第39話 三者三様の《繋がり》
「もう一つの、発飛? 二重人格ってことか?」
『否、私は発飛であり発飛ではありません。……詳細は《No4》がこちらに帰ってきてからとなるでしょう。今私がやって欲しいことは私を追ってきている《ハンター》から私を助けることです』
友野が声をかけてもやはりその声は無機質なままだった。
一瞬の変化に友野はまったくついていけなかった。
何が起こっているのか、理解ができない。
「もとより助けるつもりはあったが……。あんたは《ハンター》の仲間じゃないんだな」
『是、私はただ一人の《理解者》を探しています。確かに《ハンター》と呼ばれる組織によってこの幼女に憑依させられましたが、見つけ次第出ていくつもりです。また、今回のように表に出るのにも複数の条件が必要のため普段はこの幼女の人格が表に出ています。そこはご了承ください。なお、GPSなどはこの体には付いていませんのでご安心ください』
機械音よりかは透き通った、そんな声を聞きながら友野は頷いた。
彼にはこの少女を見捨てる理由がなかった。
それに、この少女が仮に《ハンター》の仲間だったとしてもこの程度なら勝利できると確信していた。
ただ、この無機質な声の状態に勝てるかは曖昧だったが。
一通りいうことが済んだのか、その無機質な声は薄れていって、今度はまた感情を持った声に戻っていった。
友野は、発飛にスマホを見せると
「とりあえず、この場所の家に避難しておけ」
と言った。
少女は、了解です! と元気よく敬礼すると、スマホを持たずに駆け出していった。
「おーい! これ見なくてわかるのかぁ」
友野は心配してそう叫んだが、少女は、
「私は、記憶力がいいの!」
と、叫び返してきてそのまま止まりもせずに走り去ってしまった。
途中で《ハンター》に会う確率はゼロではなかったが、少ないだろうと判断してのNo1の指示であった。
実を言うと、スマホが手元に残ってくれたのは意外とラッキーなところではあった。
(流石にこんな街中で能力をばら撒いて……ってのはな)
友野の《特殊弾丸》なら、敵の位置を把握することなど造作でもないのだが、それで敵に勘づかれて……というのもあり得なくはない話であった。
だから、友野はもっと確実な方法を取ることにした。
もっと索敵能力に特化していて、周囲への被害もゼロに等しいでけでできる《能力》を支える人間。
一部を徹底して調べるのだとしたら本格的な《索敵系》のウエポンを持っている人間に頼むのだが、
(こういう広範囲の調べ物を任せるときはやっぱりあいつだよな)
そのスマホに登録されている電話番号を友野はタップした。
基本的にものを頼むことはないような彼だったが今回だけは特別に。
「もしもし、《風神》。ちょっとだけ、力を貸してくれないか?」
《行間》
ピルルルル……、と携帯の音が鳴った。
それの着信先を確かめるために光は椅子から腰を上げた。
机には参考書が置かれていて、どうにも勉強中だったらしい。
集中を乱された光ははぁとため息をついた。
そして、その画面を確認して珍しいな、と呟いた。
本当に珍しいことに着信元は《流起友野》だった。
物珍しくて、数秒眺めてから危ない危ないと、通話を始めることを思い出した。
「もしもし光です。どうかしましたか、友野さん」
どうにも、遠くからなのか人のざわめく音が聞こえてきてはいるが、どこにいるのだろうかと光は考えた。
『もしもし《風神》、ちょっとだけ力を貸してくれないか?』
「はぁ?」
いきなりの申し出に、思わず声が裏返った。
『うるさ! ってか、そんなに驚かなくてもいいと思うけど』
「え、友野さんが私に力を貸して、なんて言ったことがなかったのでちょっと驚いただけですよ」
『お、おう。なんかすまん』
「で、なんなんですか?」
驚きはしたものの、このまま無駄なことで長く通話し続ける気もなかったので光は早速本題を単刀直入に聞いた。
これには電話越しから苦笑いのようなそれが返ってきた。
『なぁこれスピーカーじゃないよな』
友野がそう確認してきた。
「え、あはい。基本的に私はスピーカーモードは使いませんよ」
『そりゃよかった。ちょっと周りに聞かれたら困るものだったんでな』
今度こそ、光は不可思議なものを見たような気分になった。
本当にNo1だろうか、と疑いたくなってくるまでもある。
いや、周りに聞かれたら困るような話をするなんて友人同士でならありふれたことなのだろうけども。
この、先輩と後輩、あるいはNo1とNo3というだけの関係の彼女らの中でそんな話が出てくるとは思ってもいなかったのだ。
『《ハンター》絡みの話なんだ』
だとしても、その理由が次の言葉で説明されて納得した。
それならば仕方がないと思うようなものだった。
裏社会の話はそれだけ繊細なことであった。
「了解しました。……周りには誰もいないのでオッケーです」
『本当にすまんな。で、と。なぁ《風神》。お前ならこの場所の周囲くらいならウエポンの制御範囲内だよな』
そう言われて、これくらいとはと光は首を傾げた。
すぐにピコンという音がしてどうやら範囲が指定されたマップが送られてきたらしい。
それを見てから、光は答える。
「はい、これくらいの範囲内なら可能ですけど……。まさか」
『その、まさかの中にどれだけの可能性があるのかはわからないけどさ。……俺からの頼みはただ一つだ。この範囲内にいる《ハンター》ども全てを探知してくれ』
どうして、と問う必要性はなかった。
あるいは、問い返すくらいなら従う方が得策だと判断した。
「ちょっと待っててくださいね」
そう光はいうと、相手の返事を待たずに電話から耳を離した。
微かに、あたりの空気が揺れた。
「《風神》開放」
No3としての権能。
常に自己を取り巻く空気という存在に干渉する能力。
「……いたっ! えーと、ここは」
急いでスマホを耳に当て直し、本人が聞いていることを確認して光は言った。
「おそらく今一階から……。正面の入り口じゃなくて裏の入り口から外に出ました。友野さんのいる方向とは反対に近いです!」
『ッ、了解!』
プツンと通話が途切れた。
本人が移動するのに邪魔だと思ったからなのだろう。
光は、まったくなんて自分勝手な、と思った。
しかし、No1がこんなことするのは日頃ないなと思い返した。
本当に、何か急いでいることでもあったのだろうか。それに……。
「友野さんの近くに、進もいた? いや、進は別行動だろうけど……」
どちらにせよ、彼も危険範囲内に入っていることには変わりはなかった。
光からすれば友野がいるというだけでおそらく被害は最小限になると思っているが、無意識にただ気をつけてというメッセージを送信していた。
どうしてかはわからない。
ただ、今そうすることが最善の手だと思ってしまったのだ。
《行間》
スマホからピコンという着信音が聞こえてきてきたので進がそれを見てみると光からのメッセージであった。
彼女からメッセージが突然届くことは少なくはなく、いつもは大体数分後にみるのだが今はなんとなくすぐに既読をつけた。
それが、短文だったことに少し違和感を持ったが、それよりも。
(気をつけろってなんだよ……。いったい何に気をつけろと?)
文章の意味がよくわからなかった。
ここまで何を言っているかわからないメッセージを受け取るのは初めてじゃないだろうか。
進は、ぐるりと一周回りを見渡した。
特に違和感というものはなかった。
周りの人間も何かを警戒しているようには見えないし、別に地震が起こったわけでもなかった。
では、何に気をつけろというのだろうか。
進は光に問い返すようなメッセージを返信した。
すぐに既読がついて、えーとと悩んでいるかのようなスタンプが送られてきた。
最近、光の送ってくるスタンプのバリエーションが少し増えた気がする。
と、どうでもいいことを考えていたら、追伸が送られてくる。
『進の近くに(ハンター》がいる』と。
は、と声が無意識に漏れた。
意味がわからない。
《ハンター》が動き出すのはもっとあとだと思っていたし、そもそもどうしてここにいる?
いや、いかに《ハンター》といえども人間であることに変わりはない。
だったら飲食もするだろうし、娯楽を求めるものかもしれない。
だから、彼らがプライベートでこの場所にやってくるだけならば言及はしないし、攻撃も敵対もしない。
それは、光もわかっているはずだ。
だったら、どうしてこんなメッセージを送ってきたのか。
答えは一つしかない。
(まさか、《ハンター》のクソ野郎どもが何かしようとしてるっていうのか?!)
あるいは、もう何かをやってしまった後である、か。
どちらであるかは進の周りの様子を見てみればわかった。
前者だ。
この場所に《ハンター》がいる、ということは取り逃した進を追ってきたのだろうか。
(……いいや、違うな)
《ハンター》にとって進はいい人質になるかもしれないが、同時に泳がせておいてもいい駒だった。
《ハンター》は探しているのだ。
進なんかよりももっと影響力が高く、計画を遂行すらためのパーツが。
元々、進から《メモリー》を抜き出した時点で、進は用済みのような扱いではあったわけであるし。
というよりは、はなから《ハンター》という組織は進を追ってはおらず、あくまでも《知る者》を探していたわけではないだろうが。
それは進からしたらため息ものだったが。
「とりあえず、このまま何もない限りはこっちからも手出しする気はまったくないが……。やっぱり、何もないといいかぁとか言ったのはフラグだったかぁ」
そして、見事にフラグ回収が起きそうな気配だった。
早く帰ってしまいたい気分になったが、しかし用事を先に終わらせなければ、つまり食料を買ってしまわなければ食べるものがないわけで。
いや、今日くらいは外食でもいいかもしれないが。
「あれ? 進、お前がここにいるってなんか似合わねぇな」
大柄な男の声が響いた。
周りの人間が、数歩引いてしまうような男だった。
それもそうか、と進は思う。そんな男……、悠太に向かって進は返事をする。
「お前こそ似合わねぇな。っと、お前も買い出しか」
「まぁな。似合わないのは自分でもわかっているが……、何があったんだ?」
そう言われて、進は小首を傾げた。
いったいこいつは何に対して言っているのか、と。
しかし悠太が言っているのは《ハンター》のことではないような気がした。
そんな進を見て言葉足らずだったというのが自分でもわかったのか悠太は、言葉を補完した。
「いや、今のことじゃなくてな。少し前、俺はすんなり避難に従っていたからよくはわからないが……。翌日、帰ってきてみたら《火災》の発生した場所にはそんな跡が一つもないときた」
「ッ、どうしてそれを俺に?」
確信をつかれた物言いに進は一瞬、体を硬直させた。
「進だったら何か知っている可能性も否定できないな、と思っただけだ。知らないのならいい」
「……あぁ。特に何も、な」
本当は、何がどうなったのか進以上に知っている人間は少ないだろうが、進はあえてそこで言葉を濁した。
あれは、誇るようなことではないし、そもそも一歩間違えていれば体をあの《混沌》に乗っ取られることだってあったはずだ。
あれが善良な心、というか乗っ取るという行動をしなかったからそうはならなかったのだが。
「そうか、何かわかったら言ってくれよ。どうしてそうなったかには興味があるんだ」
それでも進から目を逸らさずに、悠太はそう言ってきた。
なんでもない日常風景がただ流れていくだけの周りを見ながら、進は答える。
「……あぁ、何かわかったら、な」
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