第二章22 幽霊船
「これがゲヘナ行きの船か~すげー!!」
彰の目の前にある船は巨大な漆黒の海賊船っという第一印象を人に与える、木製の船からはほのかに潮の香が漂い、少しだけ破けている帆は乗り越えてきた嵐の数を物語っているのだろう。今はしまっている帆だが、開いたらさぞ大きいのだろう、思わず早く乗り込みたくなる。
「この船を見るのも初めてなのね。あなた本当にどこから来たの?」
「……それは言えない」
「まあいいわ、あなたは今年からなのよね?」
「? 何のこと?」
「学園に行くのでしょ?」
「はっ! なぜそれを!」
「ゲヘナに初めて行く人は誰かすでに住んでいる人の家族か、それか移住希望者、あとは知識を学びに行くってところ。あなたは初めてこの船を見るし、それに帰るところもあるみたいだから。何より、女のにおいがする……」
「女の匂いって……」
少し、悲しい顔を見せた彰にリリィは何かを察しすぐに話題を変える。
「あ! そうそう! この船で見る景色はほかじゃ絶対に見れないの、楽しみにしているといいわ、必ず最初が一番驚くから」
「出港だ~!」
「あら、もうでる時間よ早く乗らないと」
「ゲッ、船はもっと時間的に余裕をもって乗るものだろ!」
彰は急いで乗船の橋へと走る、そんな彰の隣をリリィがぷかぷかと浮かびながら同じ速度ですぐ隣をついてくる。
「お前、飛べたのかよ!」
「そりゃー、飛行魔法が使える種族だし」
「それよりもっと速くは知らないと間に合わないわよ~」
よく見たら、何か糸のようなものがリリィから彰の肩についている。
「お前! 飛べるなら自分で飛べよ!」
「あなたの走りのほうが速いって昨日わかったからこっちのほうがいい~」
「微妙右だけ引っ張られている気がしたら!」
「頑張って~」
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「ハァ、ハァ、間に合った……」
「おや、珍しい客だ。ヴァンパイアとは」
「仲が悪いのは聞いたのですが、この前は誰だったんでしょうか?」
「あぁ、この前のは純血種のお嬢ちゃんだったよあれはもう百年以上前かな~」
「ゲッ、百年以上前……」(エリカ、どうやら百歳以上は確実か……、って、俺は何を考えているんだよ。エリカが百歳以上あったとしても俺とエリカの関係は何も変わらない、主人とその眷属じゃないか)
「さっ、チケットも飼ったし、乗った乗った」
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二人は船に乗り、そして、船が帆を開き、港から離れていく。
「彰、私は先に部屋のほうへ行ってくるわ。あなたにおすすめの場所を教えてあげる。この船の船尾に行きなさい、そこで面白い体験ができるわよ」
そう言って、リリィは階段を下りていった。一帯後ろに行ったら何が見えるのだろう、港で働いているいろんな種族の人がどんどん小さくなっていく、どれほど進んだだろうか、向かい風に進んでいるからか、船が再びその帆をたたんだ。今の視力をもっても、港の人たちは微かにしか見えなくなって、次第に、港が水平線の下へと沈んでいく……
「あれ? 水面ってこんなに近かったっけ?」
ようやく気付いた、港が水平線に沈んでいるのではなく、この船が徐々に海の中へと沈み始めているのだと。ついには彰の足が水面まで二メートルというところまで、海面が迫ってきた。彰は急いで船の中へと駆けこみ、リリィの姿を探す、確かリリィは305号室だった。入ってすぐに左手に313、右手に312号室があり、313の次は314だが、312の次は311になっていた。つまり、305は多分312の7つとなりだ。そう思い走って305号室へと向かう、扉の前でドアをたたきリリィを呼び出す。
「なあに?」
「急いでこの船から脱出するぞ!」
そう言ってすぐにリリィの手を引っ張り、上へと向かう
「大丈夫よ~、そう言う船だから~」
「? 何のことかわからないがすぐに出るぞ」
そう言いながら船の上に出るとそこには普段の生活では決してみることのできない光景がそこにあった。船の人の立つ部分だけが見えない膜におおわれているようになっていて、船がどんどん海の下へと沈んでいく。やがて船全体が海の中に入った。海底が見えたところで、船が沈むのをやめ、海水の中にある帆を広げ再び前進を始めた。
「これは……」
「この船の帆はね、風のためにあるものじゃないのよ」
「海流……」
「そう、この船は、海の中を進み、海流を動力に進む」
周りを見回すと、様々な魚や海龍が周囲を泳いでいる。一瞬彰の目が止まった。
「あれは、まさか、メガロドン、150万年前に絶滅したはずじゃ」
さらに遠くには《死神》の影が迫ってきていた。




