第二章23 俺たち、生きてる!
「きれいだな」
「そう?」
「俺の故郷にはもうこんなに澄んでいる海ないかもしれない」
すでに水深はかなり深いはずなのに上を見上げると小魚が海面近くを泳いでおり、海水の透明度が高く、まるで小魚が空を泳いでいるように見える。そして、下のほうを覗き込むと、そこはどこまでも深く暗い、うっすらとまるで中国の皇帝の椅子刻まれている龍のような形をした黒い影が泳いでいった。そんな光景に彰の目はキラキラ輝いていた。だが、この光景にはもう一つ違う捉え方もある。
「ドンっ」
何かがこの船に思いっきりぶつかった。その衝撃で顔が海水の壁に埋もれてしまった。
「ぺっ、オエ、しょっぱ。なんだ!?」
振り向くと船の反対側に巨大なタコの足、吸盤の一つがまるで彰と同じくらい大きい。その吸盤が、船に巻きついてきている。
「なあリリィ、この船大丈夫か!?」
「いつものことよ……」
「この船って、巨大なタコなのかイカなのかわからない生物に丸呑みにされるのもいつものことなのか?」
そう言いながら頭上を指で刺す彰、リリィはその指の方向へと視線を向けると、ほかの吸盤とは少し形が違いまるで二つの大きな嘴のようなものがついている。タコの口、ちゃんと見たことないけど、拡大したらこんな感じなのか。
もはやこの世界での出来事で驚いたほうがおかしいんじゃないか? と思ってきた彰は今度も何か予想の付かないような対処法をしてこのでかいタコっというかクラーケンを追い払うのだろうと予想していたが、リリィのほうを見てみると、顔色が悪く何かブツブツつぶやいている。
小声:「終った、もう終わりよ、私サキュバスなのよ? まだ一階だってエッチなことしたことないのにつかまって死ぬんじゃなくてクラーケンの排泄物になるなんていやよ……」
「おい、リリィ! リリィ! どうした!? この船なら大丈夫じゃないのか? 魔力障壁も作動しているみたいだし」
「無駄よ、こんな小さな船の魔力障壁なんて」
騒ぎに気付いたほかの乗客たちも次々部屋から出てきた。パット見あの大きな炎龍四売りも10倍の体積はありそうなこの巨大な生き物はこの世界でも脅威的な存在らしい。
「相手はこの海の頂点ともいえる存在よ、普段は水龍とかしか食べないはずなのに! なんでよりにもよって今日この船を狙いに!」
そんな話している間にも、魔力障壁にどうやらヒビが入ってしまったようで、頭上から海水が小さな滝のように落ちてくる。床が少しずつ海水でどんどん濡れていく。そして客室のすぐ近くまで海水が浸水していき、一番下の階はすでに水没してしまっている。
「どうすればいい!」
「もう無理よ! あきらめるしか、この船に乗っているのは学生と学生候補しかいない。こんな怪物を倒せる人なんているわけないわ!」
「ならお前はあきらめて死ぬのか! 倒さなくてもいい! 俺たちは弱い! だからあいつを倒すなんて考えなくてもいい! ただ逃げればいい! なんとかこの状況から脱出して逃げ出せばいい!」
「その話! 乗った! まずどうする!」
「俺聞いたことあるぜ、クラーケンは火があるところには近づかないって!」
「火なら俺が何とかする」
「なんとかって、ここは海の中だぞどこからそんな火を」
「そこの兄ちゃん、港ですっげー火炎魔法使ってたぞ!」
「ほんとか! 頼もしい! あとはこの船に絡みついている足をどうにかしないと」
「何二人でカッコつけようとしているんだよ、ここのみんなゲヘナの学園目指してるんだぜ。俺たちだって役に立てるさ! なあ! みんな!」
「「「オー!!」」」
叫び声とともにいろんな種族の人たちがクラーケンの足へと向かっていく、どうやらこの魔力障壁は外からは入ってこれないようだが、中からは外に向かって攻撃できるらしい。
「魔法が使える人は二手に分かれろ! 攻撃が得意な奴はとにかく足に向かって魔力弾でもなんでも打て! 武器使いは絡みついている足に直接斬りかかれ!」
「封印魔法や防御魔法ができる人は私と一緒にこの船の中心にあるクリスタルに行くわよ!」
「そこの兄ちゃん! 火炎魔法はまだか!」
「一分時間をくれ!」
その一分間はみんなの生死を分ける時間で、すべての魔族がただ生きるために全力でクラーケンから船を守っていた。にもかかわらず、この船に乗り合わせたメンバーの魔力で強化された魔力障壁にはひびが広がっていく
「まだか!」
「……」(三秒後)
「よし! みんな! 船にしがみつけ! みんな一か所に集まって防御結界を張ってくれ……今すぐにお前のそのでかい口を燃やしてやるよ! 行くぞ! フレイム・ラディエイション!」
彰は指輪を通して、炎龍の力を借り、凄まじい威力の火をクラーケンの口に向けて放つ。その火を感じたクラーケンはすぐに口を魔力障壁から放し、避ける。あの巨体からはあり得ないほどの速さで船の右方向へとよける。彰が放った火は船の上にあったはずの海水をすべて蒸発させ、クラーケンの逃げる際に巻き起こった海流が魔力障壁が消えてしまった船を呑み込み、一気に海面へと上昇する。その勢いは衰えず海面から二十メートルほど飛び上がり、そして再び海面へと着水する。
「うおーーー!!! 生きてる! 俺たち生きてるぞー!!」
船が少し傷つき、クラーケンと一緒に魔力障壁までも内側から吹き飛ばしてしまった。だが、そんなことはもはやどうでもいいくらいみんなはお祭り騒ぎだった。
「そう言えばお前は何をしてたんだ?」
「? 応援?」
「……」




