4 さて、ということで、あっという間にダンスパーティ当日となりました!
最終回です
さて、ということで、あっという間にダンスパーティ当日となりました!
学園のダンスホールにはきらびやかなドレスに身を包んだご令嬢に、そのご令嬢をエスコートする紳士の皆様が、パーティの始まりを待っております。
もちろんマリーゴールド様とその取り巻きの令嬢の方々も、わたしの到着を今か今かと待ってくれていることでしょう!
わたしはパーティが始まる時間の、ぎりぎり少し前に、ルカニア様にエスコートされて、ダンスホールに足を踏み入れました。
途端に感じる視線。
まあ、今皆様が見ていらっしゃるのはわたしじゃなくて、ルカニア様だけどね。
で、ホールの中央あたりまで、ルカニア様と進みます。堂々とね!
誰も彼もが、ルカニア様(と、わたし)に道を譲る……と言いますか、ルカニア様が進めば、皆様、一歩二歩と後ずさります。
……だってねえ、ルカニア様、超満面の笑顔なのだもの。
神々しい美形の笑顔、直視できます?わたしはできるけどね。
超絶美形のオーラに押されるように、皆様壁際に後退していきますよ。
そうして、ダンスホールのど真ん中に進んだルカニア様(と、わたし)。
ルカニア様がぐるりと周囲を睥睨します。
遠巻きにしている皆様とは異なり、マリーゴールド様とお取り巻きのご令嬢だけが、ダンスホールの真ん中まで、意気揚々とやってきます。
「あら?あれほど意気込んでいらっしゃったのに、そのお顔をヴェールで隠しているのね。多少化粧を施したところで『点目令嬢』は所詮点目。ルカニア様に相応しいどころか、このわたくしにも劣るお顔でしかないのでしょうね!」
マリーゴールド様は勝ち誇ったように、頬に手を当ててお笑いになりました。
……ありがとうございます、マリーゴールド様。期待通りの反応です。
わたし、このために、わざわざヴェールなんかで顔を隠して、この場にやって来たのですよふっふっふ。
「一昨日の、貴女のご発言、覚えていてよ!ルカニア様に相応しい?わたくしより美しい?その証明をなさってくださるのでしたわよね?なのに、そんなヴェールで顔を隠して……、どのように証明なさるおつもり?それとも、化粧をしてもブスはブス。恥ずかしくて顔など見せられないのかしら?ならば、この場でルカニア様との婚約を破棄なさい!そして謝罪するがいいわ。自分はルカニア様には相応しくないとね!」
ほーっほっほっほ!というマリーゴールド様の高笑いがダンスホールに響きます。
わたしのクラスではない、一昨日のことなど何一つ知らない生徒たちが「何が起こったんだ?」というふうに、わたしやマリーゴールド様に注目します。
よし、イッツ・ショータイム!
「ルカニア様。わたしのこのヴェールを捲っていただきますか?」
「ああ、もちろん。まるで結婚式のベールアップの儀式のようだね!花嫁さん、君を一生守っていくよ」
ルカニア様、うっきうっきですねえ……。嬉しそうなルカニア様にわたしまで気分が高揚してきます。
「うふふ。嬉しいです。でも流石にこの場所で、誓いのキスはできませんね」
「それは本番の結婚式の時まで待つとするか」
わたしはルカニア様に向かって、ほんの少し頭を下げます。ルカニア様は両手でわたしのヴェールを捲って、わたしの顔を顕わにさせてくれました。
「美しいなあアリシア」
「ありがとうございますルカニア様」
わたしたちは見つめ合って、微笑み合いました。そうして、ゆっくりと身体ごと視線をマリーゴールド様の方に向けます。
「ルカニア様はわたしを美しいと褒めてくださいましたが、マリーゴールド様?わたしと貴女とではどちらが綺麗だと思われますか?」
笑みを浮かべた表情のまま、わたしはマリーゴールド様を見つめます。
マリーゴールド様の勝ち誇った笑顔が瞬時に強張り、そうしてそのまま固まってしまわれました。口も、ポカンと開けられたまま。ふふふ、流石の美人も間抜け面ですわねえ。
取り巻きの皆様も、マリーゴールド様同様、魂が抜けたような顔で唖然としていらっしゃいます。
事情の知らない他の生徒たちは「あれは誰だ?」「あ、あんな美人ウチの学園にいたか?」などと色めき立っていらっしゃいます。
そうでしょうそうでしょう!わたし、綺麗でしょう!ふっふっふ、前世、超有名化粧品メーカーで美容部員をしていたわたしの化粧技術は伊達ではないのですよっ!
はーっはっはっはと高笑いをしたいところですが、嫋やかな笑みを浮かべ続けます。
さあ、見て、皆様っ!わたしは昨日今日と、わたしを磨きに磨き上げたんですよ!!
まず髪です。ウチの侍女にお願いしてキレイに整えてもらいました。ボザボサから緩やかなウエーブへ。これだけでも印象はだいぶ変わります。
更にメガネも外して、顔のお化粧!
まずは洗顔&ローションパックで保湿!!コレ大事よ!!肌がざらざらしていたら、化粧のノリも悪いからね!
で、次に大事なのがファンデーション!現代日本だったらパウダリーファンデーションで、ソフトな光沢感と潤い感を出すところなのですが……今のこの世界は、そこまで化粧品が発達しているわけではないのがネック。
でも、大丈夫。実は、わたし、この世界で伯爵令嬢として生まれてしばらくの後、色々な化粧品を開発&販売をしてきましたよ!
前世チートは転生物のお約束!!
大々的に売り出してはいませんが、こっそりね、一部の方にはご利用いただいて、大好評を得ています。もんのすごおおおおおおおおくお値段高くしたけれどね!それでも注文殺到よ!現状、量産できないのがネックね……。真珠の粉を魔道でさらっさらになるまでめっちゃ細かくしたものなんかを白粉に入れて混ぜるとか、ホントムズカシイの。ちなみに配合率は企業秘密。
ま、でも、大事なのは高級な化粧品を使うことではなく、その化粧品の使い方なのですよ。ああ、元・美容部員の腕が鳴るわっ!
たとえばそうねえ……額を丸く見せるっていうのが、美人メイクの一つにあるんだけど。
生え際をね、シェーディングカラーで暗くするのよ。外側がくぼんで見える分、中央が高く見え、つるんとした額に演出できるの。前世のようにシェーディングスティックなんて便利アイテムがあればいいんだけど……今世には無いからね、わたしが起こした商会で雇っている魔導士たちに、微粒子になるまで粉砕させたパウダー!これをひたすら肌に細かく叩いていきます!!
次にアイメイク。
盛りすぎNG!
自然なぱっちりお目め!
ここには力を入れますよ!
疲れた印象を与えるまぶたのくすみを払拭しつつ、目元に陰影を与えて凛とした目力を引き出すのが、美女オーラEYEへの第一関門。ぱっと見はダークだけど、肌にのせるとシアーに発色するソフトブラウンのアイカラー。赤みブラウンも潜ませ、血色感を印象づける“赤影”を作ります。ほーら、パッチリお目めの美人メイク!
まあ、ここまで手を入れなくてもいいんだけどね。
ほら、普段のわたしはメガネで点目令嬢でしょう。メガネを外して、現れたのがぱっちりとした目なんて、それだけで皆様びっくりするはず。
でも、わたし、自分の顔を化粧で作り始めたら、段々楽しくなっていっちゃったの。よし、まだまだもうちょっと手を加えますかってね!!
では、アイラインも入れちゃいますよー!ああ、現代日本の女性の必需品であったリキッドアイライナー。今のこの世界ではないのが悔しいなー。作れないかなーと、長年研究しているんだけど、無理。代わりに、ほっそい綿棒みたいな道具は作ったから、それで何とか代用……。良かった、うまく、アイライン引けたわー。あ、ちなみに、アイラインは長すぎると不自然になるので目尻一センチ程度を目安に引くの。
さ、ではまつ毛。
色っぽい眼差し作りにおいて、目力を欲張ってはNG。だからマスカラの色はダークブラウンがベストです。黒は強すぎるの……。
あ、マスカラコームなんてモノもないから、やっぱりうちの魔導士たちにものすごく小さくて細い櫛みたいなのを作ってもらい、それで、ちまちまと目元補正します。少しずつ力を入れて、まつ毛を根元からカールアップ!!くるんと上がったら、ごく少量のマスカラ下地を睫毛の生え際から塗ります。つけ過ぎは不自然の元、だからティッシュオフ……したいところだけど、この世界にはやっぱりティッシュはない……ので、シルクの布で代用。
代用品多いな!というか、現代日本の美容関連用品って、種類豊富だし、使い心地サイコーだし、ホントすごいよね!うん、いつか、絶対にウチの商会で開発させよう……。
そうやって、これでもかっというほどに、自分の顔を化粧で作りましたよ!一見ナチュラルメイク、だけど、実のところ、特殊メイクなんじゃないの?と思えるくらいのすんばらしい仕上がり。
今日のわたしのイメージは、桜の花の満開の色。だから、チークと口紅は薄紅色にしたわ。
口紅……、グロスが欲しかった……。けどこの世界にはない……。なので、紅に蜂蜜とこれまた真珠の粉を混ぜたものを使います。きらっきらのてかってか!
メイクに合わせてドレスも選びました!これまたイメージは桜ね!
胸のあたりは総シルクの白のレース。ドレスのスカート部分がね、腰のあたりが薄い桃色。裾に向かうにつれてだんだんピンク色が濃くなっていって、裾辺りは八重桜の濃いピンク色になっているグラデーション。綺麗でしょ?
ここまで作り上げて、ヴェールを被って今いるダンスパーティ会場に乗り込んだのよっ!
ふっ、作戦通り!『点目令嬢』の劇的な変身ですわ。ほーっほっほっほっ!
崩れ落ちたままのマリーゴールド様&取り巻きたちを放置して、わたしはルカニア様とダンスを楽しみました。
もうね、ルカニア様とわたしの独壇場よ!
わたしたちが踊っていたら、だーれも踊らない。遠巻きに見て、「ほう……」と感嘆のため息を吐かれる方々続出です。
一曲踊って、わたしとルカニア様が、舞台上の俳優のように、皆様に向かって一礼をしました。すると、会場を揺るがすような盛大な拍手が沸き起こりました。
これでもう、『点目令嬢』がルカニア様に似合わないなんて言われないでしょう。
わたしもこうやって素顔……じゃないな、化粧顔をさらしたことですし、この顔で生きて行こうかと思います。うむ!
踊り終わって、わたしはルカニア様と学園の薔薇園の方へと移動しました。
「ちょっと聞きたいのだが、アリシア」
「はい、何でしょうルカニア様」
「これまでかけていたメガネはあれは……」
「はい、わたしの商会に開発させたものです。わたし、この顔隠したかったので」
ルカニア様のように、天を突き抜けるほどの美貌ではないけれど、それでもわたしだって、本気で化粧をすれば、ルカニア様の隣に立つ程度の美を作ることはできる。
でも、そんなことをすれば、前前前世の夫のように、わたしの顔に一目ぼれして求婚してくる輩も出てくるでしょう。
前前前世の繰り返しで、夫に裏切られるなんてそんな人生もう嫌。
顔の美醜を気にしない相手が欲しい。
「ルカニア様はどうですか?わたしの……いつもの点目メガネと今の顔。どちらが好きですか?」
何でもないように、平坦な声で聞く。
だけど、内心はどきどきだ。
やっぱり美人の方が良い……なんて、ルカニア様に言われたら……、もう、これからどれだけ転生を繰り返そうとも、男の人を信じられなくなるかもしれない。
だけど、ルカニア様は笑って言うのだ。
「どっちのアリシアも好きだけど?」
なんて、ごく自然に。
「美人だろうと点目だろうと、アリシアはアリシアだ。私のこの顔を特別視するわけでもなく、下痢だとかおむつだとか……。私はね、アリシアといる時だけが、こんな人外魔境な顔をしていない、ごく普通の男だと思っていられるんだ」
「じゃあ、わたしが皴だらけのお祖母ちゃんになっても、わたしを愛してくれますか?」
「もちろん。私が垂れ流しの偏屈ジジイになっても側にいてくれるのだろう?」
茶目っ気たっぷりに、ウインクまでしてくださるルカニア様。
ああ……。
前前前世の夫への恨みつらみがさらさらさらー……と、風に流されていくようです。
もうあんな男のことなんて、思い出すことも無くなるでしょう。
だから、わたしは満面の笑顔でルカニア様に言うのです。
「大好きですルカニア様っ!」
ルカニア様は、天使のような、そして、薔薇のような笑顔で、わたしの唇に、そっと触れるようなキスをしてくれました。
- 終わり -
数ある作品の中で、藍銅紅のお話を選んでいただきましてありがとうございました。
誤字報告ありがとうございます!大変感謝しておりますm(__)m
おかげさまを持ちまして、ブクマしてくださった方が250名様超えました!
ありがとうございます!!
評価も400人越え、いいねも245件です。
皆様本当にありがとうございました!御礼申し上げますm(__)m
また別の作品でお会いできれば幸いですm(__)m
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新連載始めました!
『貴方』から受け取ったものは、全て『貴方』にお返しします。
https://ncode.syosetu.com/n8020ie/
こちらもあわせてお読みいただけると嬉しいです!