第42話 一瞬の《勝利》
ということでカクヨムと進度を合わせるために2話投稿しました。
その瞬間だった。
進が、呆然としている間にあたりの空気は一瞬にして一変した。
何もかもが、自然体とはかけ離れていた。
張り詰められていた弦は燃やされた。
地べたについていた足は、まるで中にいるかのようだった。
日本で、夜に太陽が輝いているくらい異質だった。
宇宙空間にいるかのような、未知の感覚だった。
進からすれば、友野も人間を辞めているとしか思えなかった。
「だいたい、そういう認識で間違ってはいないよ」
友野はそんな進の心の内を読み取ったかのように、そういった。
「あんたは……。流起友野なのか?」
進は、考えるよりも先に問うた。
目の前の人間が本当に自分が今まで接していた人間なのか、たった今わからなくなってしまったような感覚を覚えてしまったから。
相手の体に、明確な変化というものはないのに。
その感覚に体が震え上がっているという事実の真実を確かめるために。
そんな進に何を思ったのかは知らないが、ん、と友野は小さく呟いて笑った。
「あぁ、間違いなく流起友野だよ。《ファイヤー・ドレイク》をお前が倒した時みたいに《神》を体に降臨させたとか、そういうことじゃないから安心してくれ。俺はただ神の力のほんの一部を借り受けているだけだよ」
「ッ、それはどういう……」
どうしてそのことを知っているのか、進はそう聞いた。
そもそも、借り受けるというのはどういうことなのか。
ただ一個人の人間ではないのか?
「それは秘密、かな」
そんな会話の途中に不意に《黒龍》が友野の後ろでその尾を振り上げたのを見た進は叫んだ。
「後ろ!」
「分かっている」
しかしそう言って、友野は振り返りもしなかった。
端的な返事を進い返した後振り返らずにそれを受け止めた。
それだけでぼろり、と竜の尾は崩れ落ちていく。
いともたやすく。
「は?」
思わず、声が漏れてしまった。
「だから、大丈夫だって言っただろ? 今の俺はこんなことじゃ負けたりはしないよ」
そういって、友野は不敵に笑った。
進はその底知れぬ力に圧倒されて、声を出すことができなかった。
それを見て、友野はさらに小さく笑った。
そして、改めて敵のほうへ振り返る。
正直だるそうにパチンと、指パッチンが鳴った。
それだけだった。
それだけで、時が止まりかけたかのようにすべての動きがスローモーションになった。
「……うそ、だろ?」
思わずといったように漏れた声に、進の体の中に存在する《混沌》が反応した。
「一時的「な」「概念の変質」「か」「これ「が奴の最強」「だ「奴が話したくないらし」「いからこそ詳細ははな「して」やれな「い「けどな」
そんなことわかっているよ、と進は突っ込んだ。
それに、進にはあれがNo1としての本当の力、とはおもえなかったのだ。
なぜなら、ちぐはぐすぎるから。
簡単に説明すると、能力とそれに使われる力のつり合いが全く取れていないのだ。
これだけの能力を使うのならば、これくらいリソースを吐けばいい、という基準を大きく遺脱していた。
時に干渉する、というのがどれだけのリソースを必要とするのか正直、進には到底創造のつかないことであったが、
(だったとしても、いやだからこそ……。力があふれかえってきているのが感じ取れる)
おそらく友野が無理をしている、なんてことはないのだろう。
本人からはそんな感じがにじみ出ていなかったから。
それでも、何か反動があるのだろうか。
あるいは最初からこの手を切れなかった、決定的な理由が。
「終わったぞ」
そういわれて、進は自分が少し見ていない間に地面にたたきつけられた《黒龍》を認識した。
羽も、腕も、足も、尾も。おそらく逃げようとしたのだろう、という角度の深い傷跡を見て若干引いた。
ここまでくると、やられたほうがかわいそうなレベルだった。
絶対にアニメだとモザイクがかかっているはずだ。
「なにをしたんですか……?」
進はその瞬間を目に移すことができなかった。
あまりにも早すぎて、残像を残すというよりも、消えたというほうが正しいくらいに。
「なにをって、そんな特別なことはしてねぇよ。ただ、こいつをなぐっただけだ」
進は、思った。
いや、殴ったような傷じゃないんですけど……、と。
「あれ、俺なんかやっちゃった?」
「そんな異世界無自覚チート系みたいなセリフを言っても無駄ですよ!」
その後、友野から詳しく話を聞いたが本当にそれ以上でもそれ以下でもなかった。
流れとしてはこうだった。
力を開放、殴る、殴る、勝つ。
たったそれだけ、それだけであのすべてを喰らう竜を殺してしまったのだ。
一方的な試合とはこのようなことを言うのだろう。
「その力は……、なんなんですか?」
「……お前に宿る《混沌》と似て非なる存在。神にして神ならざる者。そして、《忘却世界の鎮魂歌》に語られる者の一角だよ」
その表現に、進は察した。
この人が言っているのは何のことなのか、と。
同時に、さらなる疑問も抱いた。
彼のことをどうして知っているのか、ということだ。とっくのとうにこの世界からはほとんど失われた神話なはずだ。
それに……。
「本当に、何者なんですか。友野さんは」
苦笑しながら進は言った。
そんな進に友野は人差し指を口元に持って行ってニッと口の端を上げて、ほかの人には内緒だからな、というと進の耳元囁くようにでこういった。
究極、真面目な声で。
「俺は、《竜神》だよ」
冗談でしょ、と本当なら返すところだったのだろうがそれを一様に進は否定することができなかった。
今の一瞬の勝利見て進はそうかもしれないな、と思ってしまったくらいだった。
それを言ってしまって何やら用事を思い出したらしく、友野はどこかへ行ってしまった。
(《竜神》……ねぇ)
最初から最後まで実力の底が知れない人だったな、と進は軽い戦慄を覚ていることを自覚した。
なにがあっても、あの人だけは敵に回してはダメだ、と。
《行間》
《錬金術師》、改め言野原進と別れた友野は当初の目的……、発飛という少女を《ハンター》から守るという約束を達成するための最後の仕上げをしにある場所へ向かった。
それは彼女にここへ行けと指示した場所であり、ほかでもない流起友野の家であった。
なんだ、家なのかと思うかもしれないがNo1の家らしく警備は割と高めなので、他の場所よりも安心して少女を入れることができた。
少女にも入れたくらいの警備ならと思うかもしれないが、それは遠距離から友野が自身の《能力の核》を彼女にまとわせ、通ることができるようにセンサーをごまかしたからだ。
よくわからないというならば、分からないままでも構わない。
わかったところでそんなに意味はないから。
「さて、ちゃんとここに来ることはできたのかなっと」
部屋の中を見渡して、そこにいた彼女を見て友野はホッと息をついた。
知らぬ間にいろいろと心配していたんだなと初めて気が付いた瞬間であった。
まったく、結局俺は人を見捨てることができない、と友野は自嘲気味につぶやいて。
でもそれは自己否定とは異なっていた。
ある一種のエゴイズムになっているのかもしれない。
「ったく、こんなところで力尽きてんじゃねぇよ」
あきれたようにため息をついた友野は床に倒れるようにして寝ていた彼女を、ソファのほうに移動させて水を取りに行こうとして。
そうしてふとした瞬間に。
家に帰りついたことと、無事に少女を助けられたことに安堵して気が緩んでしまったのだろうか。
「ガハッ!」
急に力が入らなくなって、倒れこんだ。
《上に立つ者》の力を借り受けた時点でいつか来る、と友野はわかっていたことだった。
しかし、よりにもよってこんなところで来るのかと息を整えながら思った。
胃の中身が逆流してきそうな感覚だった。
「クッソ。体力の、限界か」
《黒龍》を倒すときに《神降ろし》を疑似的に行った友野だったが、その負荷が想像していたものよりも大きかったらしい。
いつもならばこうまではならないのだが、やはり相手がいつもよりも強かったからだろうか。
それとも___、
(大丈夫か?)
胸の内から優しい声が響いてきた。友野はその声に対してゆっくりと答えを返す。
「大丈夫、と言いたいけど。正直なところちょっとやばいかも。今日はなんか反動大きくない?」
(あぁ、やっぱり《混沌》のやつが近くにいたからかもだな。同じ、《原初の四神》の力同士が引かれあったんだろうな)
《上に立つ者》にしろ何にしろ、強すぎる能力を借り受けた時はそれなりの反動というものが身体に反射されるものだ。
例えば、今の彼のように急激な倦怠感と疲労に襲われたり、進が《混沌》に体を貸した時のように体が先に悲鳴を上げてしまったり。
その反動は人と借り受ける力の大きさによって異なってくるが、最悪命にかかわることもあった。
俗にいう悪魔に魂を売るというのと本質的には変わらないのだから。
「あの、《錬金術師》は言野原進といったな……。その真名は《神》なのか《罪》なのか」
(あるいは、どちらもなのか、か)
少なくとも、彼自身はおそらくまだ《無限の錬金術師》としての権能に気が付いてはいなかった。
正確には気付くことができていなかった、というのが正しいだろうか。
普段は、《混沌》としての力は隠れているらしい。
神らしい、異質な雰囲気が彼の周りにはなかったから。
「う、うぅ……。ここは__」
そんなこんなで座り込んだまま数分時間を過ごしていると、どうやら発飛が目覚めたらしい。
友野は体調を崩していたのを悟られることがないようにゆっくりと立ち上がった。
正義のヒーロー面をするのならばけして弱いところを見せてはいけないのだ。
「よっ、目が覚めたか?」
おどけたように、わざと明るく言った。
少女は、ぱちりと目を大きく開いた。
「《ハンター》は?」
友野は第一に聞くのがそれっていうのは大分重症だなとおもいながらも、終わったよ、といった。
「お前を追ってきていた《ハンター》はもういないよ。俺が、正確には俺ともう一人が倒した」
「殺したの?」
少女の声で聴くのは正直、つらいところだった。
小さい子供は深く考えずに言葉を発することが多い。
この場合も殺すをオブラードに包まず言ったのは無邪気なものだったのだろう。
この子供は《死》というものをはっきりと分かってるのだろうか。
否、分かっていても分かっていなくても、友野にできるのはありのままを、冷徹に伝えることだけだった。
おそらく、人生を何度やり直そうがあの戦いで違う結末になることはなかっただろう。
「……あぁ、あいつらは死んだよ」
救いようはなかった。
救いようがなかったからそいつは死んだ。
殺すのにためらいはない。
自害しようが関係ない。
自分に敵対したのならば、自分が守るべきものと敵対したのならばそいつは殺すだけだった。
それでもただ、ちょっぴり友野はこの世界を醜く思った。
その思いが、世界に届くことはないとわかっていたとしても。
「俺が、あいつらを殺したんだ」
《行間》
得体のしれない機械のようなものを目の前にして、ヴォルダは狂気に満ちた声で高笑いした。
「ハッハッハッ、アーハッハッハ! これで、これでやっと成功だ。やっと、全員殺せる!」
ゴポリ、と呼応するようにその機会の中をたっぷりに満たした液体の中を気泡が浮いていった。
それは末恐ろしくほのかな青色に光っていたのだった。
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