9 やっと全貌が見えてきたな
しばらくタイトルいじっていましたが諦めました…笑
今作は書いていてとても楽しく、個人的には気にいっているので、頑張りたい所存です。
留意物――即ち、その人の心に印象強く紐付いていた物体。
ぼくにとってのそれが、あのパンツだったということなのだろう。
(でもパンツって……)
しかもたぶんあれ、このマンションを家探ししたときに寝室のチェストで見たやつの一枚だきっと。
うーん、なんなんだろうこの人間失格感。
普通こういうのって、もっと………………いやまあ、しかたないな。
――ジャー。
そうしていると、例の水の流れる音が浴室の方から響いてくる。
「またかよ……」
前回と同じで、ひとりでにシャワーから水が流れ出ているのだ。
ぼくは諦めながらも浴室へホラー現象を確認しに行く。
その道すがらのリビングには相変わらず血が滴り落ち、床には血だまりがある。
ただし天井にはやはり何もない。何もないところから血が突然落ちてきている。
「まじなんなんだよ」
ホーンテッドマンションなのか?
ブツクサぼやきながら浴室の扉を勢いよく開いた。
――やはり誰もいない。
照明は灯っている。
水は流れている。
なんだったらウォッシュスポンジに泡だって付いてる。
でも無人。
「誰もいませんかー?」
念のため呼びかけもして、それで前回のようにまた、手を伸ばして辺りを隈無くたしかめる。
やはり誰もいな――
「――ぁ――ぅょっ!」
……ん?
しかしなにか聞こえた気がした。
聞き違いか?
いや、でも誰もいない。
「――るのだ! いるって言ってるのだ! やめるのだ、だからそれをはやくやめるのだ!」
と思ったらいた。
今度ははっきりと聞こえたし、真ん前にその姿も見えた。
涙目で顔を真っ赤にしながら裸で入浴中の女の子。
同い年くらいだろうか? いやもう少し幼く見える気もする。
この世のものとは思えないほど可愛らしい少女だ。
透き通るような白い肌と、長い黒髪と吸い込まれそうなほどに漆黒の瞳とのコントラストが印象的だ。
そして四肢には龍の紋様が巻き付いている。
「どうしたのだ? もう見えるのだ? わかったのだ? だからお願い、もうヤメろなのだ!」
ヤメろというのは一体何のことを言っているのか、とりあえずまるっきり不明であったが、ふと気がついた。
「どうしてオマエはいっつもここに来るとちょーどソレを掴んじゃうのだ!? 幸運の持ち主なのだ? ホントは見えてたのだ?」
そう、ぼくの両手がその女の子の両胸を鷲掴みにしていた。
「え? ああ、いや、すまん。これはさっき誰もいないか確かめようとして手探りしていたからで、それが調度その位置で落ち着いてしまっていただけなんだ、きっと」
「わかったのだ! もうわかってるのだ! 前回もそうだったから知っているのだ! でもなぜなのだ? なぜそう言いながらもまだ揉み続けているのだ? さっさとどかすのだー!」
ぼくはどかした。
これで満足だろ? と。
しかし彼女はまだ不満げだった。
「こっからもでてけなのだぁあーーーー!!!」
シャワー女子に浴室から追い出されて、ぼくはひとりリビングのソファで待機していた。
横では例の出所不明の血が相変わらずフローリングに血だまりを作っている。
「ぷんぷんぷんぷん! けしからん人間なのだ!」
するとそう憤りながらそいつが戻ってきた。
身体には白いバスタオルを巻き付けている。
一目で可愛い。
しかしぼくを人間と呼ぶということは、彼女はそうではないのか。
意図を察したらしいその子が、「ふふふ」と不敵に笑むと、バッと手を振りかざすなんかカッコいい気もするアクションと共に自己紹介をする。
「そーなのだ! ワチシこそはこの世界に君臨する無限の光王ッ! 月光神アルテアナ様なのだっ! 頭が高いぞ人間っ! ひざまづけええ!」
パサ――
と、バスタオルが落ちる。
「はわあわわわわわ!」
アルテアナはそれを急いで身体に巻き直した。
どうやら彼女はこの異世界の神であるらしい。
「正確には人間にとっての神なのだ。実際のところ、ワチシたちは世界区分では”使徒”と呼ばれるただの上位種族のひとつなのだ。人間があまりにショボすぎて神に思えてしまってるだけなのだ」
一部の人間は、その上位種の中でもまだ自分たちに友好的であるように思える種を神族として崇めており、その逆の種を魔族として忌諱しているとのこと。
「本来はワチシのような高貴なる存在は、オマエのような下賤種に姿を晒すことはあり得ないのだ! だからありがたく感謝いっぱいに観るが良いぞ!」
アルテアナはそう言ってふんぞり返る。
パサ――
「はわわはわわわ!」
感謝いっぱい。胸いっぱい。
「やれやれ! それにしても計画が狂ったのだ!」
アルテアナは寝室の方で部屋着に着替えて出てくると、いの一番にそう言った。
ちなみに服装はTシャツにショートパンツというラフなものだった。
「ホントは、ここに貼ったメモだけで済ます予定だったのにオマエときたらまったく余計なことばかりする。だから思わず姿を現わしてしまったのだ! もういいのだ、こうなったら直接会話してやるのだ!」
彼女は例のボードに貼ってあったメッセージを片付けながらそうプンプンと腹を立てていた。
――彼女の話す内容はつまり、以下のようなものだった。
ぼくはどうやら前の世界で死に、彼女によってこの世界へと送り込まれた。
この世界で好きに生きていいとのこと。
ただし――
ぼくは、本来は転生させて赤ん坊からやり直させる手はずだったのが、とある事情で、身元不詳の成人男性として突然発生させられてしまっている。
そのせいで、レベルだけ赤子同然の”1”のままになってしまっている――とのことだ。
「……だからエリーとあんなにレベル差があったのか」
彼女が強者であるにしても、さすがにレベルが開き過ぎな気がしていたのだ。
赤子と強者なら、70以上の開きも納得である。
「納得した」
「おお、意外と冷静なのだ。もっと怒ると思っていたのだ」
アルテアナは驚いているようだった。
「まあもともと死んでいたらしいし、いくらか不利でももう一度生きられるんならラッキーな方かなと」
地道にレベル上げていくのわりと好きだし。
「ふむふむ、なかなか良い心がけなのだ。いくらかオマエのことを見直したのだ」
「それはそれは、身に余る光栄」
「ならこの機会にもう一個告白してしまうが、なんとオマエは、今後一切レベルを上げることができないのだ。ずっとレベル1のままなのだ」
「…………っ! ――――はあああああああっ!?」
なに言ってんの?
いやていうかそういうこと!?
けっこうスケルトン倒しているのにいつレベル上がるのかって楽しみに待ってたけど未だにレベル1のままなのってそういうこと!?
仕様なの? もうあがんないの? このままなの?
「おお、なんなのだ、今度は怒るのか?」
そりゃそうだわ。
どうやってレベル1でこの鬼畜みたいな難易度の異世界を生き延びろって言うんだ。
「でもそんなオマエに朗報なのだ。ワチシとて女神の端くれ。可哀想なオマエをそのまま千尋の谷に突き落とすようなことはしないのだ。まあオマエも既にいくらか活用しているようだが……ほれ、」
彼女はそう言って一枚のメッセージをボードから剥がしてこちらに見せる。
それは以前ボードを確かめた際には無かったものだ。
おそらくこの部屋に戻ってきたぼくは本来なら、ボードに追加されていたそれをいの一番に確認するべきだったのだろう。
しかし彼女の予想に反し、ぼくは浴室に直行していた。
まあとにかく、その新しいメッセージにはこうある。
――”わかったであろう? この世界で死んでも、きみはやり直すことが出来る”
――”死ねば死ぬほど、きみは力を理解するだろう”
――”深みに嵌まるが良い”
――”インベントリと述べよ”
ぼくはインベントリのステータス画面を開く。
すると驚くことに、そこにはひとつの変化があった。
====================
【ステータス】
レベル:1
深み:-8
◎スキル
なし
◎特性
なし
◎ステータス
・筋力:1 ・魔力:1
・技量:1 ・奇跡:1
・体力:1 ・時空:1
・敏捷:1 ・深淵:1
====================
深み。
以前まで”???”であった表記が、”深み”に変わっている。
アルテアナは説明する。
「”深み”はワチシから可哀想なオマエへの救済措置――愛の手なのだ。
”深み”は禁断のステータス”深淵”に関わるパラメータ。
オマエはこの世界でレベルを上げられないが、代わりに死ぬことを許される。
そしてその度に、禁断に触れるという行為を理解していくことだろう」
読んでくださり感謝。
よければ評価・ブックマーク登録お願いします。更新の動力源となります。