第18話 魔王さま、コツをつかむ。
失踪してました申し訳ありません。
下書きが消えててやる気が……。うごご……。
翌日からもやることは変わらない。つまり、昼間にザニールに稽古をつけ、そして夜中に精霊の力の使い方を知る。特段辛いなどと言うことはないが、教えながら教わるというのは変な感触がある。
しかしザニールには才能がある。戦い方を一通り教えただけで動きが変わった。具体的に言えば私に一太刀浴びせるくらいには成長した。それもかなり深めのものだ。もともとある程度鍛えていたのが効いたようだ。鍛え続ければ勇者と同じレベルまで成長するのではないだろうか。
ちなみにいつもは首を飛ばされた後蘇生してもらっている。回復はポーション頼みだ。そういえば倉庫はあるのだろうか?ちなみに倉庫とはそのままの意味で、持ち物を入れておくことができる魔法みたいなものだ。いつもはそこにHP回復薬や魔力回復薬をしまっている。ここに来てからと言うもの倉庫を開いたことはなかったからな。確認がてら……。
「さて、倉庫は、と。……ふむ、開くな。しかし残数は微妙か。」
HP回復薬が52個に魔力回復薬が38個か……。こうなるなら補充しておくべきだったな。システム上最大数は99個だが、ないよりましだったろう。
ないものを嘆いても仕方がない、か……。
問題は精霊の力だ。正直精霊の力を引き出せない。そもそも精霊を見ることができない時点で力の使い方など分かったものではない。どうするべきか。
「ダリヤ!今日も頼めるか?」
おっと、考えている暇もないな。
「構わないが、お前はもう相当強い。もうしばらくしたら稽古をつける意味もなくなるだろう。」
「本当か!?」
嘘を言う意味はないからな。
クリスタルソードを取り出し、ザニールの前に立つ。
「さて、準備はできた。いつでもかかってこい。」
「今日こそ無傷で斬ってやる!」
それでいい。いい意気だ。
右手の剣でもって鋭く斬りかかるザニール。クリスタルソードを三所隠しの要領で剣を受け止め、さらに向かってくる左の剣を柄で叩き落す。
そのまま右から袈裟斬りを仕掛けるが、防がれて左下から斬り込まれる。バックステップで距離を取り致命傷を避けるが、空振りした剣を引いてまるで読んでいるように突っ込んでくる。
この程度の攻防でわかる。強くなったものだ。読みもいい。剣技のみならばすでに勇者に勝っているかもしれない。もしそうなら私の目が狂っていたということだ。
「休みでも自主練を怠らなかったようだな。」
「ああ!体を壊さない程度にやってたぜ!強くなったか?」
「ふふっ。剣技だけならな。」
そういった会話をしながら攻防を続ける。だんだんと両者に細かい斬り傷が増えていく。
魔法を使っていないことを鑑みても、ザニールは優秀だと思う。
……いや、本当に「優秀」に済ませていいのだろうか?たかだか数日程度の稽古で私に傷を負わすなど、どう考えても普通ではない。探りを入れてみるべきか……?
「俺、本当に強くなってるんだな。最初は全く何もできなかったのに、今はもう傷つけることもできてる。ダリヤには感謝してるよ。本当に魔王かとは思うけど。」
「大きい声で魔王というな。……まあ、強さを実感できるのはいいことだ。」
いや、今はやめておこう。ただ純粋に強くなることに対してこうも喜んでいるのだ。水を差すようなことはすまい。いつか、でいいだろう。
「結局お前の体にも傷はついたが、どうする?まだやるか?」
「当たり前だ!今日も傷くらいつけてやる!」
「やってみろ!今日の私は一筋縄ではいかないぞ!」
もっとも、魔法を使えば私は傷一つ負わないだろう。しかしそれではフェアではない。それに意味もない。魔王と戦うならその再現として使った方がいいかもしれないが、な。
こちらも今は、しなくていいだろう。もし魔王が来れば私が相手をする。魔法の対策など魔法以外でできたものではないからな。
その後はザニールが私に傷を付け、力尽きて倒れたため、その日の稽古は終了となった。剣技について教えることはもうほとんどないくらいだが、スタミナはつけさせなければ話にならないな。
やれやれ、手のかかる弟子だ。
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『精霊よ、何かコツはないか?』
『コツって言われてもねえ……。』
ザニールとの稽古が終わり時間ができたため、リースの中の精霊と会話し何とか精霊の力の引き出し方を聞くことにする。
精霊が何なのかはわかっているのだが、いかんせんその力は引き出せない。魔力とは違うモノらしいが、そうすると私が使う魔法とは全く違う原理ということになる。
『精霊が何なのかはこの前言った通り。せめて声が聞こえるようになればある程度楽になるのだけれど……。』
『そういえば、精霊はどこにでもいるようなものなのか?』
『どこにもいないし、どこにでもいる。わかりづらいと思うけどそういうものよ。』
『今私の近くに精霊はいるか?』
『ええ、もちろん。知覚できはしないと思うけど。』
そうか、精霊は私のすぐ近くに今もいるのか。ふむ。
力を引き出す……。さっぱりわからん。しかしまあやると言ってしまった以上やるしかあるまい。すぐに方法を習得してリースに教えなければな。
どうすればいい?精霊……。精霊か。
……私の世界にないものなのはそうだがこうも難しいものなのだろうか。
考えてみれば私は生まれた時から魔法を習得していた。自分で何かを習得したことはないのだ。この機に新しい力を得るのもいいだろう。
しかしどれだけ考えようと答えは出ない。考えてわかるものでもないだろうが。ふう、一旦水分を取ることにしよう。
「ザニール、水桶は外にあったな?一杯もらうぞ。」
「ああ、いいぜ。」
「ダリヤさん!ついでに私もお願いします!」
「私もお願いするわ!」
「ああ、わかったわかった。もう全員分持ってきてやるから。盆ごと持っていくがいいな?」
「えぇ!俺の分はいいよ!後で自分で行くから。」
「遠慮はいらん。待っていろ。」
そうして盆にコップを4つ載せて水桶まで向かう。さて、これで……。ん?誰かの気配がするな。
……。まあいいだろう。手を出してこないならこちらも手を出すことはしない。だが恩人と約束に手を出すようなら覚悟をしてもらう必要があるが、な。
「持ってきたぞ。」
「ありがとうございます。」
「ありがとう、ダリヤ!」
「あ、ありが、とう。」
「構わない。向こうの部屋にいるから、何かあったら声をかけてくれ。」
さて、引き続き精霊のことについて考えよう。
『考えてくれてるのよね?』
『当たり前だ。少し手こずってはいるが、考えているさ。』
全く少しなどではないが……。
ん、そういえば精霊にも自我があることを失念していたな。現にこうして会話ができている。軽々しく「力を引き出す」などと言っているがそうではないのだろうか?それはそれで、ではなぜ他の精霊と会話できないか、という問題が発生するがそんなことを考えていてはきりがない。
精霊に自我があると仮定すると、力を引き出す、という考え方では到底無理だろう。
となると……。力を借りる、と言う考え方がいいだろう。
精霊よ、力を貸してはくれないだろうか?
……何も起こらない。
こうなると本当に何もわからない。
「む、冷たっ。」
風、か?窓を閉め忘れたか。
そう思い窓を見てみるがしっかりと閉まっている。もちろん魔法は使っていない。
ということは……。
『今風の精霊の力が感じられたけれど、何かした?』
『やはりか。今のが、精霊の……。』「ありがとう、風の精霊よ。」
新しい力、か。まあ何かに使える時は来るだろう。
『何かしたか聞いてるのだけど?』
『精霊に頼んだだけだ。力を貸してくれとな。』
『そういうこと。だからお調子者の風の精霊が力を貸したってわけね。あいつらは基本的に面白半分でやってるから、過信しない方がいいわよ。』
『忠告痛み入る。』
一応コツはつかんだ、と言っていいだろうか?何度か試してみるとしよう。
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あれから何度か試してみたが、一度も反応を示してくれなかった。一進一退と言ったところか。
とっくに陽は落ちており、やや暗くなっている。まだ試していないことは……。
体内に魔力を流しながらやってみるか……。
精霊よ、力を貸してくれ!
何も起きない、か。
ズズゥ、ン……。
外から?何が……。っ!木が倒れている?
確認してみるか。
木の場所まで向かうと、鋭いもので斬られたようにして倒れていた。他に人の気配はないため、考えられるのは精霊の力だろう。
「風の精霊……。このようなこともできるのだな。」
魔力を流せば精霊は答えてくれるのか?
もう一度試してみたところ隣の木が同じように倒れた。なるほど。やはり魔力と関係があるらしい。
しかしやたらと風の精霊が力を貸してくれるな。もちろんありがたいことではあるのだが。
魔力を消費しないのはいいことだな。
何はともあれコツはつかんだ。あとはリースが魔力を使えるかどうかか。
『精霊よ、コツはつかめた。今日はもう遅い、明日から特訓に入れる。』
『そう。じゃあお願いね。』
『ああ。任せろ。』
「ダリヤさーん、ご飯の時間ですー!」
「少し待て!今行こう!」
『そういうわけだ。』
『はいはい。よろしくね。』
言われずともやってやるさ。すべては明日だ。ザニールの剣技はもう大丈夫だろうし、明日からはリースにつくとしよう。
飯は相変わらずおいしかった。シェリルには感謝している。
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