第二章35 闇の中でうごめく陰謀
「そっか……」
突然突き付けられた真実に少しだけ脳と心の整理が追いついていない彰。いきなり家族、友人共々全滅、皆にはもう今後一切会えません。そんなふうに言われてすぐに“はいそうですか”と返事をするようなイカレている人なんて滅多にいないはずだ。
「あんたの時も、そうだったのか?」
「一つだけ、知らないほうが幸せなこともある」
なぜか自分のことを伏せた。いや、何かを隠しているようにも見える。今はまだ、知らないままでいいや
「つらいのはわかる、だが、逃げてはだめ」
「何から」
「誰か、大切な人を失ったんじゃろ」
「そりゃー、たぶんだけど、もう親は生きていないだろうさ」
「そっちではなく、こちらの世界の住民のことじゃよ」
「エリカの嬢ちゃんから聞いておる。まだ若い君の心の傷をさらにえぐることになるが、いうぞ。アルンというエルフの娘はお前の判断と注意不足で命を失った。ならこれからどうすればいい」
?
「大切なフィアンセをなくした。次はどうすればいい」
「どうすればって」
「ただそう死んだ目で。永遠に生き続けるのか。おまえがこれからやるべきことは何なのか。この試合が終わった後に考えるといい」
そう言って、どこかへと姿を消した
「なあ、もし、今ブラドが襲ってきたら、俺がつくまで守り切れるか?」
“年のとったコウモリ一匹、丸焼きにしてさ”
「そっか、もう少し、そっちは君に任せるよ」
“了解した”
「彰? 誰と話してたの?」
「うわ! 摘まみだされたんじゃなかったのか?」
リリィは体がまるで壁から生えてきたように、上半身がニョキっと壁から出ている。
「いっ、いや、何も?」
少しだけ焦って指輪の付いたほうの手を思わず背後に隠した
「それより、また見つかったらまずいからさっさと帰りなよ」
「う~ん、それもそうかな~。じゃっ、明日の試合も頑張ってね。ちゃんと見てるから」
それにしても、暇だ。みんな今何をしてるのだろうか。明日の対戦相手の対策? テレビもマンガもないこの世界でみんなどんな暇つぶしをしてるんだ。ちょっと、覗きに行ってもいっか。
とりあえず、隣から順番に見ていこ。女性はみんな一つ隣の建物のはずだから見られて困ることは、うん、少ししかないはず! これはただの敵情視察だ、情報戦もおおい今の世の中必要なことなんだよ。という事で
「あれ? 暗い、もしかしてもう寝てるのか?」
部屋の中は真っ暗でベットの上を見てみると微かに膨らんでいるようにも見える。
「もう寝てるのか」
周りを見てもまだ光はついている、
「さて、もう一つ隣は」
「なあ、いいだろ?」
「やめろよ、俺にそんな趣味はね~よ」
(ベットに押し倒される音)
「なあ、いいだろ」
そう言いながら少しずつボタンを外していく。
「えっ、あっ、え~、うん、見なかったことにしよう。屋上にでも行って夜景を見てたら忘れるよきっと」
この国は夜になると昼間よりにぎやかだ。やっぱり魔族の国だけあって、昼間より夜のほうが元気なんだな ? なんだ、あの集団
女性の住むところのほうに二人がこそこそと近づいているのが見えた。
「今度は定番の覗きですか……どの世界も男は変わらないな~、あっちにはリリィもいるみたいだし、阻止するか」
彰は上から二人の前に飛び降り、その行く手をふさいだ。目の前にいるのは隠密行動には向いてなさそうな大男と、運動神経のよさそうな忍者、忍者? まあ、忍者のカッコをしている男
「おいおい、覗きは良くないぞ」
話し終わる前に、忍者のほうが背後からナイフを抜き取り、斬りかかってくる。その刃はまっすぐ彰の眼球に接近していて、驚いた彰はギリギリのところでそいつの腕をつかんだ。だが、足を引っかけられ。押し倒される。次の瞬間、さっきまで観戦していただけの大男が二人の上に現れ、妙に大きい拳振り下ろす。それをギリギリでかわす忍者。完璧と言えるほどの連携攻撃、彰はその攻撃をもろにおなかに受け、意識を失いかけた。
「なんだこれ、全身動かない」
「ほう、今のをくらってまだ生きていたか、なら次でとどめだ」
次回は27日の予定です!




