合は見に行こうかな! 私が推薦した人がどれくらいの戦いをするのか気になるし!」
「やめてくれ……そういってプレッシャーをかけるのは」
アハハ、と光は声を出して笑った。
そんなに進が力なく笑うのが面白かったのだろうか。
進からすればそれもやめてほしかったのだが。
「おまたせしました。こちら、ご注文の商品となります」
「あ、あざっす」
そんなこんなで、どんなかはよくわからないが商品が来たらしい。
ジュージューと肉の焼ける音がする。
うまそうなにおいがしている。
それだけで、二人はゴクリと唾を飲み込んだ。
「え、これ食っていいの?」
贅沢だな、と思いながら進は光に尋ねた。
「ん、あんたが頼んだんだから食べればいいじゃない。どうせ、私がお金は払うんだからそんなに気にしなくてもいいでしょう?」
マジで払ってくれるらしい。
S級様は本当に太っ腹だった。
「「それじゃ、いただきます」」
《行間》
「ごちそうさまでした」
食事はお互い黙々としていたので、そこの描写はわざわざしなくてもいいだろう。
それに、食事に時間を取られるというのも進からすればいやだったので早く食べたというのもある。
遊びと食事は全くの別物なのだ。
「つか、マジでこれからどうするんだ? 俺としてはこのまま光とぶらぶら街の中を歩き回るだけっていうのもいいと思うけど……」
「それじゃぁ、面白味がないものね。どうせ遊ぶならもっと体を動かせるところがいいかな、私は」
そう、光から注文が来た。
体を動かせるところか……と進は考えた。
それなら一番いいのは、無難なバッティングセンターかな、と考えたが、思い返してみれば一番近場のバッティングセンターは《黒龍》に食われたショッピングモールの中にあったということを思い出した。
(嘘だろ? こんなところにも《ハンター》の影響が出てくるのかよ)
ここまでくると、苦笑を漏らす以外ほかなかった。
「ボーリング場なら確か別の場所にあった気がするよ。えーと、あ、そうそうここ」
そういって光がスマホの地図を見せてきたので進はそれを身を乗り出してのぞき込む。
確かに、そこには近場のボーリング場にピンが刺されていた。
見た感じからして、ここから約一キロもないだろう。
数分、長くても十数分かければ徒歩でも全然いける距離だった。
「じゃぁ、そこに行くか」
「うん、レッツゴー!」
《行間》
「いやぁ、動いた動いた。楽しかったわ」
数時間たって、汗をかいた二人はそろそろやめようかと言ってその場所から出てきた。
進としてはまだまだ問題なかったのだが、光があんまり汗をかいてるところを見られたくなかったらしい。
もはやそんなことを気にしているような感じでもなかったのだがどうやらそういうことにしてほしそうに進のほうを見ていたのでそういうことにしておこう。
そういうことに、ね。
「ううん。楽しんでくれたなら……よかった」
だから決して、光の顔が赤くなっていることは気のせいなのだ。
夕日にあてられて進がそう見間違えたのだ。
うん、こんな少女が自分のことを異性として意識するはずがないのだから。
(ま、俺はそもそもそういうのよくわからんけど)
だから、進に好意を向けても無駄である。
本人自体がその感情についてあまりよくわかってはいないから。
当分は彼にとってはまだ二次元が恋人のままだろう。
一生それも悪くはないかもな、とそんなことを思い始めている進であった。
「なんか、こっちに来てから友達とこんなに遊んだのは初めてな気がするな!」
「……こっちって?」
「え、何って《オリジ……、あ、えと。東京に来てからだよ、そう東京に来てから。田舎から東京に来てから初めてって意味!」
「う、うん」
危うく《オリジン》に来てからと言いかけた進はあえて後ろの部分を強調することでごまかした。
典型的なごまかし方だったがどうやらうまくいったらしい。
うまくいったというよりかは、深入りはしないようにしてくれたの方が正しいような気もしたが。
「どうする? これからもうちょっと遊ぶか?」
これ以上この話を引っ張ると墓穴を掘りそうで怖かった進は話題を元に戻した。
「うーん。私も遊びたいのはやまやまなんだけど……。さすがにちょっと疲れちゃったかな。今日はもう帰って休みたいかも」
「ハハハ。俺のペースにずっとついてきてたしな。やっぱり、男子と女子じゃそもそもの体力に差があるんだな」
「そうかも……」
「それじゃ、俺はもうちょっと街を散歩してくるから。じゃぁな、また明日」
進は手を振ってそう言うと、光に背を向けて人ごみの中に紛れていった。
そんな彼の言葉に手を振り返した光は。
その後、口元に手をもっていって、進にはもう聞こえないけれどはにかんだ声でこういった。
「エへへ。また、明日。バイバーイ」
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