第二章17 zero gravity
そこには、重力というものが存在しなかった。多種多様な球体が宙に浮いている。その中には、畑があったり、水の集合体があったり、さらに特徴的なのはずっと時計回りに回転し続けているあの巨大な土壁には、村があり、そこで多くの人がまるで地面に立っているかのように生活をしている。
中に入ると顔に血が上ってくる、顔が少し膨らみ、そして、足や指先が少し細くなった。気のせいか、少しだけ身長が伸びた気がする。中に入ってすぐに、足が地面から離れてしまいうまく移動ができない。
「おっ、あっ、え~と、すみません助けていただけると嬉しいです」
すぐに、後ろの鎧を着た人がこちらに手を伸ばし。その手につかまり、やっと遠くへと浮かんで行かずに済んだ。周りを見るとほとんどのものが浮いている。そして、浮いていないのは壁に対して垂直な森や村。
多分、遠心力を利用しているのだろう。果物を育てている人が見える。その優しそうなおじさんはこちらを見上げ、にっこりと笑い、リンゴそっくりな果物を投げてきた。それは、ゆっくりと宙を漂い、放物線を描かずに一直線でこちらに向かってきた。
「ステラ、いつも守ってくれてありがとうよ。それはお礼だ。おっと客人かい? 外から人が来るなんていつぶりだね~。よかったら君もどうぞ」
そう言って、リンゴをもう一つ投げてきた。
「ありがとうございます」
全身を鎧で覆った男が彰に向けて忠告をしてきた。
「この国ではこの靴を履いておかないとすぐにどこかへと浮いていってしまうぞ。あの水の玉のほうに飛んでいったら終わりだ。水の中から抜け出せずに窒息死してしまった人も昔はいたもんだ。この国で暮らすにあたって一つだけ注意しないといけないことがある。それはこの宙に浮いた状態では絶対に液体に触らないことだ。重力のない状態で触ると、液体はまるで生き物のようにお前の全身を覆いに来るぞ。まあ、あとは問題を起こさないでくれ。俺の仕事が増える」
そして、女王の後をついていくと、重力のない地面にある中央部分に大きな城があった。
「私はここで住んでいる、何か困ったことがあったら私を訪ねるといい」
「なんで……」
なんでほかの人達と一緒に壁の上に済まないのかと聞こうとすると。後ろの人に肩をつかまれた。聞くなってことか。なら、聞かないでおこう。この国で暮らす注意事項をほかにも何個か聞いて、城からでて、壁の上の中央部分、地上3キロにある旅人や武器商人用のホテルのようなところへと向かった。
「あまり、ステラ様のことは探らないでくれると助かる。あの娘はかわいそうなかわいそうな娘なのだ。まあなんだ、滞在中楽しんでくれ。目立った観光地とか特産品といえる特産品は君がさっき食べた果物くらいだ」
「さっきの果物はかなり気に入ったよ、あれはなんっていう名前なんだ?」
「プミラだ。また食べたくなったら持って行ってやるよ。運賃込みでな、はっはっは」
「有料かよ。あ、宿代とかはどうすればいい?」
「住むのにお金はとらねえよ、もともと、誰も住んでいなかった家を貸しただけさ。まあ、金を持っていないのなら、物々交換でいいさ、この国ではまだ物々交換をしている。ほんの数年前、海の向こうから大量の魔族が襲ってきて、この国はほとんど滅ぶ寸前だった。それを救ったのがあのステラ様だ。みんな親しんでいる。この国をここまで立て直したのはステラ様なのだよ。ただ……あの日から、あのお方はただ一人あの足が床につくこともできない城にひとりで住み、お前さんが来た時みたいにこの国を脅かす何かがないと出なくなった。食べ物はいつも村の手の空いた誰かや、向かい側の人が作った料理を運んで行ったりする」
それを聞いて、エリカを思い出す。ただ一人の知り合いもいない、たった一人であの城で暮らしている、あるのはせいぜい一部屋を埋め尽くすくらいの山のように積み重なっている禁じられた魔法の本や分解の魔法に関する本。寂しくはないのかと聞いても、「そんな時間はないわ」としか返事が返ってこない。
そう言えば、城下町ができても、みんなとは少ししか会話をしないな~エリカ、最近はシルビアとはよく会話をしているところを見かける時が多かった。
そして、この重力のない国での一日が始まった。
多分明後日にラスアサを更新します!




