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遠くから見ていた理想郷(エデン)で夢を見る  作者: †リオ†
第一章 異世界は思っていたものとは少し違った
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第一章1 ここは、どこだ、

「授業、つまらないなー」


 市立中学校の教室。

 少年・一ノ瀬彰は、外の季節以外は何も変わらない日常の風景を眺めながら、退屈そうに呟いた。


「じゃあ、この問題。優雅に風景を眺めてる彰、解いてみろ」

「x=3、y=5」

「……くっ、じゃあ次の問題……」


 そんなやり取りが、今日も変わらず繰り返されていく。


 起きたくもない時間に起き、朝食をとり、支度をして学校へ行く。

 授業が終われば、数少ない友人たちと昨晩見たアニメの話をしながら帰宅し、夕食を食べて塾へ行く。

 帰宅後に宿題を片づければ——ようやく退屈な時間は終了だ。


「よし! やっと自由だ!」


 彰にとって一番楽しい時間は、モニターの向こうにあった。

 空を舞うさまざまな姿のドラゴン。

 現実にはいない、いや“いてほしい”と思えるような魅力的なヒロインたち。

 飛び交う魔法。感情を持つかもわからない自律型ロボットや、ガ〇ダムのような巨大スーツ。


 アニメを見ていると、たとえ残酷な世界でも憧れを抱いた。

 ゲームでは、現実では一生手にしないような武器を手に、巨大な敵と戦うことができる。

 それはまさしく、彰の望む“理想の世界”だった。


「こんな彼女、三次元にもいないかな~……いても競争率高そうだよな、はぁ……」


 楽しい時間は、いつもあっという間に過ぎていく。

 時計を見た彰は、ため息をついた。


「もう寝る時間か」


 電気を消し、ベッドにもぐり込む。


 ——“力が欲しいか”。


 夢の中で、漆黒の鎧をまとった巨人がそう問いかけてきた。

 奇妙な夢を見た翌日、期末試験の結果が発表された。


 理系科目と英語は得意だった。

 数学と理科は好きだったし、ゲームで外国人と話すうちに英語力もついたおかげで、五百人いる進学校の中でも上位五十に入っていた。

 他の科目は……まあ、平均の±二十点をうろついている程度だ。


 そんな日々が終わり、ようやく夏休みが始まった。


 気温は高いが、熱帯ほどではない。

 ただし湿気がひどく、体感では+5度くらいに感じる。


 勉強の合間にアニメやゲームを楽しみ、友人たちとカラオケや劇場版アニメを見に行く。

 そんな夏休みが、もう半分を過ぎようとしていた。


 ——そしてある夜。


 モニターの見すぎで目が乾き、疲労を感じた彰は、気分転換に三日ぶりの外出をした。

 コンビニ帰りに立ち寄ったのは、自転車で二十分ほどの場所にある自然公園。

 夜風に吹かれながら、鈍った体を動かしていた。


 池のほとりを歩くと、満月の光に照らされた水面がいつもより高く見えた。

 池に映る月は大きく、周囲の草むらや木々の間には蛍が舞っている。

 月と蛍の光が重なり、幻想的な光景を作り出していた。


 その美しさに見とれた彰は、思わず池の水面に映る月へと手を伸ばした。

 ——その瞬間、映る月が“銀髪の少女”のように見えた。


「!?」


 冷たい衝撃とともに、視界が一瞬で闇に沈む。

 わずかに意識が遠のき、水の冷たさすら感じなくなった——。


 ……どれほど時間が経ったのか。

 肺に水が入り込み、喉の奥が焼けるような苦しさで、意識が戻る。

 反射的に息を吸いかけて——いや、違う。

 ここで息を吸えば死ぬ。

 彰は一瞬でそう判断し、苦しさをこらえて息を止め、冷静に上を目指して泳ぎ出した。


 満月が真上に昇る頃、湖面が青白く、まばゆい光を放つ。

 彰はかき分けるように水を蹴り、ようやく顔を水面から出すと、何度かむせながら岸を目指した。

 砂地に這い上がると、安堵と疲労が一気に押し寄せ——そのまま意識を手放した。


 ——次に目を覚ましたとき。


「ん~、(オエッ)くさ……」


 そう呟きながら目を開けた彰の眼前には、

 腐った肉と、歯を磨かないおっさんの口臭を混ぜたような悪臭を放つ巨大な牙を持つ虎のような獣がいた。


「ひっ!」


 声にならない悲鳴。

 彰は砂を掴み、獣の目に向かって投げつける。

 すぐさま駆け出したが、獣は虎の三倍はある巨体で、すぐに追ってきた。


 その咆哮を聞いた瞬間、足がすくむ。

 強者の声に、弱き者は本能で動きを止めてしまう——そういう話を思い出した。

 だが、人間である理性がわずかに働き、恐怖で足を震わせながらも再び立ち上がり、走り出す。


 必死に逃げても距離は縮まるばかり。

 心臓の鼓動が血管を通して顔まで響く。


 ——やばい。このままじゃ、俺はあいつの昼飯だ。


「? 急に……暗くなった?」


 次の瞬間、巨大な影が彰と獣を覆い尽くした。

 天から舞い降りたのは、空を覆うほどのドラゴン。


 一口で獣を噛み砕いたドラゴンは、ちらりと彰の方を視界に収めただけだった。

 まるで、そこに“何かがいる”ことを認識しただけのように。

 興味を示すこともなく、巨大な翼を広げて風を巻き起こし、そのまま天へと舞い上がっていった。


 その風にあおられ、彰の体は数メートル吹き飛ぶ。

 立ち上がった彼の視界に広がっていたのは——


 さっきのドラゴンたちが飛び交う大空。

 見上げれば、見慣れた月の五倍はありそうな星々。

 そして、物理法則を無視して宙に浮かぶ巨大な島々。


 そこに広がっていたのは、彼がいつも憧れていた、

 アニメやゲームで見た“ファンタジーの世界”そのものだった。

プロローグを読み終わってありがとうございます、引き継ぎお楽しみください。

もし面白いと思っていただければ引き続きどうぞ楽しんでください。なるべく早めに続きをかきます。

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