第二章44 身の程
何とか、校内で散布された媚薬(同姓には嫌われる)の効果の解除が成功した。そして、それからしばらくは、平和的な学園生活が過ぎていった。授業の成績はすべてにおいて優秀、とはいかなかった
「物理的に無理だ。どうやって魔力で自分の体を持ち上げるんだ。右手の上に左手を重ねても自分の体を持ち上げることはできない。矛盾してる! 自分の体内にある魔力でどうやって自分の体を持ち上げるんだよ」
彰は、飛行魔法だけどうしてもマスターできない
この学園の授業は種族ごとに内容が違う。それぞれの種族の特性に対応した授業を行っている。ヴァンパイアの純血と眷属は飛行魔法が使えるはずなのだが、彰にはどうしても常識? と言っていいものか、それが邪魔をしている。
「焦っても仕方ないよ、また夜になってから一緒に練習しましょ。練習に付き合いうから」
そう言ってくるのは、あの媚薬事件を間接的に引き起こした本人。リリィと同じサキュバスの先生だった。どうやら飛行魔法を教えるのはこの先生が担当らしい。結局、夜の練習でも、足が地面から離れることはなかった。
――――――――――――――――――――
「飛行魔法ができないんだってな、ハハハ、まあ焦るな、俺だって使えなくたってこうして生きている、それより。俺の授業に集中しないと、死ぬぜ?」
「え」
気が付いたときにはすでに彰の腹部にデオンのこぶしが接触していた。その瞬間に彰は現実に戻り、拳と腹部の間にわずかな隙間を開け、そこに柔らかいバリアを作り、体に当たるダメージをできるだけ最小限にまでとどめた。
「おいおい、この授業中は魔法の使用は禁止だぜ」
「なあ、先生、今のはあれで防がなかったら、後遺症残るレベルのパンチじゃないのか」
「それを言っている貴様こそ油断しているのではないのか」
サクトが、背後から素手でデオンの心臓をねらったが。
「おっと、背後から心臓をえぐり取ろうだなんて危ないじゃないか」
「ほんと、ずいぶんと物騒な学校に入学しちゃったな~」
「おいおい、そんな調子じゃいつまでたっても俺に触れることさえできないぞ~。協力しないとお前ら程度じゃ当分俺に触れることはできないだろうな~」
そう言われ、彰とサクトは、たぶん目の前に立っているこの男と自分たちの実力の差はもうわかっている。だが、
「「こいつとは気が合わない!」」
そう言って、二人同時にデオンに攻撃を開始する。気が合わないと言いながらも、一撃一撃急所を突こうとするサクトと、サクトの攻撃を利用して防げないところを確実に突いていく彰
「こいつら……」
「よし! ここだ!」
そう打ち出された彰のこぶしは、気付いたときには自分の顔面に当り、サクトの股間を狙った蹴りも、蹴りだす前にすさまじい重さで足を踏まれ封じられた
「なんだ。やればできるじゃないか」
「鼻を殴られるのは、やっぱいて~!」
「くそ、この俺を踏むなど、万死に値する!」
「おっと、今日の授業はこれまで、悪いが時間外勤務は御免だ」
「まて! まだお前に一発入れてない!」
「よ~し、ご飯でも食べに行こ」
「おい、貴様! プライドというものはないのか!」
「約束があるから行かないと」
「どいつもこいつも、女か」
「そういう訳じゃない、そうだな。言葉を選ばない言い方をするよ“身の程を知れ”あの人には、俺たちが二人がかりでかかっても、たぶん指一本触れられない」
次回は4日の予定です~!




