第二章16 鋼の女王
様々な生き物が大地を駆け抜け、ドラゴンや妖精が宙を舞っている。そんな光景を、飽きずに彰はずっと空を移動する島で眺めていた。
「おっ! あの生き物まだ見たことがない! どんな生態をしているのだろう、ゲッ、なんか巨大なゴキブリがいる。気持ち悪っ」
エリカの城からはもうだいぶ長い距離飛んだだろう。次々と変わっていく景色の中で、少し気になるものを見つけた。空にまで届く巨大な円柱型の土壁、遠くから見てもかなり広い面積を覆っている。
彰は島から荷物を持ち飛び降りる。着地する寸前に風を操り、落下速度を遅めた。しばらく森の中を歩いていき、どんどんあの壁に近づいてくる。どこまでも広い円柱直径多分数キロにも及ぶ巨大な柱。
壁の中がどうなっているのかわからない、どこかに入り口でもあるのか、それとも、この円柱は中まですべて土でできているのか。
「前からひっそりと練習していたあれをやってみるか」
何時までも魔神の力を使うたびに暴走やら気絶やらするわけにもいかない、彰はアルンが消えた数年ただ落ち込んでいたわけではなく、二度とあんな悲劇を繰り返さないように魔神の力をコントロールできるように密かに練習をしていた、その成果が
「手の実体化はできるようになった。せっかくだ。この壁で試すか」
大きな手ではないが、元の手に鎧の手袋が纏った感じだ。その手を力こめて握り、思いっきり壁に殴り掛かる。すると、壁に大きなひびが入り、そしておかしな感じで崩れた。それは、まるで重力が無いようにふわふわとした感じで砕けた壁が中のほうへと浮いていく。
「誰だ!」
壁の内側から、武器らしきものを持った人たちが空中から降りてきた。
「やば、とりあえず身を潜めよう」
彰は急いですぐ近くの草むらに隠れた。そのあと壁の中から人がどんどん出てくる。そして、森の中から巨大なワームが現れた、粘液を残しながらあのうようよとした移動方法からは想像もできないようなスピードで壁の中から出てきた人たちに向かって大きな円形の口を開けて突っ込んでいく。すると、出てきた数人の中から鎧を着た美しい女性が一人歩き出し、背中にあった黄金の剣を引き抜き。
「地を這う龍よ、自分の居所に去るのです」
言葉の通じるかもわからない見にくいワームに語りかけても、泥を巻き上げ、岩石を弾き飛ばしながら襲っていくワームの勢いは全く衰えず。
「どうやら、警告を聞いてはくれないようですね」
そして、あの黄金の剣を地面に刺し、何やら呪文のようなものと唱え始める。
「大地に眠りし古き巨人よ、わが血の盟約に従い、わが最強の盾となりて、いでよゾイル」
唱え終わると、大地が次第に揺れ始め、剣の刺さった部分が急に膨れ上がり、次第に人型へと地面が姿を変えた。そして、その巨人……というよりゴーレムは女性の目前まで迫っていた人間なんて一口でぱくっと食べてしまいそうなくらい巨大なワームを片手でワシ掴みし、野球選手のようなフォームで力強く、そして高速でワームをはるか遠くへと投げ飛ばす。
それは、まるで大砲のように突風を巻き起こし、はるか遠くへとワームが森の向こうへと消えていく。それは、彰がこの世界に来て始めて実際に見る召喚魔法。某ゲームに出てくる召喚魔法は大地を操る巨人や津波を起こす水龍などが活躍していた。そして、召喚魔法が強いのはどうやらゲームの世界だけではないようだ。
この目の前での光景から伝わる感動はVR映像では絶対に伝わることのできない!
「そこでこそこそ隠れている人! 出てこい! さもなくば今すぐにお前をつぶし殺す」
どうやら、ばれているようだ。隠れていても仕方ない、彰はゆっくりと草むらから歩き出した。まだ日は沈んでいないからギリギリヴァンパイアとしてはばれない。
今の彰の姿はただの人間と変わらない、変わるとしても、瞳の色が赤なのか、それとも茶色かの違いぐらいでしかない。純血のエリカとは違い、眷属は目の色が昼間は人間と変わらず、夜になると目が赤く輝き、爪が少し伸びて尖ってくるくらい。対して、エリカは姿を女の子から女性へと姿を変えることができるが、銀髪と目の色が変わることはない。
「ちょっ、ちょっとまった! 今出る!」
「なんだ、魔力の気配がしたが気のせいか。おまえは誰だ?」
「え~と」
なんっていえばいい、魔都に行くなんて言ったら絶対に疑われる。それに、あの手に持ってる剣、あれはなんだか危険な気がする。うそつきは嫌いだ……嘘をつけばつくほど、嘘を重ねなければいけなくなり、そして、最後には必ずつじつまが合わなくなる。だが、今は仕方ない。
「え~、海のほうへと旅に行く途中で、このでかい壁が気になって近づいてみたらあの巨大な虫に襲われて、ここまで逃げてきたんです」
「旅人か、剣を背負っているところを見ると、お前も剣士か。いいだろう、これから日が暮れる、お前も今晩は私たちと来るといい」
「そうですか! 長い間旅をしていてくたくたで、やはり夜は危なくて。本当に感謝するよ」
「王よ、このようなどこの出かわからない人を国に引き入れるのですか?」
「いいだろう、こいつからは殺意も悪意も感じないもしそんな気があったら、すぐにこの剣が反応する」
「お邪魔するよ」
遠くに置いておいた荷物を持って壁の中に入って行く。そして、そこで見た光景は初めてこの世界に来た時と同じくらい衝撃的だった。
今週と来週テスト期間に入ってしまいなかなか書く時間がなくて、なるべく隙間時間に更新しますので是非これからもよろしくお願いします。




