第二章45 懐かしい、におい
授業の中で、ただ一つ、すごく期間の長い授業が一つあった。その期間、一月。授業の内容も公表されていない、そして、その授業開始日が、今日。
「それではみんな~、今目の前に飲み物を飲んでもらいます」
みんなの前には様々な色をした液体が、各自の目の前に置かれていた。そして
「くろい、しかもなんかドロドロしてる、これを飲むのか……」(なんか嫌だ、とてつもなく嫌だ)
ワイングラス? のような容器を少し傾けてみる。だが
「うわ、やっぱり、ドロッとしてる」
「ゲッ、これは、血なのか?」
「ん……なんかそっちのほうがおいしそうにみえる」(血がおいしそうに見えるとか、俺ももうすっかり人間離れしちゃってるな)
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っというわけで、隣の席に座っていた……座っていた……座っているのか? 隣の席のスライムくんの飲み物と交換してもらっい、そして再びサキュバスの先生の合図で、全員が目の前に置かれたその液体を呑み込んだ。そして、
「なんだこれ。息苦しい」
周りを見てみると、みんなが苦しみ始めている。
「まさか。ここにいる全員を最初からころ……」
毒は効かないはず、呼吸もちゃんとできている。だが、苦しさだけが増していき、そして、意識を失った。
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「!? なんか、気持ち悪い、俺は、生きているか? 痛っ!」
手で顔を触ろうとすると、何か鋭い刃物で顔を斬りつけられた。
「!? なんじゃこれ! 前足? それに、この爪」
? さっきまで教室の中にいたほかの生徒たちも、もうそばにはいない、いや、そもそも
「ここはどこだ?」
目を覚ますと、そこは森の中で。周りには誰もいなかった。
「いったいこれはどういう事だよ、ここ、どこ? 俺、もしかして死んで生まれ変わったのかな。いや、人間としての記憶も、ヴァンパイアとしての記憶も持っている」
そもそも、脳細胞がゼロから再構築される時点で、そこにはもう存在しない前世の脳細胞の所有している記憶を引き継げるわけがない。
前世の記憶を持ったまま生まれ変わることなんて、脳をそのまま新しい体に移植しない限り、ありえない。
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「一人、いや、一匹で森の中をさまよっていても仕方ない。とにかく今の状況を打開せねば」
そう考えていたが、すぐ近くから物音がし、ひとまず身を潜めた。そこへ近づいてきたのは、どこか見覚えのある隻眼の狼
「? お前誰だ、見かけないやつだな」
(? 今誰がしゃべった?)
「どこを見ている。耳を白銀にくわれでもしたか?」
「お前がしゃべってるのか?」
「この俺をお前呼ばわりとは無礼な奴め」
そして、遠吠えとともに周囲から同じような狼が集まってくるにおいがする。
「ひとりじゃ俺には勝てないから仲間を呼んだのか? このヘタレ」
「いいだろう、この俺一人でお前の相手をする」
大きな口を開き、こちらにかみついてきた。もちろん、彰は獣のようにかみついたことなどなく、獣として戦うには弱すぎた。だが、前足を噛みつかれ後ろ足に爪痕を残された。この体になってぶっつけ本番で戦うのは。さすがに無理があった。だが
口の中で、魔力を収縮させ。一気に放つ!
その口から吐き出したドラゴンブレスに似た衝撃波が目の前の木を一面吹き飛ばした。
「おや? さっきまでの勢いはどうした?」
「強がるなよ小僧! お前だってもう立っているのが精いっぱいじゃないのか。だがもうよい、今の一撃で若い衆が巻き添えをくらった。互いに出直すとしよう」
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傷ついた彰(獣)は再びほかの獣たちに襲われないように、なるべく高いところへ行き。だがその道中、力尽き倒れこんだ。
「マスターが近くに来たと探知したのですが、どうやらセンサーの不具合のようです。あそこに転がっている生肉の生体情報がマスターに似ていたようです」
次回は8日に更新する予定です。




