第21話 《ハンター》と《風神》
一方そのころ、光は結とともに《ハンター》らしき人間を探して、街を彷徨っていた。
午前中に、進の方をチラリと確認して、No5が一緒ならば、おそらく大丈夫だろう、と判断したからの行動である。
結を連れているのは、彼女との連携が光にとって、一番慣れているから。
できれば、こういう時は流起友野か天智未来を連れてきたいところだったが、あいにくこういう日に限って、彼らは外出中だった。
いつもはこういう時、自分よりも早く駆けつけてくれるのに、と光は思った。
しかし、文句を言っても何も始まらないことは、彼女もわかっている。
そんなことを考えて、グダグダするくらいなら、何か別の行動を移した方がいいということも、光は今までの経験上から、知っている。
ということで光は今、ビルとビルの間をスイスイと通り抜け、走り続けていた。
流星学園から約一キロ、そろそろ二キロに近づいてきたかな、というところはもう大都市の一部で、地上は走れたものですらないが。
つまり、どういうことか。
彼女は今、空を飛んでいるのだ。
《風神》の風を操る能力があれば、簡単なことだ。
結とは、スマホの通話で繋がっていて、そばには今、誰もいない。
光は、飄々とした顔で上空から____とはいえ地上から四メートル程の地点で____下の風景を見下ろしていた。
制服のスカートはもちろん役に立ってなどいないが、中に体操服という、どっかの電撃姫のアレンジ版スタイルなので気にはしない。
気にする暇もない、と言った方が適切だろうか。
周りに、人間が溢れかえるように住んでいるこの街で、怪しい人間を探し出す、というのはほぼ不可能に近いからだ。
「っと、結。そっちはなんか情報あった?」
ついてきてくれている、協力者に聞いてみる。
結は、簡潔にいいやと、答えるだけだ。
それでも、返答できるあたり、本当に彼女も見つけられていないらしい。
厄介な……、と光はぼやいた。
彼女の能力では、周りと波長の変わらない波長を出している人間の行動は、見つけることができないから。
人に飲まれたここでは、もっと難しくなる。
「どこか、奴らが好みそうな場所は……」
とはいえど、光も《ハンター》について、そこまで詳しいわけではない。
自分よりも、No5、如月みことの方が断然詳しい。
今、関わりが切れているだけで、昔はあれこれとあったらしいから。
基本的には、光は表社会の人間なのだ。
だから、どうして最近、自分が狙われることが多くなったのかも実はよくわかっていない。
そして、それよりもどうして、《錬金術師》が狙いになったか、の方がわからない。
(進には、宣戦布告かもって伝えたけど……)
かも、などではなく、絶対だと光は思った。
でなければ、わざわざあんなことをする意味がわからない。
フェイク、という可能性についても考えたが、そんなことを奴らがするとは思えない。
殺したい相手以外には、あんなことはしない。
……いや、と光は頭の中の自分の考えに、ふと疑問を持った。
(本当に、彼らは殺すことが目的なの?)
そうでないのだとすれば______________、キラリ、と人工物の反射の光線が目に入った。
光は、ウッと目を塞ぐ。
「……いや、これは」
『どうしたの?』
日光が反射したのは、一瞬のこと。
明らかに不自然な反射に光が、自身の《能力》を使って……。
フッと、ウエポンを使っていなければわからないくらい、ごく微細に、空気が怪しい揺れをした。
「っ!」
その瞬間、光は体を左に投げ出した。
チュインと、風の層をわずかに貫通しかけて、それは飛んできた。
勢いを失った、それはあらぬ方向へ飛んでいったが。
地上ならば、もしくはもっと早く回避できていたのかもしれないが、空中では流石に初速が足りなかった。
(流石に、友野さんの《全攻撃》よりは、遅いか)
およそ、五百メートルほど離れてた場所からの攻撃だったので、モーションが上手くわからなかったが。
(それにしても、街中で《長距離砲》って。発砲音もあんまり聞こえなかったし、いよいよふざけてんの?!)
《行間》
ヒュウゥゥ、と発砲後に冷却されていく《スナイパー》の銃身を見ながら、α2と名乗った男は、チッと舌打ちをこぼした。
無線の向こう側から、どうした、という声が返ってくる。
α2はそちらに向かって、忌々しげに吐き捨てる。
「No3のやつに気が付かれた。おそらく、交戦に入る」
『了解。そっちはこの間、あいつが殺し損ねたほうだ。できれば殺しておかないとな』
「そうだな、了解した。情報漏洩を防ぐために、この無線は破壊してしまうぞ?」
『こちらも、了解』
ばきり、と無線の踏み破られる音が響く。
α2はそのまま、《長距離砲》を投げ捨てると、近くに置いてあったバッグに手を伸ばす。
ガチャリ、という音と共に出てきたのは、アサルトライフルとハンドガンのようなもの。
弾丸は、リュック型のものの中に入っている。
まずは、一つ弾倉に装填する。
「戦闘、開始」
《行間》
敵の呟きを、けれども確かにはっきりと、光は聞き取った。
まずは、反動の少ないハンドガンが一発。
頭を、横にずらすような形で回避する。
フッ、とちぎれた髪の毛が宙を舞うが、気にはならない。
仕返しとばかりに、風をお見舞いしてやる。
大抵の相手は、これ一つで相手できるのだが。
(っ、いなした、か)
物陰に隠れるという方法で、相手はやり過ごしたようだ。
(私が、周りに被害を出したくないってことを、理解しているわけか……。面倒臭いわね)
次に、相手はドドドドドドドドド、とアサルトライフルをかましてきた。
一斉に、吹き飛ばしてやろう、ともう一度、風の壁を展開するが……、
「?!」
それは、その風の壁をもろともせずに、襲いかかってきた。
なんで、と考える暇もない。
この、近い距離で、アサルトライフルの弾を避け続ける、というのはいささか無理がある。
流石の、No3でも。
(っと、やっと《リロード》か。助かったわね)
光も、近くの物陰に移動して、身を隠す。
どうやら、まだ相手は出てくる気はないようだ。
(いや、っ……!?)
ピン、と弾き出されたそれに、光は歯軋りする。
「手榴弾まであんの?!」
弾き返してやろう、と思った光だったが、周りへの被害を考えてすんでのところで押さえ込んだ。
周りが崩れてしまったら、相手の逃げ道が増えてしまうだけだ。
空気で、無理やり抑え混んで、爆発の威力を相殺する。
それでも、咄嗟の切り替えだったので、相殺できなかった分が、そよ風のように吹いてくる。
それを、光は気にすることなく、右側にステップを踏む。
床に、弾丸が突き刺さっていく。
屋上の地形上、隠れる場所は少ないのだ。
しかし、それを見て、光はどうして風の壁が効かなかったのか、理解する。
(そっか。こっち回転だったんだ)
回転をつけて、速度と機動性を上げていたらしい。
それを読み取った光は、逆回転の風で相殺し……、
「嘘?!」
できなかった。
(逆、回転?)
まさかの、左右両回転対応だというのだろうか。
(いったい、なんのために?)
こういうことを想定して、なんてことはないと思う。
それに、この弾丸はただ、回転しているだけではなかった。
(っ、アサルトライフル用の《環境対応型弾道弾》?!)
《セカンド》には存在しない、弾丸の種類の一つだ。
弾丸にあらかじめ《万能元素》を詰め込んでおき、発車直後、あるいはあらゆる抵抗に合わせて、形状と回転数、さらには重さですら変えてしまう、というもの。
普通、《大型銃用》の弾丸として使われている。
そもそも、アサルトライフルに常備できるほど、小型化は進んでいない。
それがたとえ、《ハンター》だとしても。
「それが、あんたの《能力》か」
光が、そういうと敵はニヤリと笑った。
どうやら光の推測で正しい、ということらしい。
光は、戦慄する。
「あんたの、それは……」
物質の、あるいは元素そのものの、強制的な圧縮。
また、あるいは元素そのものを強制的に小さくしてしまう能力。
それでも、おそらくなんらかの制限が存在するのだろう。
(例えば、人間とかの生物は対象外、とかね!)
だとしても厄介な能力だ、と光は思う。
「ま、小型化したってことは、多少なりとも弱体化はしてるでしょ」
少なくとも、弾の威力に関して言えば、そうなはずだ。
そもそもの重量が落ちているはずなのだから。
それに、そんな小細工にやられるくらいなら、日本の第四位なんて、やってられない。
とりあえずは、と光はため息をつく。
「執行、開始かな?」
《行間》
ゾッと、α2は息を飲んだ。
(なんだ?)
と、思うと同時に空間を支配されたのだ、と錯覚する。
そうなるくらいに突然、目の前にいる少女の纏う雰囲気が、強者のそれへと変化した。
今までは、学生という子供を捨てきれない幼さが、少しとはいえど残っていた。
今それが、消えた。
では、大人びたのか。
それも少し違う。
いうのならば、人殺しの裏社会の人間の雰囲気に近くなった。
本当に、なんなんだ、と動揺が一瞬こぼれそうになって慌てて取り繕う。
気圧されているのだ。
(この、俺が? 小娘に?)
男は撃った。
超高速の、文字通り風を切る弾丸を。
フッと目の前の少女は、それを見て口角をあげ……。
少女の手が、横に振られた。
そう、たったそれだけだった。
それだけで、α2の想像を絶する風が、いや小さな嵐が吹き荒れた。
「?! 嘘だろ《風神》」
彼女のことだからやらないだろう、と一番に除外していたことだった。
「貴様、周りへの被害を考えるのをやめたのか!」
α2は、その風によって屋上から吹き飛ばされながら叫んだ。
流星学園のNo3《風神》は残酷に笑った。
「あら、私は人的被害がゼロなら、これくらいはやるわよ?」
「っ」
α2は、一度この戦線から抜け出そうと仕込んでおいたグラップル……ワイヤーを張ろうとしたが、それは遮られてしまった。
何にか。
《鎖》にだ。
「くさ、り?」
ふと、上を振り向くと少女が笑っていた。
「流星学園のNo7。連れてくるに決まってるじゃない。お馬鹿さん」
最後まで、その言葉を聞くことはなくα2は地面に叩きつけられ、ずに消えた。
《行間》
(……《空間干渉系》の能力者が協力関係にいたのか)
光は、消えた敵をそう結論付けるとスマホに声を通す。
「討伐完了。協力、ありがとうね」
『ううん。ほとんど私は活躍できてなかったし。ノーカン、ノーカン』
通話相手も返してくる。
流星学園暫定順位の第七位。
能力名|《鎖》の白羽結が。
『ねぇ光。お馬鹿さんってもう一回いって! なんかめっちゃゾクってきた』
「いや、そっちに目覚めないでね? お願いだからそっちの性癖には」
『いやぁ、メスガキちゃんに罵倒されるのって気持ちよくない?』
「まさかの手遅れだった?! ってか、もう私はメスガキって歳でもないと思うんだけど?!」
『光、どんな声優さんも、大体私たちより年上だよ?』
「急にメタい発言が出てきたな、おい!」
光が、そう叫ぶと結がクスリと笑った。
『それにしても光。意外と苦戦した?』
おそらく、通話が繋がったままだったからそれで、伝わってしまったのだろう。
光は、苦笑する。
「最初の方はね。ちょっと苦戦したけど、言っても戦闘時間は三分くらいでしょ?」
『まぁ、光がいつもよりもちょっと本気だったのはこっちから見ててもわかったし。だとしても、三分ねぇ』
「どうかしたの?」
光は問う。
『いや、その《ハンター》って奴らは、下っ端構成員だけでも、光を三分足止めできるんだね』
「そうらしいわね。だからどうしたって話だけど。いざとなったらアレも使うし」
『アレ、ねぇ。トラウマってて使えないんでしょ?』
「まぁ、そうね」
『じゃぁ、トラウマ克服するまで練習しよっか』
「何よそれ」
光と結は、二人でアハハと笑い合う。
まるで、そうあるべきだとでもいうかのように。
未来はまだ変わってすらいない、などということを微塵も知りはせずに。
殺し合いの後に、殺し合いは起こらないだろうと、心の中でどこか決めつけてしまっていて。
結局、彼女達も平和というぬるま湯に浸かり過ぎているのだ。
そこには、入っていない気分で入っているのだ。
そういう、常識というものを信じ切ってしまっているのだ。
悪くいえば、彼女らもまた現代社会に洗脳されているのだ。
そのことに、誰一人として気がついていなかった。
《星見琴光=エンゲージ終了》
《白羽結=エンゲージ終了》
《標的/言野原進=補足》
《如月みこと=エンゲージ》
《目標達成まで残り一項目》
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